156 そして、未来へ!
日本国内のクローン体が殲滅されてから、およそ一か月が過ぎた。
破壊された街は徐々に修復され、復興が急ピッチで進められている。
「サウザンド・コロシアム」計画に巻き込まれた被害者たちについては、彼らを代表して九名が警察の取り調べに応じた。自分たちが海上都市に連れ去られ、そこで何があったのかを話した。
芳賀をはじめとする九名――かつてナンバーズと呼ばれた面々は、ほとんどの場合包み隠さずに話した。日本とアメリカを襲った怪人たちが、海上都市を支配していた個体のクローンだったこと、オリジナルの個体はアメリカで誕生したらしいことも含めて、だ。
警察も、初めから彼らの話をすべて信じたわけではない。だが、やがて件の海上都市へ調査船が派遣され、そこに異形の者の死体が転がっているのが確認されると、「十分な信ぴょう性がある」と判断された。
これはあとから分かったことだが、海上都市は太平洋のほぼ真ん中、赤道よりやや上に位置していたらしい。道理でフェリーでの移動に時間がかかったわけだ。
二点だけ伏せていた事実がある。被験者たちに能力が移植されていたことと、彼らが力を使いすぎれば怪人化するということだ。
「管理者は薬品を使って、僕たちの体を自分たちと同じように作り変えようとしていました」
ややぼかした表現をして、芳賀は説明した。
これについては、仲間内で議論を重ねて「公表するのは控えよう」という結論が出ていた。
非公表案を最も強く推したのは、能見だった。
『「サウザンド・コロシアム」計画の被験者諸君は、いわば新人類だ。普通の人間にはない力を持った君たちは、いずれ人々から忌み嫌われるようになるだろう。君たちが私を倒そうとしたように、君たちも今の人類の手で駆逐される』
スチュアートに致命傷を与えた際、彼は上記の台詞を投げかけられた。そのときこそ「でたらめを言うな」と反発したが、いざ日本に戻り、少しずつ元の生活が始まると、スチュアートの予言が現実味を増してきたのだ。
「元被験者には、特殊な力がある」。このように公表されれば、世間の人々からの目は変わってくる。偏見によって、あの街から生還した者がまっとうに生きていく道が狭められてしまうかもしれない。
少なくとも、今はまだ公表すべきではない。ナンバーズの九人は、全員一致でこう考えていた。仮に事実を世間へ知らせるとしても、もう少し状況が落ち着いてからの方がベターだろう。
それに、もう被験者たちが怪人化する恐れはないと思われた。日本へ戻るフェリーの中で、芳賀は能力を使い続けることの危険性を伝えている。
フェリーから降りて各自が散っていく際にも「必要に迫られない限り、能力を使うな。私的目的のために使うのはもってのほかだ」と一人一人へ注意が行われた。よりによって菅井に注意され、永井と冴は震えあがっていたという。
「サウザンド・コロシアム」計画に巻き込まれた被害者への措置として、国は支援金を給付した。もっとも、荒廃した都市部の再建にも費用がかさんだため、能見たちへかなりの額を回せたわけではなかった。が、それでも十分すぎるほどだった。
元被験者の多くは、支援金を利用して首のナンバーを除去した。ナンバーはいくら水で洗っても落ちず、入れ墨のようなものらしかった。専門の治療を受け、レーザー照射や切除手術によっては消すことができた。
このようにして、すべての被験者は本来の暮らしを取り戻しつつあった。悪夢は終わり、新たな日々が始まった。




