014 重なり合う絆
「今さら、何をしても無駄だ」
拳銃を拾い上げた芳賀が、その銃口を能見へと向ける。彼の目は血走っていた。
「君みたいな不幸の象徴が、幸運の加護を受けた僕に勝てるわけがない!」
「……陽菜さん、攻守交代だ」
対して能見は、ちらりと相棒を振り向いた。
「今度は俺が攻める。陽菜さんにはサポートを頼みたい」
「うん、分かった」
彼の考えを理解し、陽菜がこくりと頷く。それを合図に、能見は芳賀へ向かって行った。
「正面から突っ込んでくるとは、よほど死にたいらしいね」
馬鹿にしたように笑い、芳賀が引き金を引こうとする。だが次の瞬間、彼は表情を引きつらせていた。
「……あり得ない。そんな、まさか」
能見の手から放たれた電磁波が、拳銃を絡めとる。磁力で芳賀の手からそれを奪い、彼方へと放り投げてしまった。
「力を完璧にコントロールしているだと⁉」
ならば、と舌打ちし、芳賀がナイフを構え直す。彼は今、取るべき動作を刹那の内に導き出していた。
能見が繰り出そうとしているのは、アッパーカット気味のパンチ。稲妻を腕にまとわせているのを考慮に入れれば、回避することは十分可能だ。
その後で身を翻し、がら空きになった胴へナイフを突き込めばいい。いくら雷を操れるといっても、ノータイムで反撃されれば対処できないに違いない。
しかし、彼の予想はまたしても裏切られた。芳賀は、能見の攻撃をかわせなかったのだ。
「能見くん、左下!」
「おう!」
陽菜の声が飛ぶ。それに合わせてパンチの軌道を修正し、能見は渾身の力で殴りかかった。プラズマを帯びた一撃が、芳賀の頬を捉える。呻き声を上げ、金髪の青年の体が吹き飛んだ。
能見が攻撃し、芳賀がそれに対応して回避動作を取った。だが、芳賀は陽菜の存在を計算に入れていなかった。彼の回避モーションをも予知した陽菜は、攻撃が当たる寸前で能見へ指示を出し、芳賀にパンチが当たるように攻撃の軌道を修正させたのだった。
「……絶対に認めない。この僕が、君たちに負けるなんて」
地面に手を突き、芳賀は執念で立ち上がった。回避を破られ、プライドをズタズタにされた彼は、ナイフをめちゃくちゃに振り回して突進してきた。
「僕の回避能力は最強のはずだ。君のようなおぞましい力に、どうして攻略されなければならないんだ!」
「確かに、俺の力は不幸そのものかもしれない。でもお前は、一つ大切なことを忘れている」
繰り出された刃を前に、能見は静かにそう告げた。握りしめた右拳を、紫色のスパークが包み込んだ。
「俺たちは一人じゃない。仲間と支え合って、助け合って共に戦うんだ」
「能見くん、次は右斜め下!」
陽菜の声が聞こえる。彼女のサポートが勇気に変わる。
「……俺がトリプルシックスで、彼女がトリプルワン。合わされば『777』、お前と同じトリプルセブンになる。お前の誇ってる幸運ってやつに、俺たちが勝てない道理はないんだよ!」
能見が吠え、紫電をまとったストレートパンチを繰り出す。芳賀は体を反らして避けようとしたが、かわし切れず、腹部へ殴打が突き刺さる。地面へ縫い止められるようにして崩れ落ち、今度こそ芳賀は動かなくなった。
電流を流し込まれ、意識が朦朧としているらしい。加減はしてあるから、命に別状はないだろう。
「……どうした。僕を殺さないのか?」
立ち去りかけた能見と陽菜へ、芳賀は倒れたまま問うた。
先刻とは打って変わって、弱々しい声だった。うつ伏せに横たわっているため、その表情は読み取れない。
「僕は、君たちの命を何度も奪おうとした。殺されて当然の人間だ」
「言っただろ。俺は殺し合いなんかしたくない。俺の目的は、この戦いを止めて管理者をぶっ潰すことだ」
束の間足を止め、能見は彼を振り返った。
「俺たちはトリプルセブン、芳賀賢司に勝った。これからは力を貸してくれると助かるぜ」
気が向いたら声を掛けてくれ、と言い、能見はまた歩き出した。足を負傷した陽菜に肩を貸し、二人で支え合って歩いて行く。
あとに残された芳賀は、初めて味わった敗北を嫌というほど噛みしめていた。




