06 熱烈!特効薬は君だ
「トリプルセブン様、どこを怪我されたのですか?」
ある日、彼の部屋に呼ばれた私は、首をかしげて問うのです。
「足をちょっとやられてね。悪いけど、脱がせてくれないかな」
布団に寝転んだ彼に言われるがまま、私はズボンを脱がせます。でも、それらしい傷跡は見当たりません。
「ええと……」
下着を見ないようにしつつ、困ったように足を眺める私。きっと、すらりとした美しい脚部なのでしょうね。
すると芳賀さんは、何の前触れもなく私を抱き寄せ、布団の上に押し倒すんです。
「ひゃあっ。ト、トリプルセブン様⁉」
「――静かに。部下に聞こえてしまう」
戸惑い、悲鳴を上げようとする私の唇を、彼が強引に奪います。舌を絡め合う熱烈なキスが、暴力的な快感を与えてきます。
「ん、んんっ」
やっとのことで唇を離され、喘ぐように息をする私。されるがままになっている無防備な私を見下ろして、芳賀さんは優しい、でもどこか獣のような笑みを浮かべるんです。
「嘘をついて呼びだしたりして、悪かったね。僕はどこも怪我していない。強いて言うなら、腕をちょっと擦ったくらいだ」
「じゃあ、どうして……」
「もちろん、君が欲しいからさ。愛海さん」
耳元で甘い台詞を囁き、芳賀さんが私のブラウスのボタンを外していきます。私は抵抗せず、ただ彼の愛を受け入れます。
「初めて会ったときからずっと気になっていた。愛海さん、僕の病名は恋煩いだ。特効薬は君だ」
「ああ、トリプルセブン様……っ」
実は両想いだったことが判明し、私の心と体は熱を帯びて歓喜します。
そして彼と抱き合い、朝日が昇るまで愛し合うのでした。
(……ダ、ダメ! ダメですっ!)
思ったよりもかなり本格的な、リアルな妄想ができあがってしまい、私は「きゃー!」と小さく悲鳴を上げて悶えました。
高校生の頃によく読んでいた、ちょっと過激な少女漫画。知らず知らずのうちにあれに影響され、官能小説が書けそうなくらい想像力を逞しくしていたのかもしれません。
(大体、トリプルセブン様が怪我をすることを望むなんて、縁起悪すぎます。そんなこと考えちゃダメです!)
もっと真面目に頑張らなくちゃいけません。そうすれば、いつかトリプルセブン様も認めてくれるかもしれません。
未来に希望を託して、私はもう一度横になり、目を閉じました。
デスゲーム開始後二日目となるこの夜に、芳賀は能見と陽菜のタッグに敗北する。そして翌日には、愛海が彼の手当てをすることとなる。
彼女はまだ、何も知らない。とんでもない妄想が(部分的にせよ)実現することを知らず、憧れの男性への想いが成就しないことも知らない。いずれ自分が人でなくなってしまうことも、愛海は知らない。
自分の運命を知らず、それゆえに束の間の安息を楽しむ、無垢な少女。
林愛海が海上都市で生きた日々は、芳賀や能見、陽菜、その他多くの仲間たちの中で、今もなお輝いている。彼らの記憶の中で、彼女は生き続けているのだ。
短すぎたその生涯が、夢と希望に満ちたものであったことを願おう。




