表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
外伝②「がんばれ!愛海さん」
200/216

05 暴走!愛海の妄想

「強い能力が使えるわけでもないのに、威勢だけはいいんだから」


「うるせえな、お前ら。人をからかうのもいい加減にしろっ」


 包帯を巻き終わったばかりの右手を振り上げ、板倉さんは怒りました。短髪と丸眼鏡の二人は身内のノリでふざけたようでしたが、彼は本当に腹を立てているように見えました。しかめっ面で、「フン」とそっぽを向きます。


(ど、どうしましょう。喧嘩が始まっちゃいました)


 おろおろしている私をよそに、板倉さんは吐き捨てました。


「……俺だって悔しいんだよ。俺の力は『パンチ力を微増させる』ってだけで、ほとんど役に立ちやしねえ。だから飛び道具に頼って戦うことにしたが、それでも人並み以下の戦力にしかなれねえ。俺はもっと強い力が欲しい」


 皆さんが言っているのは、昨夜の雷使いとのバトルでしょうか? 私は噂にしか聞いてませんけど、何やらすごかったみたいですね。


「力を得るためなら、どんな代償だって払ってやる。何なら人間をやめたって構わねえぞ」



 堂々と言い放って、板倉さんは仲間たちへにやりと笑いかけました。でも、口元は微笑んでいても目が笑っていませんでした。


 たぶん、彼は今まで相当苦労してきたのではないでしょうか。自分の弱さに悩んでいたに違いありません。「一番に突っ込んでいった」のも、能力で劣る分、人よりも多く手柄を立てて認めてもらいたかったのかもしれません。


 私と同じで、芳賀さんのグループに加えてもらえたからこそ生き延びられたんでしょう。「気難しそうな人」という印象が強かったですけど、ちょっと親近感が湧いてきました。


「悪かったよ、板倉さん」


「ほら、俺らだって大して強い力持ってないし。俺は一応炎を操れるけど、煙草に火を点けられるくらいのちっちゃな炎しか出せなくて、実戦では使えないし。ま、皆大差ないってことで」


 短髪さんと丸眼鏡さんも、さすがに言いすぎたと反省したようです。口々に謝り、どうにかその場は収まりました。



「で、では、手当ても終わったのでこれで失礼します。あまり無理をせず、安静になさって下さいね」


 ほっと胸を撫で下ろし、ぺこりと頭を下げ、私はささっと退室しました。また喧嘩が起こる前に、ここから離れておきたかったからです。


 女の子ばかりの看護学校で一年以上過ごしてきたからか、大人の男の人がどういうものなのか、私にはいまいち分かっていません。男の人って、こんなにしょっちゅう喧嘩するんでしょうか?


 もしかして、トリプルセブン様もときには喧嘩するのでしょうか。あっ、でも、私を守るために戦ってくれるのなら嬉しいなあ……。凛々しいお姿、かっこいいだろうなあ。


 そんなことをぼんやりと考えて、私はまた赤くなっちゃいました。



 トリプルセブン様のグループに加入した人には、基本的に一人一部屋が与えられます。食料などの物資はグループ内で均等に分け合い、まさに理想的な自治組織ができているみたいでした。


 今日から救護係になった私も、例外ではありません。アパートの二階、一番端の部屋ではありましたけど、安心して眠れる場所をいただきました。


 夜、布団にくるまって横になり、うとうとしながら一日を振り返ってみます。


 救護係として初めてのお仕事でしたが、何とかこなせました。草食系さんの逞しい足にドキッとしたり、板倉さんたちの喧嘩にハラハラしたりしちゃいましたけど、怪我の具合がよくなって皆さん嬉しそうでした。



 あの、正直に言いますと、私は看護学校での成績が良くありませんでした。はっきり言って、落ちこぼれです。


 でも、こんな私でも誰かの役に立つことができた。傷ついた人たちを助けることができた。それがとっても嬉しかったんです。


 人工都市に連れてこられたばかりの頃、私は絶望していました。けれど、もしかしたら私はここで上手くやっていけるのかもしれません。たとえ能力が使えなくても、自分の知識と技術を活かして、トリプルセブン様率いるグループのために尽くせるのかもしれません。


 トリプルセブン様と出会えたことには、感謝しかありません。まさに運命……いや、それ以上のときめきを感じています。



(――はっ!)


 そのときでした。うつらうつらしていた私の意識が、芳賀さんのことを考えた途端に覚醒したんです。もう疲労感も眠気も全くありませんでした。


 がばっと布団をはねのけ、私は上体を起こしました。そして、再び熱くなり始めた頬を両手で押さえました。「あわわわ……」と口が半開きになっています。


(と、とんでもないことに気づいてしまいました。もしもですよ、もしも芳賀さんが怪我をしたら、その治療も私がすることになるわけですよね。ということはつまり、傷を負った場所によっては服を脱いでいただくことになって……)


 きゃっ、どうしましょう。心なしか、心臓の脈打つリズムが速まっているような気がします。


(トリプルセブン様のお身体を、私が拝むことになるのかも⁉)


 朱が差した頬は、熱を失うことを知りません。深夜テンションというやつなのでしょうか、妄想が妄想を呼び、連鎖していきます。


いつも「サウザンド・コロシアム」を読んで下さっている皆様、ありがとうございます。


次回で『がんばれ!愛海さん』は終わり、それからは外伝③『アナザーヒーロー・トリプルセブン』を始める予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ