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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
2.スリー・アンド・ツー編
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019 共同戦線

「今の僕たちに必要なのは、情報だ。管理者とは誰なのか、彼らはどこにいるのか――そういった諸々の情報が、致命的に足りない。そこで、トリプルスリーこと荒谷の力を借りたいと思う」


「情報を集めたいっていうのは分かった。でも、それと荒谷を仲間にすることがどう関係するんだ?」


「僕が欲しいのは、荒谷の飛行能力さ。彼の力があれば、街を一望し、その構造を把握できるかもしれない」


 能見の問いに、芳賀はよどみない口調で答えた。



「今現在、この人工都市の各所には僕らのようなグループが存在し、勢力争いを繰り広げている。したがって、未制圧のエリアへ不用意に踏み込むのは危険で、街の全体像を把握するのは容易ではない。だけど、空を飛ぶ力があるなら、話は別さ」


「なるほど」


 感心したように、陽菜がぱちぱちと拍手する。


 数日前までは芳賀と死闘を繰り広げていたというのに、もう水に流したのだろうか。だとしたら、器が大きいというか、大したものだと思う。



「ひょっとしたら、上から見渡すことで管理者を見つけられるかもしれませんしね。私、賛成です」


「俺も異論はないぜ」


 芳賀のアイデアは筋が通っていた。ゆえに、能見も反論しなかった。


「それで、荒谷と交渉しに行くのは誰になるんだ」


「決まってるだろう。僕たち三人だよ」



 けれども、続く言葉はやや予想外だった。


「……え?」


 驚く能見たちに、芳賀は淡々と事実を述べる。


「いや、僕の方でも色々考えたんだけどさ。荒谷と交戦することになった場合、空を飛べる相手に対して、確実に攻撃を当てられるのは誰かって。そうしたら、君たち二人しか浮かばなかった」



 能見の放つ電撃と、陽菜による照準補助。荒谷の戦闘スタイルがどういうものかは不明だが、飛んでいる敵を撃ち落とすのなら、これ以上ないタッグだろう。射程も威力も十分すぎるほどだ。


 逆に言えば、彼の部下では力不足ということか。いずれにせよ、芳賀に信頼されているというのは悪い気分ではなかった。



「仕方ないな。引き受けてやるか」


 隣に正座する陽菜を見やると、彼女も元気いっぱいに頷いた。


「うん!」


 かくして、三人は初めて共同戦線を張ることになった。



「作戦の説明も終わったことだし、移動しようか。鉄は熱いうちに打て、だ」


 出し抜けに芳賀が立ち上がる。どうやら、もう荒谷のところへ向かうつもりらしい。


「急いては事を仕損じる、とも言うぞ」


「うるさいな、君は」


 軽口を叩いた能見を、彼は不快そうに見た。


「辺りが暗くなる前に、奇襲をかけた方がいいのは確かだよ。何せ、相手は空を飛べるという噂だ。夜に紛れて逃げられたら、たまったものじゃない」


「まあ、それもそうか」



 芳賀の言うことにも一理ある。黙り込んだ能見に対し、陽菜はきらきらした目で芳賀を見つめていた。尊敬の眼差し、というやつである。


「芳賀さんってすごいんですね。色んなことを計算に入れて、緻密に作戦を練り上げてるって感じがします。私、ちょっと見直しちゃいました」


 それから、何か思い出したように付け加える。


「……あ、今までは正直、嫌な人だなーって思ってましたけど」


「一言多いんだよ、君は」


 はあ、と大げさにため息をつき、芳賀は玄関へ向かった。スニーカーを履き、さっさと外へ出る。



 すれ違いざまに、彼は能見へ一瞥をくれてやった。その瞳には様々な感情が映っていた。


(君は、こんなに頭の悪そうな女と一緒に住んでいるのか。僕の世話人の女もずいぶんポンコツだけど、彼女には及ばないな)


 そんなことを思っていたのかもしれない。しかし、能見は芳賀の思惑には気づいていなかった。


(……馬鹿だな、俺。何を変に意識してるんだ)


 陽菜が芳賀を褒めちぎったことで、彼はやきもちのような感情を抱いていた。



 護衛はつけず、三人だけで出発した。


 荒谷が潜伏しているとされる場所は、正方形の街の中央部。トリプルセブンのテリトリーを離れ、いくらか歩く必要があった。


 まだ陽は高く、日差しが眩しい。敵が潜んでいないか周囲を見回しながら、能見たちは用心深く進んだ。



「聞くところによると、荒谷は非好戦的な性格らしい。自分からはほとんど動かないが、たてついてきた奴は容赦なく叩きのめす。要するに、自衛のための戦いしかしないそうだ」


「俺と陽菜さんみたいだな」


 芳賀の話に、能見は適当に相槌を打った。


「それにしても、トリプルセブンの次はトリプルスリーか。ゾロ目のナンバーの奴ばかりが、妙に幅を利かせてるんだな」


「君が言っても説得力がないよ、トリプルシックス」



 やや冗談めかしたやり取りではあったものの、能見は気がかりだった。


 もしかすると、被験者へのナンバーの割り振り方には、何らかの法則性があるのではないか。自分たちが比較的強い力を持っているのも、その法則と関係しているのではないだろうか。


 考えすぎか、と能見が首を振る。今はとにかく、迫っている戦いに意識を集中させるべきだ。


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