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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
外伝②「がんばれ!愛海さん」
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02 見参!トリプルセブン

「ご、ごめんなさい。悪気はなかったんです。私、特に何の力も使えなくて、戦うこともできずに逃げていただけで……」


 私は必死で弁明し、戦う意志はないことを伝えようとしました。でも、なぜか二人の反応は微妙でした。顔を見合わせ、小声で相談し始めたんです。


「力を使えないんじゃあ、わざわざ仲間に引き入れる意味もねえよなあ」


「いっそのこと、やっちまうか? 女一人でも、倒しておけば俺らの戦績が上がる。上位百人に入れる可能性もでかくなる」


「この女は力を使えない雑魚だ。どのみち、遠くない未来に野垂れ死ぬだろう。他の奴らに手柄を取られるくらいなら、俺たちが倒した方が得だとは思わないか」


「賛成だ。手柄を上げれば、トリプルセブン様も褒めてくれるかもしれねえ」



 よくよく考えてみると、「何の力も使えない」と伝える必要はなかったかもです。


 彼らがグループを作り、協力して戦っているのは、そうした方が生き残れる確率が上がるからに違いありません。色んな力を持つ人たちが集まって互いの弱点をカバーし、チームプレーで敵を撃退していく。食料も均等に分け合い、争いが起きないようにする。とても効率的で、頭の良い考え方だと思います。


 そういう人たちからすれば、能力がない私の存在は邪魔でしかなかったはずです。だって、私を仲間にしても戦力にはならないし、貴重な食料が私のせいで減るわけですから。


 はたして、サングラスとモヒカンは相談をやめました。そして私の方を向いて、悲しそうに首を振りました。


「お嬢ちゃん。残念だが、俺たちとは縁がなかったようだな」

「もっと違う出会い方をしたかったぜ。申し訳ないが、ここで消えてもらおうか」


 デスゲームが始まってから、まだ一日目。彼らとて、戦いに関しては素人のはずです。敵に同情する程度には、人間らしい感情が残っていました。



(本当にツイてませんね。私)


 残酷すぎる運命を前に、また涙が溢れてきました。絶望した私は、うつむいて嗚咽を漏らすばかりでした。


 いきなり人工都市に連れてこられて、デスゲームに強制参加させられて。しかも、ゲームの参加者の中では最弱に近いスペックを与えられて、無様に殺されそうになっているんですから。


(これで良かったのかもしれません。誰かの命を奪って生き延びるくらいなら、私が殺された方がましですし)


 観念して、大人しく死を受け入れようかな。そう思いかけました。銃口が頭に突きつけられる冷たい感触さえ、どこか心地よく感じました。ああ、やっと楽になれるのかなって。


 でも、いざ男の人たちが銃のトリガーを引こうとしたときになって、「生きたい」という強烈な欲求が湧き上がってきたんです。



 思い出すのは、幼い頃の記憶。交通事故に遭って入院していた私を励まそうと、毎日温かい言葉をかけて下さった看護師さんの姿でした。


『大丈夫よ、愛海ちゃん。もうすぐ退院できるからね!』


 いつもニコニコ笑顔を絶やさず、私を元気づけようとしてくれた看護師さん。「私もこんな風に人を助ける仕事をしたい」と、いつしか思うようになっていました。


(……私、まだ何も成し遂げてません。憧れの看護師さんになるって夢も叶えてない。なのに、まだ死にたくないです!)


 今にも響きそうな銃声と、頭の奥に打ち込まれそうな弾丸が怖くて。この状況から逃げ出す術なんて何一つなくて。でも生きたくて生きたくて、ぎゅっと唇を引き結んで、私は泣いていました。


「――待つんだ!」



 そのときのことを、私は一生忘れないでしょう。


 カツン、カツンと足音を響かせ、彼は颯爽と駆けつけました。そしてサングラスとモヒカンの二人を手で制し、攻撃をやめさせたんです。


「能力の有無だけが、被験者の価値じゃない。彼女を仲間に加えるかどうかは、僕が決める」


 拳銃の冷たい感触が離れました。何が起こったのか分からず、私は呆然としたまま顔を上げました。すると、彼と目が合ったんです。


「大丈夫かい? 部下が大変失礼したね」


 金色に染められた髪。中性的で美しい顔立ち。差し出された手を取ると、心臓が早鐘を打つのが分かりました。


「ありがとうございます。ええと、あなたは……」


「僕は芳賀賢司。一応、この辺りを支配下に置かせてもらってる者さ」


 まるで白馬の王子様みたいでした。絶体絶命のピンチに置かれていた私を、彼は華麗に助け出してくれたんです。微笑を浮かべて見つめられているだけで、ドキドキしてしまいます。


 彼の首筋には「777」のナンバーが刻まれていました。


 ああ、この人が「トリプルセブン」様なんだ――きっと、そう思ったときには既に、私は彼に恋していたんでしょう。



「君は?」


「林愛海です。よ、よろしくお願いします!」


 見惚れてしまいそうになって、顔が真っ赤になって、それを誤魔化すようにペコリと頭を下げました。こんなにも強烈に男の人へ惹かれたのは、生まれて初めてかもしれません。


「とりあえず一緒に来てもらおうかな。君の適性を見極めて、ここでの役割を決めたい」


 さあ、と促して、トリプルセブン様は私の手を取ったまま歩き出しました。どうやら、彼らが根城にしているアパートへ向かっているみたいです。慌てて顔を上げ、私もその後を追います。


 これが、私とトリプルセブン様の出会いでした。


 命を救われただけでなく、この街で初めて自分の居場所を与えられて、私は芳賀さんへ何と感謝していいか分かりません。


 彼のためになら、身も心も捧げてもいい。美しい青年に手を引かれて歩きながら、私はぼんやりとそう思いました。


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