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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
4.「新たなるナンバーズ」編
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056 スチュアートは命令する

「カメラの不具合は、まだ直らないのかい」


「相変わらずだ」


 スチュアートの問いに、真紅の皮膚を持つ怪人は不機嫌そうに首を振った。回転椅子を回して振り返った先は、しかし、深緑の怪人ではない。


「うんともすんとも言わないぜ。お前のせいじゃないのか、オーガスト?」


「……我に責任があると?」


 それまでモニタールームの隅で佇んでいた彼は、自分の名前が出たことに驚いていた。二人の口論は、両者の間でのみなされるものと思っていたからだ。



「そもそも、お前が妙な思いつきを口にしなければ、こんなことにはならなかったんだ。モルモットどもに干渉した結果が、このザマだぜ」


「彼らに干渉するのが最善だと考えられたから、実行したまでだ。あのまま放置すれば、モルモットは好き勝手にグループを形成し、徐々に争うことを忘れてしまう。それは我々の目的に適わない、最悪の事態だと思うが」


「……じゃあ、何だ? お前の言う最悪の事態ってやつは、今の状況よりましだとでも言いたいのか?」


 紅の怪人が目を細める。椅子から立ち上がった彼は、怒りを露わにしていた。


 つかつかと歩み寄り、鋭い爪のついた手でオーガストの肩を叩く。やけに乱暴で、脅すような叩き方だった。



「奴らは俺たちの存在に気づき、対抗手段を取り始めている。監視カメラが破壊されたのもその一つだろう。これも全て、お前が不用意に姿を見せたりしたからだ」


「それは、そうかもしれないが……」


 オーガストは口ごもった。「彼の言うことにも一理ある」と思ったがゆえに、強く言い返せなかった。


「しかもお前は、派手に暴れた割に大した成果を上げてないじゃねえか。出来損ないのサンプルを二体回収したはいいが、他はどうだ。トリプルナインたちを援軍にやったにもかかわらず、ナンバーズをことごとく取り逃がしやがって。無能にもほどがあるんだよ」



「ちょっと二人とも、やめなさいよ」


 そこへ、紺色の怪人が割って入る。オーガストともう一名を引き剥がし、喧嘩を止めさせた。


「過ぎたことはしょうがないわ。大切なのは、これからどうするか。そうでしょ?」


「……まあな」


 相手を睨んだまま、真紅の怪人は不服そうに唸った。


 対するオーガストは、沈黙を守っていた。否、何と弁明すべきか分からなかった。


 彼は今、非常にまずい立場に追い込まれていた。そのことは自身が一番良く理解していた。



「――オーガスト。君に最後のチャンスをあげよう」


 デスクチェアーから腰を浮かせ、スチュアートは言った。表情は穏やかだったが、なぜか底知れぬ恐ろしさを感じさせる。


 彼の肉体には、金属バンドによって複数の小型デバイスが取りつけられていた。両足首、両の大腿、腹部と胸部に二か所ずつ、両手首、二の腕――装着箇所は多岐にわたった。



 逆正三角形の形をしたそれが、ランプを赤く明滅させる。デバイスが光学迷彩を発動し、刹那、怪人の姿はかき消えた。


 そして次の瞬間には、スチュアートはオーガストの背後に立っていたのだ。ナイフのように尖った爪を背中に突きつけ、低い声で告げる。



「薬剤を追加投与して、モルモットを強制的に進化させてはどうか、と以前言っていたよね。私が許可を出すから、早く実行してくれないかな」


「……分かった。すぐに取りかかろう」


 鋭利な感触に、冷や汗が流れるのを感じる。オーガストは二つ返事で頷いた。


「賢明な判断だね」


 腕を下ろしたスチュアートは、元の声音に戻っていた。デスクへと戻り、すっと腰を下ろす。



「ただし、忘れないでほしい。今回の作戦には危険を伴う。貴重な薬剤を無駄遣いした場合、私たちの計画そのものに支障をきたす可能性もある」


「ああ。分かっている」


 もしオーガストが人間であったなら、恐怖のあまり鳥肌が立っていただろう。スチュアートからの命令は、事実上の最後通牒だった。


「くれぐれも私を失望させないでくれよ。今回に限って、失敗は絶対に許されない」


 そう言って、深緑の怪人は会話を一方的に打ち切った。装着した小型デバイスの電源が落とされ、ランプが消える。


 あとに残されたオーガストは、体の震えが止まらなかった。


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