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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
3.「管理者の影」編
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029 聞き込み調査

 アパートの一階に集められていたのは、三名の男たちだった。


「案内、ご苦労様」


 スキンヘッドの部下をねぎらい、見送ってから、芳賀が彼らへ視線を向ける。


「さっそくだけど、板倉のことについて聞かせてもらいたいな」



 板倉が化け物へ変貌し、暴れた事件から数日が経つ。事件の真相を追うべく、芳賀は自分なりに調査を進めていたのである。


 部下に命じ、この場所に集めたのは、板倉と交流が深かった者たちだった。


 ちなみに、能見たちには板倉のことをまだ伏せてある。もう少し確かな情報が集まったら、改めて話すつもりだった。



「彼がどんな能力を持っているか、知っている人は?」


「パンチ力を高められる、とか言ってた気がします」


 リーダーと面と向かって話し、緊張しているのだろう。モヒカン頭の青年が、慎重に発言する。


「でも、そんなに強い能力でもなかったみたいですよ。『飛び道具を使った方が効率がいい』とも言ってましたし」


「なるほどね」


 部下の言葉に耳を傾けながら、芳賀は考え込んでいた。



 思えば、最初に自分へ挑んできたときも、能見たちと交戦したときも、彼はもっぱらナイフや銃を使っていた。


 いくらパンチ力を強化できたとしても、その射程はきわめて短い。より広い範囲に対応でき、威力も申し分ない武器に頼るのは自然なことだった。能力の低い被験者にとっては、常套手段ですらある。



「板倉のナンバーを覚えている人はいるかい?」


「確か、『564』でした」


 短髪の筋肉質な男が、手を挙げて答える。「何の変哲もないナンバーだ」と芳賀は思った。



 どういうわけかは分からないが、自分や能見たちのように、ゾロ目の数字を持つ者は飛び抜けた力を発揮できるようだ。しかし、板倉のナンバーは三桁全てがバラバラで、法則性の欠片も見出せない。


 話を整理しよう。板倉の力は微弱で、また、肉体を変化させるようなものでもなかった。彼に与えられたナンバーも、ありふれたものである。


 ここから導き出される結論は、何か。



(……やはり板倉がおかしくなったのは、能力の暴走によるものではない)


 今や芳賀は、確信していた。


(この街に連れて来る前、管理者は、僕たちの体に何か細工をした。そして板倉は、その最初の犠牲者になったんだ。そうとしか考えられない)


 いまだ姿を見せない管理者への怒りが、ますます強くなった。



 けれども部下の手前、彼らを不安がらせるようなことはしない。落ち着き払った顔で、芳賀はさらに質問を重ねた。


「そうか。……あと、彼が怪人に変わる前、何か前兆のようなものはなかったかな? たとえば、少し様子がおかしかった、とか」


「前兆って言えるのかは、分からないんすけど」


 短髪の男性は、首を傾げた。


「板倉さん、何だか苦しそうでしたよ。暑い、暑い、って繰り返し言って、水道水をがぶがぶ飲んでました」



「そうそう。変だったよなあ」


 丸眼鏡をかけた青年も、調子を合わせる。気味悪そうに顔をしかめ、声を落とした。


「別に、気温が急に高くなったわけでもないのにさ。どうしちゃったんだろうって思ってたけど、まさか化け物になるなんて」



『さっきから、腹が減ってしょうがねえんです。どうも体が熱くって、冷たいものを取らねえと死にそうだ』


 ウィダーゼリーを貪りながら、板倉はこのようなことを言っていた。集めた三人の証言は、板倉の言葉とも一致していた。



「ありがとう。参考になったよ」


 そこで質問を切り上げ、芳賀は踵を返した。彼にはまだやることがある。


「板倉と似たような症状が出た者がいないか、念のために探してみよう。もしかすると、感染性のウイルスのようなものかもしれないからね」


 振り返らず、三人に向けてひらひらと手を振る。歩き去っていくリーダーへ、彼らは姿勢を正して一礼した。


「了解っす。俺たちの方でも、体調不良者がいないか探してみます」


 そして、芳賀とは逆方向に向けて走っていった。


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