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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
3.「管理者の影」編
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035 オーガストの警告

「能見くん、大丈夫?」


「ああ。何とか生きてるぜ」


 隣から、ひょこっと心配そうに覗き込まれる。陽菜に応じ、能見は無理に笑顔をつくった。


 彼女が無事でいてくれて何よりだった。もし荒谷たちの援護が間に合っていなかったら、能見は一生、自分を責めることになったに違いない。



 自分たちだけでは、管理者に太刀打ちできなかった。けれど、能見は一人じゃない。陽菜や芳賀、荒谷や咲希、仲間たちに支えられて戦っている。


 今は、彼らの健闘を祈るしかない。


 ところで芳賀は何をやっているのだろう。荒谷たちと一緒にいないということは、あの後部屋に戻ってきたわけでもなさそうだ。



(どこに行ったんだよ、芳賀。早く来てくれ)


 じれったい思いで、二人はやや離れた位置から荒谷と咲希の戦いぶりを眺めていた。


 途方もない数の光弾が降り注ぐ様は、戦闘機による空襲をイメージさせる。下手に近づこうものなら、能見たちも巻き込まれかねなかった。



(……ここまで撃ちまくったのは、ずいぶん久しぶりだな)


 空中に静止したまま、荒谷は咲希とともに、爆風が吹き荒れる地上を見下ろしていた。能力を連続使用したためだろう、息が乱れている。



(どんな相手だか知らないが、さすがに無事ではすまなかったんじゃないか?)


 何と言っても、数十発の破壊光弾を打ち込んだのだ。普通の人間ならとっくに爆死しているはずだし、特殊能力を持っていたとしても、そう長くは持ちこたえられないはずである。


 しかし、今回の敵は人間ではなかった。爆風が薄れ、明らかになった視界に映るものを見て、荒谷は驚愕していた。



「……馬鹿な⁉」


 左右の爪を高速で振るい、光弾を薙ぎ払い、叩き落とす。その正確な繰り返しにより、オーガストは無傷で立っていた。


 黒の怪人は二人を見上げ、にやりと笑ったようだった。人間とは異なる、歪で不気味な笑顔だった。



「当たらなければ、どうということはない」


 そう言い放ち、オーガストは地面を一蹴りした。高く跳躍し、一瞬でアパートの屋上へ到達する。


 さらに屋上の床面を蹴り、ぐんと跳び上がる。信じられないほどのジャンプ力を発揮し、彼は荒谷たちと同じ高さまで追いついていた。すかさず、オーガストが右腕を振るう。



 何が起こったのか、荒谷はすぐに理解できなかった。次の瞬間、儚げな悲鳴が響く。


 隣に浮かんでいたはずの人影が、力を失って落ちていく。荒谷は無我夢中でその後を追い、飛んだ。


「――咲希!」


 地面へ激突する寸前で、どうにか彼女の体を抱き止める。荒谷の腕の中で、咲希はぐったりして目を閉じていた。



「しっかりしろ。おい」


「……匠」


 うっすらと瞼が開かれる。弱々しい笑顔を浮かべた咲希は、脇腹から大量の血を流していた。先刻、空中で交差した際に、オーガストの爪で斬りつけられたに違いない。


「ごめん。あたし、油断しちゃってた」


 苦しげに体を震わせる彼女を前に、荒谷の中に怒りの炎が燃え上がっていた。恋人を傷つけたオーガストだけは、絶対に許さないと思った。



 音もなく着地し、怪人がカップルを一瞥する。咲希を斬ったことに、彼は良心の呵責を微塵も感じていないようだった。


「次は貴様だ」


 荒谷にも襲いかかろうとしたオーガストへ、一発の銃弾が迫る。ぱっと振り向き、さすがの反応速度で彼は弾をはたき落とした。



「……皆、遅くなってすまない」


 怪人へ拳銃を向けたまま、芳賀がゆっくりとこちらへ歩いてくる。新たな敵の出現に、オーガストは身構えた。


 能見と陽菜はまだ戦える状態だし、荒谷も闘志を燃やしている。そこに芳賀が加わり、実質的に戦いは四対一の様相を呈していた。



 四人を見回し、オーガストはため息らしきものを漏らした。


「この人数の『ナンバーズ』を相手取るのは、さすがに分が悪そうだ。今日のところは退くとしよう」


 油断なく、射抜くように能見たちを睨みつける。彼の視界に映っているのは、人間ではなく実験動物であった。



「……これが最後の警告だ。お前たちが率いているグループを解散し、この街を原初の混沌へと戻せ。グループが形成されて争いが減っている現状では、優秀なサンプルを回収できない」


 オーガストは片手を挙げ、自分の首をかき切るようなジェスチャーをした。「警告に従わなければ、貴様らの命はない」ということなのだろう。


 メッセージを伝え終えると、彼は再び跳躍し、アパートの屋根伝いに逃走していった。


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