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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
10.「決戦・スチュアート」編
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132 ワンとスリーでコンビネーション

 一方、荒谷が迎え撃っていたのはスチュアートのクローン群だった。


 オリジナルと異なり武装ガジェットを身につけていないため、「立体映像投影」「光学迷彩」といったアビリティーを使われる心配はない。純粋な格闘のみが、彼らの武器だった。


「……喰らえ!」


 目くらましの類を使ってこないのなら、いくらでも戦いようはある。低空飛行して敵から距離を取ると、荒谷は両手から破壊光弾を撃ち出した。真紅の光弾が命中し、何体かを吹き飛ばすのに成功する。


 しかし、楽観はできない。今の攻撃だけで倒せたとは思っていないし、スチュアートのクローンは全部で二十体ほどいた。より効率的に、弱点を突いた攻撃をぶつけていかなければ、すべて倒し切るのは難しい。



 音もなく着地し、荒谷はさっと辺りを見回した。同じくスチュアートのクローン体と交戦している仲間を見つけ、呼びかける。


「陽菜さん、ちょっと手を貸してくれないか」


「ふえっ⁉」


 彼女はちょうど、一体の怪人を切り伏せたところだった。ナイフを振り抜いたままの恰好で、ちょっと驚いたようにこちらを見つめている。


「えっと、具体的には何をすればいいの?」


「照準補助だ。能見をサポートしていたときのように、俺にも――」


 ふと、背後に殺気を感じる。咄嗟に宙へ浮かび上がり、荒谷はクローンが振るったかぎ爪をかわした。



「……トリプルスリーは、後回しだ。先に、トリプルワンから、無力化する」


 高く飛んだ荒谷を追うのを諦め、怪人たちは今度は陽菜をターゲットにしたらしい。彼女の方へ群がり、突進する。


 いくら陽菜に予知能力があり、敵の攻撃を先読みできるとはいえ、多勢に無勢だ。彼女を救うべく、荒谷は急降下した。光弾を放ちながら滑空し、クローンたちを薙ぎ払う。


 そこに、後方に控えていた能見の援護射撃も加わった。熱と鉛の弾丸の雨に撃たれ、怪人たちが倒れていく。


「陽菜さん、大丈夫か⁉」


「……あっ、能見くん」


 口元に手を当て、陽菜がそわそわと振り返る。


 能力を使えなくとも、彼はナンバーズの一員であり、かけがえのない仲間だった。遠くに、拳銃を構えた能見の姿が見える。


 心から自分を気遣ってくれているような、優しい表情。それを認めると、陽菜は何だか胸が熱くなった。


「ありがとう」


 にこにこ笑って手を振ろうとしたところ、彼女の体はふわりと浮き上がった。



「わわっ⁉」


「あんまりバタバタするなよ。あと、変な風に解釈したりもするな。地上にいたら危ないから、一緒に飛ぶことにしただけだ」


 大げさだな、と言いたげに荒谷が呟く。彼にしてみれば、空を飛ぶのは別段珍しいことではない。


 陽菜を抱き上げたままの姿勢で、荒谷は高度二十メートルほどの高さを旋回した。徐々に飛行速度を落とし、やや苛立ったように陽菜へ言う。


「……なあ、照準補助を頼みたいんだが。早くしてくれないか」


「それは、分かってるけど」 


 陽菜がすぐにサポートに移れなかったのには、いくつか理由がある。一つは、出し抜けにお姫様抱っこをされて、状況の理解が追いつかなかったため。もう一つは、荒谷とタッグで戦ったことがほとんどなかったため。最後の一つは、ごく個人的な感情だった。


 大切なパートナーと言葉を交わしていたら、それを中断するようなかたちで空中へ持ち上げられたのだ。ここが戦場でなければ、もっと露骨に膨れていたかもしれない。



「むうっ。どうせ補助するなら、能見くんが良かったのに」


「悪かったな。……てかそれを言うなら、俺だって咲希と組みたかったぜ」


 負けじと荒谷も意地を張り、唇をへの字に曲げた。


 能見は力を使うことを止められている。咲希も肉体の怪人化が進みかけていて、とても戦える状態ではない。彼女を残し、この戦場に駆けつけねばならなかったとき、荒谷はひどく心を痛めた。


 お互い、パートナーが戦えない中で即席コンビを組んだわけである。


「だがまあ、ないものねだりをしてもしょうがない。ここは一つ、力を合わせないか」


「しょうがないなあ」


 渋々ながら双方が譲歩し、やがて目で頷き合う。



「――待っててね、能見くん。能見くんが戦わなくてもいいように、私たちだけで終わらせてみせるから」


 地上に残って、クローン群と銃で応戦しているパートナーを見やり、陽菜が戦士の顔になる。


「――この程度の雑魚に割いている時間はない。とっととラスボスに到達して、俺は咲希を助けなくちゃいけないんだよ!」


 恋人を救うという決意を新たに、荒谷も吠えた。


 荒谷の袖を、陽菜がくいくいと引っ張る。それによって破壊光弾の照準が修正され、一発一発が敵の心臓部を穿つようになる。


 手のひらから放たれた、無数の弾。光弾自体が生きているかのように、それは自在に軌道を変化させ、大地を闊歩するクローンたちへ命中する。



 立て続けに爆発が起こり、能見は反射的に腕で顔を庇った。目を開けたときには、怪人の肉片が四散していた。


(やるじゃないか、あいつら)


 即席コンビながら、威力は絶大。陽菜の正確な照準と、荒谷の圧倒的な火力が合わされば敵はない。


 華麗な勝利を収めた仲間たちを、能見は誇りに思った。


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