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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
3.「管理者の影」編
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028 爆弾発言

 沈黙は不意に破られた。


「……あ、そうだ! 自己紹介しましょうよ。せっかく仲間が増えたんですし」


 ぽんと手を叩き、陽菜が明るい声を出した。天然なのか、場を盛り上げようと頑張っているのか、能見には分かりかねた。


「私は花木陽菜です。ここに来る前は、都内の女子大に通ってました。あとは……ええと、文学部の一年生で、第二外国語はドイツ語を履修してました。こっちに来てからは、予知みたいな能力が使えたりします。よろしくお願いします!」


 にっこり笑い、ぺこりと一礼。



 多分、何を話そうか考えながら、ほぼアドリブで話したのだろう。つっかえ気味の自己紹介ではあったが、一生懸命なのは伝わってくる。


 そんな彼女の様子に、荒谷たちも緊張が解けたようだった。


 昨日まで敵だった者たちの本拠地へ招かれ、神経をとがらせていたのかもしれない。フレンドリーそのものな陽菜の対応は、好印象だった。



「荒谷匠だ。こっちに来る以前は、経営学部の一年生だった。よろしく頼む」


 手短に自己紹介を終えた彼へ続き、咲希と能見も流れに乗った。


「綾辻咲希、理工学部一年よ」


「俺は能見俊哉、法学部一年だ。これからよろしくな」


 結果的に、陽菜だけがやけに情報量の多い自己紹介になってしまった。本人がさほど気にしている風でもないので、構わないけれども。



 会話が途切れないよう、彼女は次の話題を振る。


「気になってたんですけど、お二人はどうやって出会ったんですか?」


「……簡単なことさ。彼女が喧嘩を売ってきて、俺が買った。で、俺が負けたんだ」


 照れたように頭を掻き、荒谷が答えた。


「街で目覚めてからというもの、俺は負けなしだった。だが唯一、俺の能力を真似て、しかも増幅できる咲希にだけは勝てなかった」



「咲希さんはそのとき、荒谷の命を取ろうとは思わなかったわけか」


 能見が口を挟むと、咲希はやや膨れて言った。


「当たり前でしょ。元々、人を殺すのには抵抗があって、あたしは誰も殺してないし。……第一、こんな国宝級の可愛い系イケメンを手にかけるなんて、天が許してもあたしが許さないわ!」


「お、おう。まあ、幸せそうで何よりだ」


 引き気味に能見が頷く。荒谷とじゃれ合い始めた彼女を、止めることはしない。



 恋人のことを過大評価しているように思えたからではなく、咲希のあまりのテンションの高さに驚かされたからだ。いわゆる、「限界オタク」に通ずる何かを感じる。


 荒谷が国宝級のイケメンかどうかはともかく、彼らが人を殺していないことには安心した。この極限状態に置かれても、荒谷と咲希は理性を失うことなく戦っている。



「ていうか、あたしも前から気になってたんだけど」


 ふと、咲希は真顔になって尋ねた。


「あんたたち二人って、どういう関係なわけ?」


「……へっ?」


 予想していなかった質問に、能見は目を瞬かせた。


「あたしと戦ったときも、なんかベタベタしてたじゃない。体をぴったりくっつけて、手を繋いだりしてたように見えたけど」


「いや、あれは違うんだ」



 誤解である。別にいちゃいちゃしていたわけではなく、陽菜の予知能力でサポートしてもらっていただけだ。


 そう弁明しようとした能見を遮り、陽菜は言う。


「ごめんね、能見くん。私があんなことしたばっかりに、変な風に思われちゃって」


 しょぼんと肩を落としたかと思えば、何かを決心したように「よしっ」と呟き、小さくガッツポーズ。忙しい奴だ。


「おわびに、二人には私がちゃんと説明しておくから」


 わけもなく嫌な予感がした。間もなく、能見の勘は的中する。


「……あの、能見くんと私は、付き合ってるわけじゃないです。ここに来たときに同じ部屋で目が覚めて、一緒に暮らしてるだけですから!」



 陽菜はいたって大真面目だった。しかし、後半の台詞が致命的なほどに余計である。能見は頭を抱えたくなった。一体、どこまで天然なのだ。


 これでは、さらなる誤解を招くだけである。


「……え、じゃあ、同棲してるってことよね?」


 咲希がぽかんと口を開ける。


「それってつまり、付き合ってるようなものじゃないの?」


「違います!」


「違うって」


 陽菜と能見の声が重なった。はっと顔を見合わせ、二人が恥ずかしそうに笑う。



「……本当か?」


 能見たちが今までにどんな時間を過ごしてきたのか、荒谷たちは知らない。ただ、仲のよさそうな二人を半信半疑で見つめるばかりだった。


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