03 任命!救護係
翌朝。
私はトリプルセブン様と二人きりで、向かい合って座っていました。彼の部屋に招かれたからです。……べ、別に変な意味ではないですよ⁉
昨日、芳賀さんが「適性を見極める」と言っていましたが、どうやら面接のようなことをするみたいでした。合格したらグループに入れてもらえて、不合格なら追い出される。そして、昨日までと同じ惨めな生活に逆戻りです。
「何で昨日のうちに面接を済まさなかったのか」、ですか?
トリプルセブン様によると、紫色の雷を操る被験者が現れたそうです。昨夜はその人への対処で手一杯で、とても私なんかの面倒を見る余裕はなかったんだとか。
あっ、そうそう。雷使いの人以外にも、彼とコンビを組んでいた女の子もいたそうです。すごいですね! こんな状況でも臆せずに戦えるなんて、私、ちょっと尊敬しちゃいます。
ともかく、そんなわけで昨夜はトリプルセブン様が忙しく、面接も今日へ持ち越されたのでした。
正座し、アパートの一室でお互いを見つめ合いました。わわっ、何だかお見合いみたいで緊張しちゃいます。……場違いなことを考えたかもしれませんね、すみません。私にとってとても大切な、文字通り生死がかかっている面接なのに。
でも、トリプルセブン様と一緒にいられるのが嬉しかったのは本当です。いつも大勢の仲間に囲まれている彼が、今この瞬間だけは私一人を見てくれている。そのことを意識するだけで幸せでした。
「もう少しリラックスしてくれて構わないよ。そんなに固くならないで」
芳賀さんは苦笑して言いました。ああ、いつ見てもお美しい。
「すみません、緊張してしまって……」
頬が熱くなったのを感じます。もごもごと私が呟いたのが聞こえたのか聞こえなかったのか、彼はさっそく本題に入りました。
「それじゃ、君の得意なことを教えてもらえるかな。僕たちのグループに加わった際、どういった働きができるかを教えてほしい」
つまり、自己アピールをしろということでしょうか。私は少し考えました。
私みたいに何の能力もない人間が、戦いで結果を残すのは難しいでしょう。でも、バックアップくらいなら……。
「あの、負傷者の手当てには自信があります」
「というと?」
芳賀さんの眉がぴくりと動きます。
「ここに来る前、私は看護の専門学校の二年生でした。普通の人よりも医療の知識がありますから、お役に立てるかなと思います」
「不合格にされたらどうしよう」と考えると怖くて、恐る恐る芳賀さんの表情を窺いました。ところが、どうでしょう。初めて会ったときと同じくらい優しい笑顔で、彼は私を見てくれていたんです。
「なるほどね。――うん、合格だ」
トリプルセブン様は軽く頷きました。思いのほかあっさり結果が出たので、私はぽかんとしていました。
「腕の立ちそうなメンバーは既に多数集まっている。あとは彼らをどうサポートしていくかだったんだけど、君みたいに優秀な救護係がいれば心強い。愛海さん、僕たちには君が必要だよ」
「本当ですか⁉ ありがとうございます!」
嬉しくて、私は何度もペコペコ頭を下げました。
さすがはトリプルセブン様です。単に強い者を集めるだけじゃなくて、彼らが怪我をしても戦い続けられるように、救護係も採用するなんて。このデスゲームは三か月間行われるということですけど、長期戦になることも見据えているんですね。
他の人が言えばキザになりそうな台詞も、芳賀さんが口にするとクールに決まるから不思議です。いえ、彼に片思いしているから、こんな風に感じるのかもしれません。
「実は、昨日の戦いで軽傷を負ったのが何名かいるんだ。彼らの手当てをお願いできないかな?」
いきなりで申し訳ないね、と芳賀さんが両手を合わせます。すまなさそうに微笑する姿もかっこよくて、私は「はい!」と即答しました。
「あのっ、私、トリプルセブン様の期待に応えられるよう頑張ります!」
背筋をぴんと伸ばした私を、芳賀さんは品定めするように眺めていました。
その目に意外なほど冷たい光が宿っていて、ちょっとびっくりします。私が彼に向けていた熱のこもった眼差しとは、まるで対極的でした。
でも、考えてみればそれも当然でしょう。私にとってトリプルセブン様は命の恩人で、この街で私に居場所を与えてくれた人で、そして私が自分の全てを捧げたいと思っている人です。……きゃっ、こんなことを言うの恥ずかしいですよお。
一方、トリプルセブン様から見た私はどうでしょうか。特に強い力はないけれど、救護係としての役目が期待できる女性。ただそれだけです。
芳賀さんはかっこいいから、きっと他の女の子からも人気があるんだと思います。私なんか眼中になくて、本当に「部下のうちの一人」くらいにしか思っていないのかもしれません。
「負傷者は一階下で休ませてある。まだ簡単な処置しかできていないから、あとは君に任せたい」
「案内するよ」と言って、先に部屋を出るトリプルセブン様。慌てて私もその後を追いました。
「分かりました。任せて下さい!」
今はまだ、隣を歩くことができないけれど。あなたに追いつくことができないけれど。それでも、いつかトリプルセブン様と一緒に歩きたいです。
(――トリプルセブン様にふさわしい救護係になれるように、私、精一杯頑張ります!)
芳賀さんの背中が大きく見えます。アパートの階段を降りながら、私は小さくガッツポーズしました。
だ、誰にも見られてないと良いんですけど……。




