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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
5.「デスゲームの真相」編
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064 一時撤退

 立ち上がった能見たちは、アイザックを前に身構えていた。一触即発の空気が流れた。


 まともにやり合えば、能見ら四人に勝ち目はないかもしれない。総力戦を挑んでも穿てなかったオーガストの皮膚に、アイザックは容易く穴を開け、命を奪った。単純な攻撃力だけで比べるなら、彼はこちらを遥かに上回っている。


 そうした緊張の中、はたしてアイザックは肩をすくめた。


「いや、やめておこう」


 オーガストの亡骸を一瞥し、ゴキゴキと首を鳴らす。


「こいつを処分した時点で、俺が最低限やるべき仕事は片付いてる。下手にナンバーズとやり合うのが得策だとは思えねえ」


 だるそうな動作で、彼は能見を見やった。


「しかし、驚いたぜ。まさかお前らが、オーガストに匹敵するほどの力を発揮するようになるとはな。さすがはトリプルシックス、ってところか」



「そいつはどうも」


 怪訝そうに、能見が管理者を見返す。


「見たところ、俺と似たような力を持ってるみたいだな」


「まあな。俺もお前と同じく、ナンバー『6』の薬剤を自らに投与している。稲妻を操作できるのも、そのおかげだ」


 ジジ、と小さな音を立て、アイザックの手のひらの上で火花が躍る。


「オーガストの奴は四番の薬剤を使ってたようだが、俺に言わせればありゃハズレだ。近接戦闘には特化できても、応用が利かない。……っと、やっと到着か」



 倉庫の壁を突き崩し、なだれ込むようにして四つの人影が押し入ってくる。


 先頭に立つのは武智。先刻アイザックが口にしていた、ナンバー「4」の力を宿す者――トリプルフォーだ。おそらく、自慢の風の刃で壁を切り裂いたに違いない。


 彼に続き、菅井と唯、和子も倉庫内へ突入した。



「遅くなってすまんな。道中、ちょっとした邪魔が入ってもうた。……って、おわっ⁉」


 頭を掻き、アイザックへ謝罪しようとする武智。話している途中でオーガストの死体が目に入り、彼は恐れおののいた。


「おい、死んどるやないか。どうなってんねん」


「お前らが援護しに来るのが遅いから、やられたんだろうが」


 使えねえな、とアイザックが悪態を吐く。オーガストへ向けた言葉と同じく、冷酷な響きを伴う台詞だった。


「……ま、正確には俺がとどめを刺したんだがな。トリプルシックスたちに追い詰められ、尋問されて口を割る前に、二度と口を利けないようにしてやった」


「追い詰めたんか。こいつらが、管理者を」


 ぽかんと口を開け、武智がまじまじと能見たちを見る。


 その表情に驚愕だけでなく称賛も混じっていることを、アイザックは見逃さなかった。



 だが、あえて指摘することはしない。


「今日のところは一旦退くぞ。このナンバーズどもを始末するのは、後日、改めて作戦を練ってからだ」


 菅井たちに告げ、アイザックは一足先に離脱した。人間離れした速度で疾駆し、あっという間に倉庫から姿を消す。


「……そ、そういうことやから、覚えとけ。命拾いしたな、雑魚のくせに」


 はっと我に返り、武智も捨て台詞を吐いた。


「余計なことを言うな。行くぞ、お前ら」


 こめかみを押さえつつ、菅井が踵を返す。彼に連れられて、管理者への協力者たちはあっさりと撤退していった。「待って下さいよお」という和子の情けない声が、次第に遠のいていく。



 残された能見たちは、溜めていた息を吐き出した。長かった緊張が解け、疲労で倒れそうだった。


「オーガストから情報を得ることはできたけど、彼らの正体までは掴めなかったね」


 複雑な表情で、芳賀が呟く。


「何というか、一難去ってまた一難という感じだよ。これで少しは、板倉や愛海さんの無念が晴らせたなら良いんだけど」


「悩んでいてもしょうがない。俺たちは、前に進むしかないんだ」


 皆を励ますように、能見も口を開く。


「とにかく、敵が一人減ったのは事実だろ。前向きに考えようぜ」


「そうだね」



「……ていうかさ」


 頬を膨らませ、そこで咲希が提言した。


「あたし、そろそろ匠のこと助けに行きたいんだけど」


「あ、悪い。一瞬だけ忘れてた」


「はあ⁉ 忘れてたって何よ。ムカつく」


「冗談だって」


 能見とショートコントを繰り広げ、彼のことをポカポカ叩く。


「……まあ、いいわ。陽菜ちゃん、手伝ってくれる?」


「うん、いいよ」


 一応それで気が済んだのか、咲希は陽菜を伴って倉庫を出た。彼女の予知能力を頼りに、荒谷を探しに行ったのだろう。



「僕たちも戻ろうか」


「ああ」


 芳賀の言う通り、一難去ってまた一難だ。


 オーガストが散ってもなお、この街に閉じ込められているという現実は変わらない。何としてでも管理者を打倒し、能見たちは自由と平和を取り戻さなければらならないのだ。


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