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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
2.スリー・アンド・ツー編
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017 不意の遭遇

 その夜、能見と陽菜は外へ出ていた。


 アパートからいくらか歩き、その屋上、避雷針が見える位置まで移動する。足を止め、能見が腕をすっと突き出した。


 どうにか芳賀を倒すことに成功したものの、彼の力はまだ不安定だ。ミスなく使いこなせるようにと、陽菜の付き添いで特訓することにしたのだった。



 意識を集中させ、稲妻を呼び出す。放たれた紫電は、避雷針から僅かに逸れて屋上へ落ちた。


「能見くん、もうちょっと右」


「ああ、分かった」


 的である避雷針に、雷を命中させる。それが今日の目標だった。


 二度、三度と修正を重ね、避雷針へ落雷させることに成功する。当たるやいなや、陽菜は「やったあ」と歓声を上げた。



「すごいよ、能見くん。この調子なら、いつか管理者も倒せるかも」


「ありがとう。……ちょっと褒めすぎな気はするけどな」


 自分のことのように喜ばれて、どうも気恥ずかしかった。照れ臭さを誤魔化すように笑い、能見は応じた。


「とにかく、力が安定してきて良かったよ。あとは、芳賀が仲間になってくれたら言うことなしだ」


「そうだね」


 彼の名前が出ると、陽菜も束の間、浮かれ気味な表情を引き締めた。


 激闘の果てに、能見と陽菜は彼を倒した。だが、すんなり仲間になってくれるとは考え難い。場合によっては、何が何でも能見たちにリベンジしようと躍起になるかもしれない。



 少し気になることもある。


 今までに出会った他の被験者とは違い、能見は力を使いこなすのに時間がかかった。思い通りに操れない稲妻で、危うく陽菜を傷つけるところだった。


 直感的に予知能力に目覚め、陽菜は上手く使いこなしている。芳賀や彼の部下だって、能力のコントロールに苦労している様子はなかった。


 一体、自分の中に眠るこの力は何なのか。他人とは違う何かが、能見の体には秘められているのだろうか。


 そう考えると、一抹の不安がよぎる。



「……能見くん」


 ててっと側へ走り寄り、そっと彼の手を取る。近距離から微笑みを向けられ、能見はどきりとした。完全に不意を突かれた格好だった。


「私は信じてるよ。これから先何があっても、私たちが力を合わせれば、どんな相手にも負けないって」



 それから手を離し、陽菜は頬を朱に染めた。


「昨日のこと、ありがとうね。また助けてもらっちゃった」


「いや、俺の方こそ」


 照れ笑いをしながら、能見は答えた。


「俺の力だけじゃ、芳賀をぶん殴ることはできなかった。陽菜さんの予知があってこそだ」


 互いを認め合い、二人は自然と距離を縮めていた。物理的にも、精神的にも接近していたといえるだろう。



「……やれやれ。君たちは、プライベートでも仲良しなのかい?」



「誰だ」


 突然投げかけられた言葉に、能見は驚いて振り返った。だが、闇から現れ出でた人影を見るや、その表情は戸惑いへと変わった。


「……って、芳賀⁉」


 見間違えようもない。こちらへ歩み寄ってきているのは、トリプルセブンの異名をもつあの男だった。


 噂をすれば影、とはまさにこのことである。



「どうしたんだ。幽霊でも見たような顔だね」


 動揺している能見たちとは対照的に、芳賀は落ち着き払っていた。いや、少し呆れている風でもあった。


「それより、戦闘訓練をするなら、もう少し周りに警戒した方がいいな。野次馬が十人くらい集まってきていたよ」


「本当か」


「何で、僕が嘘をつかなくちゃいけないんだ」


 能見から疑わしげな視線を向けられ、彼は指で後ろを指し示した。暗くてよく見えないが、何人か男女が倒れているのが分かる。



「君の能力は、夜に使うには少々派手すぎる。稲妻を見た、他のグループの連中が群がってきていたよ。……僕が気絶させておいたから、もう襲われる心配はないけど」


「気絶させた? お前が?」


 状況が上手く呑み込めず、能見は、芳賀と数名の男女を交互に見た。どうして、彼が自分たちを助けるのだろう。



「何の真似だ。敵に塩を送るつもりか」


「おっと、待った。戦うつもりはない。できることなら、僕は君たちの敵ではなく、味方になりたいと思っている」


 芳賀は片手を挙げ、二人が身構えようとするのを制した。ビジネスライクな笑顔で、そのままストレートに要件を伝える。


「邪魔な外野を倒してあげたんだし、信用してくれてもいいんじゃないかな?」


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