051 トリプルセブン、復活
小型端末をサンプルへかざし、テーブルに横たわる肉体をスキャンしていく。パソコンに表示された数値を見て、深緑色の皮膚を持つ怪人は舌打ちした。
「前回のサンプルよりは、敏捷性にやや優れていたようだね。が、やはり完成形からはほど遠い」
回転椅子をくるりと回し、深緑の怪人――スチュアートが後ろを振り向く。硬質な皮膚、体に刻まれた三葉虫を思わせるライン。体色以外の特徴は、他の同胞とほぼ同じである。
薄暗い部屋の中には、モニターに映る戦闘結果を記録している怪人が二名。そして、今しがたサンプルを回収してきたオーガストが、スチュアートの側に立っていた。
「肉体変化には成功しているものの、一向に良質なサンプルが取れていない。しかも、そもそものサンプル数がまだ少ない。状況はあまり良くないな」
スチュアートが不満をこぼしても、オーガストは動じていない。彼はただ、テーブルの上の死体を見つめているだけだった。
「忘れたわけじゃないだろうね、オーガスト。君の役目は、質の高いサンプルを可能な限り多く集めることだ。……ナンバーズにも手こずっているようだし、もう少し急ぎたまえ。私たちに残されている時間は、あと僅かしかないんだよ」
「分かっている」
青く小さな目が、刹那、不安そうに揺れた。
「……スチュアート。予備の薬剤は、まだ残っていたか」
「あるにはあるが、それがどうかしたのかい」
「少し貸してくれ。モルモットへ追加投与し、強制的に進化させる」
オーガストの策は、少々急進的といえるかもしれない。スチュアートは意外感を隠さなかった。
「……下手な鉄砲も何とやら、か。サンプル数が増えれば当たりも増えるのは必然だが、穏やかじゃないな」
すると、モニターと向き合っていた真紅の怪人も、オーガストへ振り向いた。彼は嘲るような表情を浮かべていた。
「手柄を立てようと必死だな。滑稽だぜ」
「貴様は黙って見ていればいい」
紅の怪人をぎろりと睨み、オーガストが唸る。殺伐とした雰囲気になった二人を、紺色の皮膚を持った女性怪人がおかしそうに眺めている。
「まあまあ、そう熱くならないで。期待してるわよ、オーガスト」
「……任せておけ」
四人の管理者が話を続ける傍らで、愛海だったものは既に冷たくなり、何の言葉も発することができなかった。
オーガストらの協力者によって頭を撃ち抜かれ、彼女は数時間前に絶命していた。
あくる日、芳賀は改めて能見と陽菜を訪ねていた。
「無理しなくていいよ」
布団から起き上がろうとした能見を制し、彼はその側にあぐらをかいて座った。芳賀だって武智との戦闘で傷を負っているはずだが、仲間を思いやることは忘れていない。
「じゃ、お言葉に甘えて」
能見が上体だけを起こす。
「それで、話っていうのは何だ?」
「……あれからずっと考えていたんだけど、板倉と愛海さんが怪人化したときの条件に、共通点があると気づいてね」
深刻そうな顔つきで、芳賀は切り出した。
「共通点?」
「うん。一つには、二人に与えられたナンバーのことだ」
『「036」。三桁それぞれに別のナンバーを持つ者は、やはり耐性がないようだな』
「愛海さんを捕獲しようと現れたとき、オーガストはあんなことを言っていた。そして、板倉のナンバーは『564』だった。奇しくも愛海さんと同じく、三桁全てが別の数字だ」
顎に手を当て、芳賀が考え込む素振りを見せる。
「妙だとは思わないか? どうして彼は、サンプルの持つナンバーにこだわるんだろう」
「俺たちのようなゾロ目の被験者に対しても、『ナンバーズ』という呼称をよく使っていたよな」
何とはなしに呟いてから、能見は何かが閃くのを感じた。
「……そうか。被験者に与えられたナンバーは、単なる個体識別番号じゃないのかもしれない。番号の振り方に、きっと何らかの規則性があるんだ」
「なるほど」
陽菜がぽんと手を叩く。
「多分だけど、ナンバーによって、オーガストの言う『耐性』に差があるんだよ。それが弱い人は怪人になりやすくて、逆に強い人はなりにくいのかも」
「二人とも、ナイスアイデアだ」
突破口が開けたかもしれない、と芳賀が不敵な笑みを浮かべる。
いつもの調子が戻りつつあった。緻密な計画を立て、管理者へ臆せず立ち向かう英雄、トリプルセブンの復活だ。




