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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
2.スリー・アンド・ツー編
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024 頭脳戦

「おめでとう。正解よ」


 ぱちぱちと手を叩き、咲希はからかうような笑みを向けた。


「でも、ちょっとだけ違うわ。あたしは対象の能力を再現し、なおかつ、その効力を増幅できるの。もっとも、相手の持っている力が分からないと使いづらいんだけどね」



「……なるほど。そういうことか」


 芳賀が気落ちしていた理由をようやく理解し、能見は彼へ向き直った。


「お前、俺たちと戦ったときに懲りたんじゃなかったのかよ。調子に乗って自分の能力をべらべら喋るから、あのときは負けたんじゃないのか」



『当然さ。僕の回避能力を攻略できる者なんて、そういないからね』


 先刻、芳賀がこの発言をしてさえいなければ、咲希は彼の能力が何なのか知るよしもなかっただろう。ゆえに、力をコピーされることもなかった。


 彼の不用意な発言が、墓穴を掘ることになったのだ。



「う、うるさい! あれはレアケース中のレアケースだ。むしろ、君たちやトリプルツーの能力が異例すぎたと言うべきだろう。僕のせいじゃない」


 戦闘中であるというのに、意地を張り合い、むきになる二人。「戦闘中にクイズかよ」と咲希を笑える立場ではない。



 その間に割って入ったのは、陽菜だった。


「……もう、二人ともしっかりしてよ。今は喧嘩してる場合じゃないでしょ」


 むうっと頬を膨らませた彼女に睨まれると、能見は何も言えなくなってしまった。ごめん、と短く謝り、敵へと意識を向け直す。



 確かに、能力をコピー・増幅するのは強力だ。けれども、咲希の戦いぶりを肌で感じながら気づいたことがある。


 芳賀の回避能力を使っている間、彼女は荒谷の力を一度も使わなかった。空を自由自在に飛び回ったり、手から破壊光弾を放ったりという技は見せなかった。というより、多分できなかったのだろう。



(多分、一度にコピーできる能力は一つだけ。俺の仮説が正しければ、今の彼女は、回避能力以外の力を使えないはずだ)


 それなら突破口を開ける。陽菜の力を借りて攻撃を先読みし、能見が紫電を見舞ってやればいい。芳賀を倒したときと同じ要領だ。



「……何をごちゃごちゃと揉めてるの? いい加減、力の差を理解しなさい」


 だが、能見の心を読んだかのように、咲希は再び荒谷の力をコピーした。靴のつま先が地面を蹴ると、ふわりと体が浮き上がる。


 瞬時に二十メートルほどの高さまで上昇し、彼女は冷たい目でこちらを見下ろした。


「たとえどんな敵が相手でも、あたしはそれをコピーし、オリジナル以上の威力を発揮できる。あたしの能力が分かったところで、あんたたちに勝ち目はないわ」



 相手を上回るパワーで叩き潰す。それがトリプルツー、綾辻咲希の戦い方なのだろう。荒谷が「あいつには勝てない」とこぼしていた理由もよく分かる。


 ならばこちらも、持てる力の限りで迎え撃つまでだ。


 咲希がコピーできるのは、一つの能力だけである。三人の力を一つにすれば、増幅された能力にも対抗できるかもしれない。



「陽菜さん」


 仲間たちへ振り向き、能見は素早く指示を飛ばした。


「あいつに雷を当てるために、照準補助を頼みたい。できるか?」


「うん。任せて」


 陽菜がこくこくと頷く。



「ええと、芳賀は……」


「せいぜい拳銃で援護するよ。僕にできるのは、回避だけだからね」


 ふてくされたような顔で、芳賀はぼそぼそと言った。次から次へと回避能力を破れる敵に遭遇し、彼のプライドはかなり傷つけられたらしい。


「そうか。分かった」


 拳銃程度でどこまで戦えるかには、疑問の余地がある。しかし、能見は彼の心中を慮り、あえてツッコミを入れなかった。



 ひとまず役割分担を決め、反撃を開始する。能見が拳を振るい、稲妻を放つ寸前、陽菜が叫んだ。


「能見くん、もうちょっと左!」


「……お、おう。こんな感じか⁉」


 とっさに腕の角度を修正し、雷の軌道を変える。撃ち出された紫電は、咲希のやや右を通り抜けていった。


「だから、もっと左だって!」


「そんなこと言われても、指示が曖昧で分かりづらいんだよ」


 もっとこう、「左に三十度」とか言ってもらえたら、狙いを定めやすいのだが。能見は困ったように頭を掻いた。


 むむう、と陽菜がまた頬を膨らませる。



「無駄よ。あたしのスピードに、あんたたちが追いつけるはずもない」


 そうしているうちにも、咲希は猛攻を仕掛けてくる。両手から真紅の破壊光弾を連射しつつ、螺旋を描くようにして徐々に高度を上げた。


「これで終わりよ。あたしと匠にたてついたことを、あの世で後悔するがいいわ!」


 勝ち誇った声が、天から響いた。


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