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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
2.スリー・アンド・ツー編
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018 トリプルスリーを探せ

 もし芳賀が自分たちを倒すつもりなら、群がっていた男女をあえて無力化することはしなかったろう。


 こうして語りかけるのでなく、不意打ちで襲ってきた可能性もある。あくまで話し合いが目的であることは、容易に理解できた。


 「力を貸してくれると助かる」と言って、別れたのが昨夜だ。どうやら芳賀は、こちらの提案に乗るつもりになったらしい。



「上から目線なのが気に食わないけど、手を組むことに異存はないぜ」


 むっとして芳賀を睨みつつ、能見は応じた。


「でも、驚いたな。一体どういう風の吹き回しだ?」


「……まあ、色々あってね。気が変わったのさ」


 芳賀の表情が、僅かに曇る。


 能見たちには知るよしもなかったが、板倉の一件で、彼は管理者を倒す必要を感じていたのだった。



「ともかく、僕は君たちと協力関係を築きたいと考えている。管理者を攻略したいという気持ちは同じだ」


 悪くない話だろう、と芳賀は続けた。


「君たちを僕のグループに引き入れれば、新戦力として大いに期待できる。君たちとしても、管理者を倒すべく行動を起こす中で、使える駒は多い方がいいはずだ」


「そうは言ってもな」


 二人からすれば、芳賀が急に考えを変えた理由が分からない。すぐに信用しろというのは無理だろう。



 判断に困り、能見は陽菜と顔を見合わせた。ややあって、彼女が頷く。


「能見くん、これはチャンスだと思う」


 今のまま芳賀たちのグループと対立していても、自分たちにメリットがないのは確かだ。彼らはこの周辺を支配下に置いており、能見らが動けばその都度妨害してくる。芳賀を味方にできるのなら、心強い限りだった。


 何より、先刻、野次馬を片付けてくれたことが決め手となった。昨日まで敵対していた自分たちを、芳賀は危機から救ったのだ。



「……分かった。一応、信じることにする」


 陽菜から芳賀へ視線を移し、能見は慎重に言った。


「ただし、変な様子を見せたりしたらぶん殴るからな」


「そういうのを、杞憂って言うんだよ」


 肩をすくめ、トリプルセブンは告げた。


「それはさておき、今後のビジョンについて話し合う場を設けたいな。明日の午前中でいいかい?」



 芳賀からの指示に従い、翌朝、二人は部屋を出た。


 向かいの通りにあるアパートのうち、外壁に十字型の焦げ跡がある建物。それが指定された場所だった。


 十中八九、先日放った雷が当たったのだろう。能見は何となく、申し訳ない気持ちになった。


 アパートの中へ通されても、トリプルセブンの部下たちは乱暴を働いてこなかった。彼らなりに礼儀正しく振る舞い、能見と陽菜を案内した。


 芳賀が自分たちと手を組むというのは、やはり嘘ではなかったらしい。以前戦ったのは夢だったかのようで、今の彼らからはまるで敵意が感じられない。



「やあ、早かったね」


 スキンヘッドの男に導かれ、部屋に通される。玄関ドアを開けると、芳賀はすぐに能見たちへ気づいた。


「てっきり、二人とも朝までお楽しみなのかと思ったよ」


「……は?」


 開幕早々、かなりの爆弾発言である。というか、単にからかわれているだけか。能見は赤面し、固まってしまった。



 冗談ではない。自分たちはそんな関係ではなく、パートナーとして一緒に戦っているだけだ。寝起きしている部屋こそ同じだが、陽菜をそういう対象として見たことはない。


 しかし、能見が反論するより先に、陽菜が口を開いてしまった。


「そ、そんなわけないじゃないですか! 大体、私はまだ処……」


「陽菜さん、余計なこと言わなくていいから!」


 真っ赤になってまくし立てようとする彼女を止め、能見は慌ててフォローを入れた。


 どうしてこう、最悪なタイミングで天然ボケが発動するのか。今、絶対「処女」って言おうとしただろ。



 二人の寸劇を前に、芳賀はわざとらしく咳払いをした。「ちょっとからかっただけでこれか」と言いたげである。面白がられているのか、呆れられているのか。


「――状況を整理しよう」


 靴を脱ぎ、七畳ほどの部屋に腰を下ろす。能見があぐらをかき、陽菜は正座して座った。


 部屋の主である芳賀は、空の段ボール箱を椅子代わりにくつろいでいる。


「僕たちの目指す最終的なゴールは、管理者の元へ辿り着き、このデスゲームを終わらせることだ。そして、この奇妙な実験の裏で何が行われているのか、それも明らかにしたいと思う。ここまでで異論はないね?」


「ああ」



 芳賀の話は、理路整然としていて聞きやすかった。細かいことは置いておき、能見は深く考えずに頷いた。


 能見自身にとっては、実験の背景を突き止めるのは二の次だ。まずは被験者同士の殺し合いをやめさせなければ、管理者たちの思惑通りである。



「だけど、そのためには被験者同士で団結する必要がある。いがみ合っていたままでは、管理者へ対抗できる勢力を自ら減らすことになるからね。……したがって、取り組むべきはグループのさらなる拡大だ」


 そう言って、芳賀は二人を見た。


「この一帯は僕の部下が制圧済みだ。君たち二人も加わったことだし、今後さらに勢力範囲を拡大し、仲間を増やさなければならない」



「ふむふむ」


 陽菜はといえば、細い顎に手を当て、真剣そうな表情で話を聞いている。


「じゃあ、さっそく攻め込むんですか?」


「いや、物事には順序というものがある。それに、戦いは情報戦なんだ」


 少々もったいぶった風に、芳賀が首を振る。


「部下が仕入れてくれた噂によると、『333』のナンバーを持つ荒谷という男は、飛行能力を使えるそうだ。まずは、荒谷を味方に加えるところから始めよう」


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