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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
外伝① ファーストエピソード・ナイン&ゼロ
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02 サバイバルの始まり

 アパートの一室で目が覚めた。


 はっとして、布団を跳ね除ける。状況を理解しないまま辺りを見回すと、隣にもう一つ布団が敷かれていた。


 そこに寝ていた男と菅井とは、間違いなく初対面だった。彼はニキビ面で鼻が低く、お世辞にも整った顔立ちだとは言えなかった。おまけに小太りで、額に脂汗を書いている。


(何だ? こいつは)


 どうして俺は、知らない男の部屋で眠っていたのだろう。意味が分からなかった。



『目が覚めたかな、モルモット諸君』


 突然、部屋の上部に据えつけられたスピーカーから声が聞こえた。驚きのあまり、菅井は心臓が止まるかと思った。


 今思えば、あれは管理者の一人、スチュアートからのメッセージだったのだろう。被験者を極限状態へ追い込み、肉体変化の力を目覚めさせるための仕掛け。それが、あのおぞましいデスゲームだ。


『ここは私たちの管理下にある人工都市だ。諸君らにはとある施術を行い、特殊な力を与えてある。首のナンバーは、その個体識別番号だ』


 正直、最初は「悪ふざけだろう」と思った。誰かが自分たちをこの部屋に閉じ込めて、出まかせを言って混乱させているのだろう、と。


 けれども、洗面所の鏡の前に立ってみると、自分の首には「999」のナンバーが確かに刻まれていた。試しに水で洗ってみても、数字は薄れたり消えたりしない。



『0から9の十種類を使い、三桁の数字を作る。このようにして私たちは、諸君ら千人の被験者を番号により識別可能とした。――この街から出たければ、方法は一つだ。私たちの与えた力を用いて、他の被験者を倒せ』


 被験者の気持ちなどお構いなしに、アナウンスは続く。


『街の至る所に設置された監視カメラが、諸君らの戦いを克明に記録してくれている。三か月後、そのデータに基づいて戦績上位者百名を選出し、その者たちは街から出ることを許されるだろう。残った不良品は、全て処分されることとなる』


 とんでもないことになったな、と菅井は思った。このアナウンスをどこまで信じられるかには疑問の余地があるが、声の主が嘘をついているようには思えなかった。


『食料、衣服、武器、その他必要なものは段ボールの中だ。部屋の設備も自由に使ってくれて構わない。諸君らの健闘を祈っている』


 そこで、唐突に放送は終わった。



 言われてみれば、部屋の隅には段ボールがうず高く積まれている。あれの中身を使え、ということだろうか。


(いたずらにしては手が込みすぎている。本当に俺たちを殺し合わせるつもりか? ……いや、待て)


 視線を感じて振り向くと、小太りでニキビ面の男がむっくり起き上がっていた。どうやら、さっきのアナウンスで目を覚ましたらしい。


 彼の首筋にも、「245」と三桁の数字が刻まれていた。


「ど、どうしよう。僕たち、戦わなくちゃいけないんだって⁉」


 厚い唇から漏れた声は、何とも弱々しい。たぶん、起きてからは放送の内容も頭に入っており、現実に打ちひしがれているのだろう。



「落ち着け。まだそうと決まったわけじゃない」


 軽いパニック状態に陥っている男をなだめつつ、菅井は段ボール箱へ近づいた。


「とにかく、箱の中身を見てみよう。もしもさっきの声が言ったことが本当なら、生活に必要なものが入っているはずだ。判断するのはそれからでも遅くない」


 慎重にガムテープを剥がし、中を覗き込む。しかし、そこにあったのは管理者が言った通りのものだった。


 銀色のパックに入っている、ウィダーゼリー状の食べ物。装飾が少なく、ほとんど無地に近い衣類。そして、拳銃やナイフといった武器。


 恐る恐る手に取って確認したが、銃には実弾が込められている。ナイフもよく研がれていて、ちょっと触れただけで指が切れそうだった。やはり、声の主は自分たちを戦わせようとしているのだろうか。



「あの、ぼ、僕にも見せて下さいよ」


 どもりながら、太った男も近くへ寄ってくる。


 お互いの名前すら知らなかったが、ここで会ったのも何かの縁だ。二人は一緒に段ボールを開封していき、中身を確かめた。


 やがてすべてを開け終えると、ニキビ面の青年は首をかしげたのだった。


「……なんか、へ、変ですね」


「何がだ?」


「全部の箱を確認したはずなのに、この箱にしか、しょ、食糧が入ってないんです。ざっと数えましたけど、ご、合計百個もないんじゃないですか」


 確かに妙だ。


 三か月分の食糧なのだから、もっとあってもいいはずなのだが。


 しかもウィダーゼリーというのは、元々あまり腹持ちの良い食べ物ではない。これっぽっちの量で二人が三か月間食いつなぐのは、ほとんど不可能だろう。



「困ったなあ。これだけじゃ僕、ぜ、絶対足りないよ」


 いかにも必要とするカロリーが大きそうな腹を揺らし、男はしばらくおろおろしていた。が、不意に静かになる。


「……そ、そうか!」


 ゆらり、と小太りの男が立ち上がる。その顔には、ぞっとするような笑みが浮かんでいた。


「分かりました。あの声の主は、僕たちに、こ、こうしろって伝えたかったんですよ」


 菅井が止める間もなく、彼は段ボール箱の一つへ手を伸ばした。丸っこい手でナイフを握り、切っ先を菅井へと向ける。


「食糧が足りないなら、ほ、他の人を倒して奪えばいいんだって!」


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