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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
外伝① ファーストエピソード・ナイン&ゼロ
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10 グループ結成秘話

 戦った相手を仕留めず、服従させて行動をともにする。これ自体は、菅井と武智もやってきたことだ。


 けれど、目的が異なる。戦力を増強して生存確率を上げようとしている菅井らに対し、美音たちはデスゲームそのものを止めようとしているのだ。


「つまり、皆が争うのをやめさせたいということか?」


「そうそう」


 美音がこくこく頷く。まだ呻いていた武智にも向き直り、手を差し出した。


「大丈夫? 立てる? ほら、私の手を取って」


「は、はい……」


 頭を打って、軽い脳震盪でも起こしたのだろうか。言われるがまま手を握り、武智はふらふらと起き上がった。


 そして意識がはっきりしてくると、途端にそわそわし始めた。「おわっ」と奇妙な叫び声を上げ、ぱっと手を離す。心なしか顔が赤い。


「も、もう平気や。すまんかったな」


「ふふっ。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ~?」


 どぎまぎし、挙動不審になっている武智に対しても、美音は慈愛に満ちた態度で接した。いつものゆるふわスマイルを見せ、「もしかして私の手、冷たかったかなあ?」などど話しかける。挙句の果てには、「さっきは痛くしちゃってごめんね~。よしよし☆」と頭を撫でてやっている始末だ。



 美人に優しくされたからか、その間、武智はガチガチに固まっている。何だか、隣で眺めている菅井まで恥ずかしくなってきた。


 初めて会ったときから既に、武智は美音にガチ恋していたのだ。のちに彼はどんどん美音の限界オタク化し、唯をドン引きさせることになる。


「……ぼ、僕は先に拠点へ戻ります」


 なお、美音が武智によしよししてやっている頃、長谷川はぼそぼそと告げて立ち去った。さっきまで美音に慰められていた自分と、今の武智とを重ね合わせ、共感性羞恥を覚えたのかもしれない。


「ん、お疲れ」


「ばいばーい」


 彼を見送る唯と和子は、素っ気ない口調とのんびりした口調が対照的だった。



「ゴホン」


 さて、武智が落ち着きを取り戻したのを見計らって、菅井は咳払いをした。逸れかけた話題を元に戻すためだ。


「手を組まないか、という話だったな。俺には断る理由がない。強い味方が増えれば、その分戦いを有利に進められるからだ」


 地面に手を突き、どうにか体を起こす。それから、真意を探ろうとするように美音を睨んだ。


「けど、分からないな。あなたほど強い力を持っていれば、俺たちの力を借りなくたってデスゲームを止めることもできるんじゃないか。――さっき、手合わせをして分かった。攻撃の威力も発動速度も、すべてが他を圧倒している」



「褒めすぎだよ~」


 美音がはにかむように微笑を浮かべる。


「確かに私は、自然現象を操れる力を持ってる。雷を落としたり、風を巻き起こしたり、雪を降らせたり。あくまで局所的にではあるけど、色んな現象を再現できるみたい」


「じゃあ、どうして」


「でも、私一人じゃ無理なの」


 きっぱりと、遮るように彼女は言い切った。笑みは消え、真剣な表情が覗いている。


「スピーカーから聞こえた声によれば、この街には千人の被験者がいる。いくら私の力が強くても、一人じゃ皆を止められない。それに、私の力だって万能じゃない。不意を突かれたら反応が間に合わないかもしれないし、能力の相性が悪い相手も中にはいると思う」


 だから、力を貸してもらえないかな――美音は菅井の手を握りながら、潤んだ瞳で、小さな希望に縋るようにして言った。


「皆の力が必要なの。お願い、協力して?」



「分かった」


「……え、いいの?」


 菅井があまりにもあっさりと承諾したからか、美音はぽかんとしていた。


「もうちょっと悩むのかなーって思ってたけど」


「悩む理由なんかないさ。申し出を受けることによるデメリットはなさそうだし、あなたのことも信頼できそうだ」


 ようやく痛みが引いてきた。地面に胡坐をかいて座り、菅井は笑った。


「それに、俺は嬉しかったんだ。自分が生き残るためじゃなく、皆が助かるために戦ってる人もいるんだって分かってさ。今まで夢物語でしかなかったものが、もしかしたら現実になるかもしれないと確信を得た」



 彼とて、戦いたくて戦ってきたわけではない。突然この街に放り込まれ、わけのわからない殺し合いに参加させられて、否応なしに力を振るってきただけだ。


 誰もが争わない世界を夢見たこともあった。「到底叶わない」と諦めかけていた夢が、今再び現れようとしていた――今度はフィクションの産物としてではなく、頑張れば手が届きそうなリアルのハッピーエンドとして。


 長谷川と同じグループに属するのには、ちょっと抵抗があった。しかし「あれほど捻くれていた長谷川を美音は手なずけた」ということは、それだけ彼女には人徳があるということだ。美音に従うことに異論はない。



「一緒に戦おう。……武智も、それでいいか?」


「もちろんや」


 まだ美音にデレデレしていた彼は、二つ返事で頷いた。彼女に交際相手がいることなどつゆ知らず、ワンチャンを求めて、可憐な乙女についていくことに決めていた。


 かくして、菅井と武智は美音たちのグループ傘下に入った。争いのない街を実現するために、彼らは一丸となって戦ったのだ。


 あの日、スチュアートが美音を殺害するまでは。


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