表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
1.トリプルセブン編
19/216

007 目覚める紫電

「……やめろ」


 朦朧とする意識の中、能見は必死に手を伸ばした。陽菜を助けようと、彼女の手を掴もうと、痛めつけられた体に鞭を打つ。



 元はと言えば、自分のせいだ。能見が「戦いを止めよう」と言い出さなければ、こんなことにはならなかった。与えられた部屋に籠城し、外へ出て行かなければ、トリプルセブンこと芳賀たちに絡まれることもなかったのだ。


(彼女が捕らえられようとしているのは、俺のせいなんだ。俺が助けなくちゃいけないんだ)


 だが、彼我の距離は遠く、ましてや体を動かすのもやっとな能見に、彼女に手が届くはずもない。



「往生際が悪いな、君は」


 事態の混乱を見かねたのだろう。それまで後方で観戦していた芳賀が、つかつかとこちらに歩み寄ってくる。


 そして、伸ばされた能見の腕を、思い切り踏みつけた。


「があっ」


 骨をも砕かんとする圧迫感に、能見が呻く。その顔面を、芳賀はもう片方の足で蹴り飛ばした。


 手をだらりと下ろし、惨めに地面を転がる。哀れな獲物を見下ろし、芳賀がくすくすと笑う。



「戦いを止めたいという、その心意気は素晴らしいと思うよ。でも君は、一つ大切なことを忘れている」


 倒れた能見の側へ屈み込み、芳賀は言った。


「この街のルールは、弱肉強食。強い者だけが生き残り、弱い者は淘汰されていく。そんな世界だ」


「……だから、何だって言うんだ」


 振り絞るようにして紡いだ言葉を、彼は笑い飛ばした。


「結論から言えば、君には何もできやしないってことだよ。あっちの女の子は珍しい能力を使えるようだけど、見たところ、君には何の力も備わっていない。戦う力がない奴の主張なんて、誰も聞きやしないさ」


 能見の髪を掴み、芳賀がこちらを覗き込んでくる。その目はらんらんと輝いていた。弱者を踏みにじる、その快感を知っている者の目だった。


「君は管理者を倒したいと言っているが、彼らを倒せるだけの力が、君にはあるのかい? あるわけないよね。そんな状態で、よくもまあ夢物語を考えつくものだ。ある意味、尊敬するよ」



 そうだ。確かに俺は、行き当たりばったりに動いてきたかもしれない。


 実力もないのに、争いを止めるとか、いつか管理者を倒すだとかほざいて。そのくせ戦闘では、知り合ったばかりの女の子に頼りっぱなしで。彼女を巻き込んで、迷惑かけまくって。我ながら最低だと思う。


 でも、だからこそ彼女を助けなくちゃならないのだ。これまでの失敗を償い、そしていつか、この不条理な現実を変えるために。



(力が欲しい)


 今までにないほど強く、能見は願った。


 スピーカーの声は、被験者に施術を行い、特殊な力を与えたと言っていた。首にナンバーを刻印されている以上、自分も被験者の一人であるはずだ。力を持っていないのではなく、まだそれに覚醒していないと考えるべきだった。



「……助、けて」


 陽菜のか細い悲鳴が、遠くから聞こえる。芳賀の手下たちは既に、彼女を連れて歩き出しているようだった。


(あいつを助けるために、俺には力が必要なんだ。今使えなきゃ駄目なんだよ)


 そう祈ったとき、能見は感じた。


 体の内側から突き上がってくるような、凄まじいエネルギーの塊を。



「返せよ」


 低い声で呟き、能見は芳賀を睨みつけた。


「……はあ?」


 まさか、まだ動けるとは思っていなかったに違いない。ぽかんとした表情の彼をよそに、能見は手を突いて再び立ち上がった。


「あいつを……返せ!」


 刹那、彼の肉体から光の奔流が流れ出る。紫色をしたそれは、スパークを飛び散らせながら天高く昇っていった。


 紫電はやがていくつもの稲妻へと分かれ、地上へ降り注ぐ。能見自身にもコントロール不能な電光が、辺り一帯を焼き払った。


 落雷とともに、轟音が人工都市を震わせる。刹那、視界は稲妻の光、紫一色に呑まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ