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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
エピローグ:波打ち際の未来
180/216

04 ナンバーズ、水着姿になる

 さて、他の面々はというと。


 ワンピースタイプの水着に薄いパーカーを羽織った唯は、露出の控えめな格好である。ビーチパラソルの下にすとんと腰を下ろし、すいかを食べていた。


 なお、さすがに海水浴に来てまでグレーの布マスクはつけていない。


 夏の暑さや周囲の喧騒にさほど関心を示さず、クールさを装っている。けれども実のところ、唯の心は煩悩まみれだった。



(ダ、ダメよ、私。「今なら、荒谷さんの水着姿が見放題! 上腕二頭筋も腹筋も、無料で眺め放題!」だなんて考えたらダメ!)


 よく見ると、すいかを持った手がぷるぷる震えている。強い意志で荒谷の方を向かないようにし、無理やりすいかへ意識を集中させていた。


 荒谷のことは諦めたつもりでも、彼が唯にとって魅力的な異性であることに変わりはない。まだ彼氏ができていないことも、未練めいた感情を増幅させるのを手伝った。



「唯ちゃん、どうしたの?」


 シャリシャリという冷たい食感を味わっていたところ、隣に和子も座った。オフショルダーの白いビキニ姿は、美音がよく着ていたニットを連想させた。あるいは、多少意識しているのかもしれない。


「何だか緊張してるみたいだけど」


「べ、別に。何でもない」


 不思議そうに覗き込まれ、唯は照れ気味に目を逸らした。


「そっか」


 なら良かった、と屈託なく笑い、和子もすいかを一口齧った。


 しかし、平和なひと時は束の間である。この数分後、「早く泳ごうよ、唯ちゃん!」と和子に引っ張られ、唯は波打ち際に連行されるのだった。


 その際にパーカーを脱がされ、唯は猛烈な恥ずかしさに襲われる――荒谷の水着姿に興奮した罰が当たったのかは分からないが、今度は逆に、唯の水着姿を荒谷に見られたのだから。


「……あー、もうっ、どうしてこうなっちゃうわけ⁉」


 あまりスタイルに自信がない唯は、和子に水を掛けられながら、この世の終わりを目撃したかのような悲鳴を上げていた。



「サーフボードを持ってきたのか?」


「せやで」


 武智が小脇に抱えている板状のものを、菅井は釈然としない様子で見つめた。


「ここは波も穏やかだし、あまりサーフィンに適した場所とは思えないが」


「いや、実際に波に乗れるかどうかは問題じゃない。これを持っとること自体が重要や。それっぽい雰囲気を醸し出せば、女にモテる」


「しょうもないこだわりだな」


 胸を張り、ドヤ顔で言ってのけた武智を見て、菅井が苦笑する。


「女は馬鹿じゃない。お前みたいに、上っ面だけ塗り固めたような奴はモテないぞ。やり方を変えろ」


「リーダー、まあまあ辛辣やな……」


「事実を言っただけだ」


 武智はがっくり肩を落とした。


 はたして彼は、美音のように素敵な女性とまた出会えるのだろうか。運命の出会いはそうそうあるものではないが、焦らず、試行錯誤しながらチャレンジしてほしいところである。



「匠、早く泳ごう!」


「落ち着けよ、咲希」


 ボトムがショートパンツになっているタイプのビキニを纏った、今日の咲希は色っぽかった。荒谷を急かし、腕を絡ませ、幸せそうに波打ち際へ向かう。


(……咲希さん、すっかり元気そうだな)


 能見の知っている彼女は今、アパートの部屋で寝ているはずだった。彼の力を何度かコピーした影響で、熱にうなされている。怪人へと変わろうとする自分の体と、懸命に戦っているはずなのだが。


 やはり、武智の言ったことは本当なのだろうか。自分たちはスチュアートを倒し、咲希の体調不良などの諸々の問題も解決して、日本へ帰還したのだろうか。


(でも、そんな夢みたいな話があるか? 第一、それならどうして俺の記憶がないんだよ)


 いまいち腑に落ちず、考え込んだ能見へ、陽菜が体をすり寄せる。


「もう。能見くん、向こうばっかり見ないで。私と一緒にいるときは、私のことしか見ちゃダメ!」


 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。頬を膨らませ、彼女は能見に抗議していた。


「ごめん、悪かったよ。……って、え?」



 反射的に謝ってから、能見が「はて」と首をかしげる。


 疑念は確信へ変わりつつあった。どう考えても、自分が知っている陽菜ではない。少なくとも、こんなヤンデレめいた言動はしないはずだ。


 まるで、付き合い始めたばかりのカップルみたいだ――そんな馬鹿げた妄想が頭をよぎる。どこまでも一途で、しきりに甘えてくる陽菜は、今までにない可憐さを見せていた。


「あっ、そうだ。忘れてた」


 能見が戸惑っていることなどつゆ知らず、陽菜はいきなりレジャーシートの上に寝転がった。うつ伏せに寝て、気持ちよさそうに手足を伸ばす。


 それから、小さな瓶のように見える容器を差し出して、にっこり笑った。


「能見くーん、オイル塗って!」


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