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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
10.「決戦・スチュアート」編
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131 ベストパートナーと挑め

 他の面々も、迅速に動いた。


「……あー、あかんわ。お前らを見とると、同じ顔をした奴にぶん殴られたときのことを思い出してしまう」


 右手で握ったナイフに疾風を纏わせ、武智が忌々しげにこぼす。彼が対峙しているのは深漆黒の皮膚を持った怪人群――オーガストから生まれたクローンたちだった。


 美音を目の前で殺されたとき、武智は怒り狂ってスチュアートに挑んだ。彼を阻み、圧倒的な防御力でねじ伏せたのがオーガストであった。


「せやけど、あのときのようには倒れへんで。覚悟しときや、お前ら!」


 刃に、拳に、足先に、全身にかまいたちを帯びさせる。クローンの群れの中へ飛び込んだ武智は、ナイフを振るい、続けざまに殴打や蹴りをも見舞った。次々とターゲットを変えつつ、流れるような連続攻撃を繰り出していく。


 限界近くまで能力を発揮し、体を真空の刃で包んだ武智は、彼自身が一本の剣であるかのようだった。触れる者を容赦なく切り裂く、無双たる戦士である。



 クローンの皮膚は、オリジナルであるオーガストほどには硬くなかったようだ。たとえ一度目の斬撃を耐えきっても、二度斬られると出血し、体勢を崩している。たちまち四、五体が倒れ、戦闘不能となった。


 どうにかして、武智が纏っているかまいたちを突破したい――オリジナルほどの知能を持たないクローンにも、それくらいは思いついた。最初はバラバラに戦っていた彼らが、次第に連携を見せ始める。四方八方から武智を取り囲み、防御の弱い箇所を見つけようと飛びかかる。


「……ちっ」


 ガードを優先し、三六〇度に真空の刃を張り巡らせるとなると、攻撃に割く余力がなくなってしまう。クローン体に囲まれ、武智は舌打ちした。


「――手を貸すぞ、武智!」


 パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。刹那、武智の死角から迫っていたクローンの動きがぴたりと止まる。


 その眉間を銃弾が撃ち抜き、致命傷を与えた。



「一人で突っ走るな。俺たちは同じチームだろう」


 拳銃で敵を牽制しながら、菅井は武智の元へ駆け寄った。さらに指を鳴らし、敵数体の身動きを封じる。


「俺は美音さんから、チームの未来を託された。誰一人欠けることなく、皆が笑い合える未来をな」


「リーダー……」


 クローン一体を切り伏せ、武智が顔だけを菅井へ向けた。粗野な言動が目立つ彼だが、このときばかりは柄にもなく目を潤ませている。共に戦ってきた仲間の言葉には、感極まるものがあったのだろう。


「今こそ、その未来を叶えるときだ。絶対に死ぬなよ、武智」


「分かっとるわい。リーダーこそ、俺の強さに置いてけぼりを食らわんようにな!」


 軽口を叩き合い、二人はにっと笑った。それから、再び戦闘へ突入した。


 停止能力を駆使し、菅井が敵を食い止める。隙が生じたところに武智が躍りかかり、風の刃で切り裂く。見事なコンビネーションで、彼らはオーガストのクローン群を殲滅した。



 いくつもの手のひらが突き出され、そこから真紅の稲妻が一斉に撃ち出される。


「――君たちのオリジナルにも、同じようなことを言った記憶があるけど」


 雷鳴が響き、スパークが激しく飛び散る大地を、芳賀は全速力で駆けた。ひらり、ひらりと華麗に身を捻り、紙一重のところで稲妻をかわしていく。


「姿を消せる相手ならともかく、君たちの攻撃なら回避するのは容易い!」


 アイザックのクローン群は、なおも雷を放っている。しかし、芳賀には一発も当たらない。僅かでも目で捉えることができ、「攻撃」だと認識できる限り、いかなる攻撃も彼を傷つけることはできないのだ。


 ラッキーセブンが三桁揃ったのが「777」、トリプルセブン。能見の「666」とは反対に幸運の象徴であるそれは、戦士に神の加護をもたらすかのようだった。


 稲妻の嵐をくぐり抜け、芳賀が敵の懐へ潜り込む。すれちがいざまに短刀を振るい、クローンたちを斬り捨てていく。


「残念だったね。君たちと僕では、能力の相性が悪すぎる」


 ナイフを鞘に収めると、芳賀は束の間目を閉じ、息を吐き出した。彼は既にこの一戦を終えていた。


「……不幸な事故、だとでも思っておいてくれ」


 数秒後、クローンの体が崩れ落ちる。ある者は胸部を深くえぐられ、またある者は腹部を貫かれ、再起不能なほどのダメージを負っていた。


 何事もなかったかのように、芳賀が屍たちから離れ、歩き去る。そして、「決まった」と言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた。芳賀は自信家でナルシスト気質なのが玉に瑕だが、気取った仕草が絵になるのだから不思議である。


 ごく短い間に、アイザックが生んだクローン群は全滅していた。鮮やかでかつ無駄がなく、非常にスマートな戦いぶりといえるだろう。



「和子、機関銃をお願い!」


「うん! ……って、今日は二本なの?」


 唯から鉄パイプを受け取って、和子は首を傾げた。いつもは一本だけ渡されるパイプが、今回は二本分用意されていたからだ。


「敵の数が多いからね。こんなこともあろうかと、多めに持って来といたの」


 悪戯っぽく微笑み、唯は明かした。


「それに、和子だけに戦わせたくなかったし」


「なるほど~。さすがは唯ちゃんだね」


 和子がにっこり笑い、鉄パイプに手を触れる。ぐにゃりと曲がった金属が、瞬時に機関銃へと変形する。生成された二丁の銃のうち、一つを唯へと渡す。


 彼方からは、ケリーの似姿を持つ、紺色の怪人の群れが押し寄せてきている。クローンたちは二人を取り囲み、鋭い爪で襲いかかろうとしていた。



「――行くよ、唯ちゃん!」


「足手まといにならないでよ、和子!」


 唯が和子の背にそっと触れ、能力を最大限にブーストする。全ての下準備を終え、彼女は相棒の後ろに立った。


 この海上都市に閉じ込められ、血塗られた戦いに身を投じてから一か月半。短いようで長い時間を、彼女たちは互いに力を合わせ、懸命に生き抜いてきた。楽しいことも、悲しいことも、一緒に乗り越えてきた。


 ベストパートナーとのタッグは、絆や友情を知らないクローン怪人に打ち破れるものではない。



「さっさと終わらせて、取り戻してやろうじゃない。――管理者が私たちから奪った、平和な世界を!」


「美音さんだけじゃなく、他の大勢の人たちを巻き込んだ管理者。……私は絶対に、あなたたちがしたことを許しません!」


 凛とした声で、二人の戦士が啖呵を切る。


 唯と和子は背中合わせに立ち、相方の死角をカバーし合った。そして機関銃を構え、力の限り撃ち続けた。


 やはり、所詮はクローン。ケリーに匹敵するほどの素早さで動ける個体はおらず、弾丸の軌道を見切れる者もいなかった。


 二人の銃撃の前に、次々と怪人が倒れていく。


 美音を殺されたとき、唯と和子を圧倒してみせたケリー。彼女から生まれた敵を屠ったことで、二人はある意味、リベンジを果たしたのかもしれない。


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