表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
外伝① ファーストエピソード・ナイン&ゼロ
189/216

06 再会と追跡劇

「――それから、俺と武智はコンビで戦った。俺とあいつは二人で一人、まさに一騎当千の活躍だった。俺が後衛で敵の動きを止め、前衛の武智が攻めれば敵はなかった」


 アイスコーヒーに少し口をつけてから、またテーブルに戻す。


 話しながら時折食事もし、現在、菅井はダブルチーズバーガーとポテトをそれぞれ半分ほど食べ終えていた。カップの中のコーヒーも順調に減りつつある。


 喉の渇きを抑えたところで、彼は再び話し始めた。


「俺たちは喧嘩を売ってきた奴らを次々に退け、そのうちの何人かは仲間に加えた。だが、美音さんには勝てなかった」


「お姉ちゃんに?」


 ハンバーガーをもぐもぐ頬張りながら、奏が聞き返す。


「ああ。あの人は本当に強かったよ」


 美音が生きていた当時を懐かしみながら、菅井はさらにストーリーを紡いでいく。



 その翌日、菅井と武智はアパートの間をすり抜けるように走っていた。


 正確な時刻は分からないが、昼過ぎくらいだろうか。じりじりと日差しが照りつける中、二人はターゲットを追っている。


「待たんかい、デブ!」


 先頭に立つ武智が、そのさらに前方を走る男へ怒鳴った。


 狙われている青年は、ドタドタと必死に走って逃げている。けれども、いかんせん足の速さの違いは大きい。


 武智はスポーツマンである。どんどんペースを上げ、今にも彼に追いつきそうだった。


「覚悟しとけ。俺は綺麗な女性には優しいが、モブの男には厳しいで!」



「……決め台詞にしては、ずいぶんお粗末だな」


 トリプルフォーの後ろを走りつつ、菅井はため息をこぼした。


「相手によって態度を変えるような奴は、男女を問わず嫌われるぞ。相方として恥ずかしいからやめてくれ」


「菅井さんがそこまで言うんやったら、しゃあないわ」


 ちらりと振り返り、武智が肩をすくめる。かと思うと、全力疾走で太った男に追いついた。


「まあ、ほどほどにボコボコにしたるわい」


 武智が横に並んだのに気づき、男は青ざめていた。



 コンビを結成してからというもの、菅井と武智は何人かの被験者を撃退した。そのうち数名を従え、ごく小規模な勢力として動いている。


 いくら生き残るためとはいえ、菅井たちは殺しを良しとしていない。これから先デスゲームがどう展開するか見当もつかないが、降りかかる火の粉を払える程度の戦力は集めておきたかった。


 ついさっき十字路で出くわした小太りの青年は、菅井たちを見るやいなや、踵を返して逃げ出した。「みすみす見逃すのも癪だ」と(主に武智が)主張したことにより、彼を追いかけて従えよう、ということになった。


 それで、このような追跡劇が始まったわけである。



「や、やめてくれ!」


 咄嗟に跳び退き、武智から距離を取る。ターゲットにされた青年は、すっかり怯えていた。


「ぼ、僕は、君たちと戦いたくないんだ」


「それなら話が早い。ちゃっちゃと降参して、俺らの仲間になってくれんか?」


「相手には戦う意志がなさそうだ」と判断し、武智が構えていたナイフを下ろす。乱闘には発展せず、あっさりと決着のつきそうな雰囲気だった。


 しかし、菅井は見逃さなかった――ナイフの切っ先が下がった瞬間、太った青年がほくそ笑んだことを。


「気をつけろ、武智!」


 強張った声が、戦場に響く。



 懸命に駆ける中で、菅井は気づいていた。今武智と対峙している彼は、自分が初めて戦った被験者だ。昨日、同じ部屋で目覚め、パニックになって襲いかかってきたあの男だ。


 十字路で見かけたときは彼我の距離が離れていて、人相が良く分からなかった。けれども、武智のすぐ後ろまで追いついた今なら断定できる。こいつは、あのクソ野郎と同一人物だと。


 ガラス片で切った傷はまだ治りきっておらず、彼の顔には赤く細い線が何本も走っていた。



「ん?」


 トリプルナインの声に、武智がのんびりした所作で振り返る。


「どうしたんや。決着はついたのに、何をそんなに焦ってるん?」


「馬鹿、まだ終わってない。油断するな!」


 菅井が叫んだのとほぼ同タイミングで、小太りの男も動いた。両の手のひらを二人に向けて突き出し、そこから白い糸のようなものを放つ。


 菅井の知らないうちに、男は自分の能力に目覚めていたのだ。


「……引っかかったな。こ、これでも喰らえ!」


 アパートの一室で、菅井へ刃を向けたときと同じだ。彼の笑顔には、狂気じみた何かが宿っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ