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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
12.「鎮魂と再出発」編
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164 きっと、いつまでも一緒に

 席に戻ると、能見への疑いの目はどこへやら、いつも通りの和やかな雰囲気があった。


「……それで、この前街を歩いてたら、かっこいい男の人に呼び止められちゃったんですよ。何かのアンケート調査?的なのをしてたみたいで」


 僅かに頬を赤らめた陽菜が、女性陣の会話の中心になっている。



(まさか陽菜さん、ナンパされたのか?)


 先ほど、芳賀から「早くしないと、他の男に取られてしまうかもしれないよ」と忠告されたばかりである。最悪の事態を覚悟し、能見は顔をこわばらせた。


 変なもので、想いを告げる踏ん切りはつかないのにもかかわらず、彼女が他の男のものになるのは嫌だった。自分の知らないところで陽菜が処女でなくなり、快楽に溺れるさまを想像するのも苦痛だった。


(俺、嫉妬してるのかな。そのナンパしてきた男に)


 自らの気持ちを意識して、能見は体の芯が熱くなるように感じた。


 いずれにしても、今のまま、陽菜と曖昧でどっちつかずな関係を続けるのには限界があるのかもしれない。いつか本当のことを伝えて、この関係に決着をつけなければならないのだろう。



 結局、続く陽菜の台詞は、あれこれと気をもんでいた能見をずっこけさせるようなものだった。


「その人が、『ちょっとお時間いただけませんか』って。私、男の人からそんな風に声を掛けられたの初めてで、嬉しかったです」


「……そ、その後はどうなったんですか⁉」


 興味津々、といった風に、和子がテーブルから身を乗り出して続きを促す。


「『ちょっとと言わず、どうせならいっぱいあげます!』って言ったんですけど、なんか驚かれて逃げられちゃいました。惜しかったですね~」


「それ、ナンパじゃなくてキャッチセールスだったんじゃないかって気がするけど……?」


 咲希が冷静にツッコみを入れると、一気に場が静まり返った。唯と和子が顔を見合わせている中、「そうでしょうか?」と首をかしげている陽菜が可愛らしい。



『陽菜さんのようなド天然と上手くやれるのは、たぶん君くらいだ』


 芳賀の言葉が脳裏をよぎる。確かに、陽菜の独特なペースについていける者は少ないのかもしれないと思った。


 キャッチセールスの男性の肩を持つわけではないが、彼が少し気の毒になる。カモを見つけ、素早く商品を売りつけたかったのに、陽菜は彼と過ごすことをデートだと信じて疑わなかった。あろうことか、「いっぱい時間をあげます」などと言い出したのだから、ドン引きして逃げ出したに違いない。


 まあ、良くも悪くも、これが花木陽菜の平常運転なのである。


 彼女のハチャメチャな言動に振り回されていた日々が、一か月ぶりに戻ってきたようだった。



 たぶん、そう遠くない未来、自分は陽菜へ想いを告げるのだろう。


 あの街で起きた悲劇を、なかったことにはできない。辛いことや悲しいこともたくさんあった。


 けれど、そこで得たものもある。かけがえのない仲間たちと、愛しい人に出会えたことだ。


(俺が手に入れたのは、不幸を招く力だけじゃない。身の丈にあったほんの少しの、でも何物にも代えがたい絆だ)


 思わず、顔がほころぶ。


 呆れるくらい穏やかな日常の中で、能見はようやく取り戻した平和を噛みしめていた。


読者の皆様、いつもありがとうございます。


第164話をもちまして、「サウザンド・コロシアム」本編は一旦完結となります。

今後はエピローグ、及び外伝シリーズを投稿していく予定です。


ナンバーズたちのその後の様子。

本編では語られなかった、あのキャラクターたちの出会いの場面。

……などなど、盛りだくさんの内容でお送りします。


引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!

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