027 新たな仲間
翌日の昼過ぎ、五人は芳賀の部屋へ集まっていた。
能見と陽菜、そして芳賀の三人でも手狭だった部屋は、荒谷と咲希を加えるとさらに窮屈になった。だが、会議室のような広い部屋がないのだから仕方ない。
五人が円を描くように座ると、芳賀が口火を切る。
「まずは、荒谷と綾辻に礼を言っておこう。僕たちに協力すると決めてくれて、感謝しているよ」
「礼には及ばない。俺たちとしても、仲間は多い方が心強いしな」
前髪をかき上げ、荒谷が気だるそうに答える。その飾らない仕草に、咲希は「やだー匠、かっこいい」と惚気ていた。
彼女を一旦スルーして、芳賀は続けた。
「能見たちから話は聞いている。街の外が海原だというのは、確かに驚くべき事態だ。けど、だからといって脱出する方法がないわけじゃない」
「どういうこと?」
咲希が怪訝そうな顔をする。
「だって、船もボートもないのよ。それに私たちには、外部との通信手段も与えられてないじゃない。戦いに勝ち残って、上位百名に入る以外の方法があるっていうの?」
「あるぜ」
ここで、能見も発言した。
「街の管理者と交渉して、俺たちをここから出させればいい。そのために俺や陽菜さん、芳賀は動いてるんだ」
「グループの勢力範囲を広げて街全体を掌握し、かつ、構成員同士での争いを禁じる。そうすれば、海上都市で被験者が殺し合うことはなくなる。管理者は実験の目的を達せられなくなり、彼らの計画を潰せる。……と、まあ、大体こんなところさ」
道のりはまだまだ長そうだけどね、と芳賀は肩をすくめた。
「つまり、管理者の思惑通りにデスゲームを進めさせず、ストライキめいたことをするわけだね。そして、僕たちの要求を向こうに呑ませる」
「なるほど。悪くなさそうなアイデアだが、二、三疑問が残るな」
顎に手を当て、荒谷が呟く。
「仮にストライキを決行したとしても、主導権を握ってるのは管理者だ。その気になれば、あいつらはこの街のライフラインを止められるんじゃないか。食料の供給を絶たれることも考えられる。最悪、被験者が飢餓状態に陥るぞ」
「いや、多分それはないよ」
芳賀は穏やかに首を振った。その可能性については、彼も検討済みだった。
「もしそんなことをしたら、彼らが実験に投じた巨額の費用がほとんど無駄になる。管理者の目的は、強く優秀な被験者を選別することだ。皆飢え死にしてしまったら、データも何も取れないに違いない。そうならないよう、向こうも何かしら手を打つはずだ」
考えてみれば、途方もないスケールの話である。
海のど真ん中に小都市を建設し、そこへ拉致してきた千人の男女を放り込む。最低限の生活空間と食料とを与え、電気・ガス・水道といったライフラインも整備してやる。能見たちには想像もつかないほど、多額の資金が使われているのは明らかだった。
「そうか」
束の間瞑目し、荒谷は顔を上げた。能見ら三人を見回し、やがて頷く。
「街の秘密を知って以来、俺と咲希は現実に打ちのめされていた。ここから出ることは不可能なんだと諦め、自分たちの不幸を嘆いていた。……けれど、あんたたちが教えてくれたよ。まだ希望はあるって」
すっと差し出した右手で、能見、芳賀、陽菜の順に握手を交わしていく。
「改めてよろしくな。一緒に戦うぞ」
「おう」
その手を強く握り返し、能見はにっと笑った。
新たな仲間を得て、彼らの物語が加速する瞬間であった。
ドンドン、と玄関ドアが二度叩かれる。返事をする間もなく、スキンヘッドの男が入室した。
「トリプルセブン様、例の件ですが……」
「ああ、分かった。あの倉庫だね。すぐに行くよ」
芳賀が腰を上げ、申し訳なさそうに四人を振り向く。
「すまない。ちょっと待っていてもらえるかな」
「全然構わないぜ」
二つ返事で能見が答える。
能見たちが芳賀の率いるグループに参加してもなお、実質的なリーダーは彼のまま据え置かれている。部下を統率し、雑務もこなす芳賀には、助けられることも多い。
「例の件」とは何なのか気になったけれども、芳賀は部下を連れ、足早に部屋を出て行ってしまった。残された能見たちは、少々手持ちぶさたになる格好だ。
ドアが閉まり、一瞬、部屋がしんと静まり返る。




