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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
3.「管理者の影」編
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039 二人は似た者同士

「話しすぎて病人を疲れさせないように」と気を遣いながら、三人は穏やかな会話を続けた。


「愛海さんは、この街に来る前は何をしてたんですか?」


 にこにこして、陽菜が聞いてみる。そして、自分語りをすることも忘れなかった。


「……あ、ちなみに私は、女子大の一年生だったんですよー。華やかで男の子にモテそうなイメージがあったので、文学部にしました。すごいでしょ!」



(いや、めちゃくちゃどうでもいい志望動機だな)


と、能見が呆れる傍ら、愛海は素直に感心していた。


「わあ、すごいです! 私、大学受験しなかったから、陽菜ちゃんのこと尊敬しちゃいます~」


 ピュアなのかアホなのか、いずれにせよ陽菜と似たようなタイプであることは間違いない。目をキラキラさせて、彼女は続けた。



「それで、えっと、私は専門学校で看護を勉強してて」


「わー、なんか難しそう! 大変そうだね」


 二人の会話を横で聞いていて、確信した。話のテンポやノリがほぼ同じなのだ。


「はい。あの、小さい頃から看護師になるのが夢で。苦しんでる人を助けたいな、って思ってたんです」


「えー、すごーい! めっちゃ立派だね」


 きゃあきゃあと楽しそうに話す二人は微笑ましく、能見も適当に相槌を打ちながら聞いていた。


 会ったばかりだというのに、三人はすっかり打ち解けていたといえるだろう。



 そんな調子であっという間に時間は過ぎ、気づけば日が沈もうとしていた。


「一旦部屋に戻って、シャワーでも浴びないか? ずっと付きっきりで看病しろと言われているわけでもないんだし、それくらいは許されるだろう」


「あ、それいいかも」


 陽菜は腰を浮かべかけたが、ふと愛海の方を見やる。


「愛海ちゃんも、そろそろお風呂入る?」


「そうしたいんですけど……」


 申し訳なさそうに、彼女はもじもじと身をよじった。


「体がしんどくて、起き上がるだけでも疲れるんです。だから、今日もやめておこうかなって」



「今日『も』?」


 別に突っ込まなくてもよさそうなポイントに、陽菜は突っ込んでしまった。自ら地雷を踏みに行ったようなかたちである。


「あっ、あのっ。その、違うんです」


 たちまち愛海は赤面し、細い腕で自分の体を抱きしめるようにした。


「昨日はもっとしんどくて、ずっとうとうとしていて。だから、ええと、起きることもお風呂に入ることもできなくて。……ううっ、男の人にこんなこと聞かれるの、恥ずかしいです」


「いや、無理に話さなくてもいいからな⁉」


 気まずい空気が流れる中、能見は至極当然のことを言うのが精一杯だった。



「じゃあ、私が一緒にお風呂入ってあげる!」


 よし、と何かを決意し、陽菜が出し抜けに立ち上がった。ててっと部屋から出て行き、バスタオルと着替えをもって戻ってくる。


「お待たせ、愛海ちゃん。洗うの手伝うよ」


「い、いいんですか⁉」


 愛海は感動して、陽菜のことを見つめていた。体力を失っている彼女にしてみれば、サポートをしてくれる人がいるのはとても助かるのだろう。



 ただ、能見はあまり賛成できなかった。いそいそとバスルームへ向かおうとする二人を呼び止める。


「ちょっと待ってくれ、陽菜さん。愛海さんはまだ熱があるんだぞ。あまり体に負担をかけさせるべきじゃない」


 風呂に入れば体力も使うし、湯冷めして体調を悪化させる可能性もある。ゆえに、彼は反対したのだが。



「でも、二日も入らないのは衛生的に良くないと思う」


「まあ、それはそうだけど……」


 陽菜の主張も分からなくはないし、何よりデリケートな問題だった。能見はしぶしぶ入浴を認めた。



「あ、そうだ」


 ユニットバスへと姿を消す直前、陽菜が思い出したようにこちらを振り返る。愛海は既に、中で着替えているようだった。


「どうしたんだよ。まだ何かあるのか」


「……覗かないでね」


 それじゃ、と悪戯っぽく笑い、彼女は扉を閉めてしまった。


 言われなくても分かってるよ、と能見は独り言ちた。そんなことをしたら殺される。



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