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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
外伝③ アナザーヒーロー・トリプルセブン
209/216

08 ヒーローとラブ・アンド・ピース

「トリプルセブンたちの目を盗んで、彼女の死体は焼却処分させておいた。元の姿が分からないくらい焼いたから、彼らが死体を調べて真実に近づくことはないだろう」


 オーガストは知らなかったが、先刻アイザックがご立腹だったのはこれが原因だ。彼はスチュアートに頼まれて戦闘のあった現場に向かい、稲妻でメアリーの遺体を焼き焦がしてきたのだ。


 アイザックからしてみれば、オーガストは作戦に失敗しただけでなく、間接的に自分にまで余計な仕事を押しつけてきたことになる。気に食わなくて当然である。



 しかし、とスチュアートがわざとらしく咳払いをした。


「私たちの損失はほとんどなかったとはいえ、今回、君がトリプルセブンを仕留め損ねたことに変わりはない。その償いはしてもらわないとな」


「お任せを」 


 オーガストは恭しく頭を下げた。


「今後さらなるサンプル回収を行い、我らの目的へ近づきます」


「うん、それでいい」


 満足そうに頷き、スチュアートはデスクへ向き直った。話を切り上げたのかと思われたが、彼はそこに置かれている無線機を手に取って呟いた。


「……ナンバーズへの対処を、オーガスト一人に任せるのは荷が重いかもしれない。場合によっては、彼らの力を借りた方が良さそうだね」


 ほくそ笑み、愛しげに無線機を撫でる。


「トリプルナイン、トリプルフォー、トリプルファイブ、トリプルエイト――君たちは私には絶対に逆らえない。トリプルゼロを殺した、この私にはね」



「おや、トリプルセブン様」


 アパートに戻ると、エントランスで浅沼に出迎えられた。聞けば、どうにも寝つけなかったため拠点付近の見張り役を買って出たという。


 お互い、ろくに寝ずに戦士としての役目を果たしていたわけだ。少し眠そうな浅沼の顔を見ると、苦笑しそうになる。


「どこへ行っていたんですか? あんまり無茶しないで下さいよ、あなたは俺たちの大切なリーダーなんですから」


「僕はただ、愛と平和のために汗を流してきただけさ」


「何ですか、それ」


 浅沼が吹き出した。ひとしきり二人で笑い合ってから、「それじゃ、また」と芳賀は自室へ下がる。



 部屋で一人になって、考えを巡らせた。


 拠点にしているアパートへ戻る途中、「メアリーの死体を調べたら『管理者』の正体について何か分かるかもしれない」と思い、急いで引き返した。が、彼女の遺体は既に、何者かによって真っ黒に焼かれていた。


 おそらく、オーガストか彼の仲間が隠蔽工作を行ったのだろう。板倉の死体が消えたときと状況が似ている。


「管理者」との戦いはまだまだ続きそうだ。しかし、芳賀は決して諦めず、最後まで戦い抜くことを決めていた。それがリーダーとしての、戦士としての彼の務めだ。


(僕はもっと強くなる。板倉のような犠牲が二度と出ないように、皆を守れるくらい強くなってみせる)


「愛と平和のために」。さっきは冗談めかして言ったが、これは芳賀の本心でもあった。陽菜が能見のことをヒーローと呼んだように、芳賀もまた、部下たちを守るために奮闘する一人の英雄なのだ。



 この日、トリプルセブンとオーガスト、実験体メアリーが交戦した事実を知る者は少ない。もちろん「管理者」たちは知っていただろうが、すべての戦いが終わった現時点では、芳賀以外の誰もこの戦いを知らない。芳賀本人も、あえて戦績を自慢するようなことはしていない。胸の内にとどめている。


 だが、それでいいのだろう。


 人知れず愛と平和のために戦うのもまた、ヒーローとしてあるべき姿の一つなのだから。


 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


「サウザンド・コロシアム」本編では、能見がオーガストに敗北して「もっと強くなる」ことを誓うシーンがありました。


 実は芳賀も同様の体験をしていて、人知れず皆を守るヒーローとして成長を遂げていた……という短編でした。


 芳賀が板倉のことについて悩む描写が本編だけだと不足気味に感じ、また芳賀の戦績の微妙さも気になったので、それらをカバーするような内容にしたつもりです。よければ感想などお寄せください。


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