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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
8.「反撃のトリプルナイン」編
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103 凸凹コンビ

 さて、話を戻そう。


「……あのさ、永井くん」


 左方に陣取ったグループのうち、指導者らしき女性はこめかみを押さえ、ため息をついた。


「ビビるも何も、あなたの能力はこれまでに何十回も見てきてるわよ。これくらいで驚くわけがないでしょう」


 赤いフレームの眼鏡をかけた女は、知的なオーラを放っていた。背が高く、顔立ちも整っている彼女には、「クールビューティー」の言葉がよく似合う。長い黒髪が風になびいていた。


 この街に来る前は、社会人として働いていたのだろうか。あるいはまだ学生で、就職活動に励んでいるところだったのかもしれない。永井と顔を合わせるとき、彼女は決まってビジネススーツ姿だった。



「うるせえな、緑川。細かいことはどうでもいいんだよ」


 永井大和は、苛立ったようにかぶりを振った。


 互いの拠点が近いこともあってか、双方のグループはこれまでに何度も戦いを繰り広げてきた。しかしその実力はほぼ拮抗しており、いまだに決着がついておらず、死者も出ていなかった。


 彼らがさほど勢力を拡大できていない理由の一つも、ここにある。近隣に潜む敵勢力とのバトルに追われ、遠征する余裕がないのだ。


 もっとも、だからこそ自分から危険に飛び込むようなことも少なく、グループ全滅の危機を免れてきたのだが。


「とにかく、俺たちは今日こそてめえらをぶっ潰す。立ち上がる気力もなくなるまでボコボコにして、じわじわと痛めつけて、生まれてきたことを後悔させてから殺してやる!」


「特撮作品に出てくる悪役みたいな台詞ね……。というか、中二病みたいで気持ち悪いのだけれど」


 血気盛んにまくしたてる永井を前に、緑川冴は露骨に嫌そうな顔をしてみせた。


 彼女の首に刻まれたナンバーは、「771」。トリプルセブンのものと似た回避能力に加え、トリプルワンのような予知能力も使うことができる。


 いずれの効果も芳賀や陽菜には及ばないが、両方を組み合わせることで隙をなくしていた。視認できる攻撃には回避能力で対処し、死角からの不意打ちは未来予知によって防ぐ。彼女にダメージを与えることは、並大抵の被験者では難しい。



「私の記憶が正しければ、あなたの撃った弾が私に当たったことは一度もないはずよ。今日も懲りずに挑んできたということは、何か策があるのかしら?」


 くいっと眼鏡を押し上げ、冴は問う。


「リーダー、指示を!」


「作戦があるんでしょう? 早く教えて下さいよ」


 彼女の言葉を受けてか、永井の仲間たちも催促し始める。


「いや、それはだな……」


 が、永井の笑顔は引きつっていて、紡ごうとする台詞も歯切れの悪いものだった。


「まあ、あれだよ、あれ。気合いで押し切れば、どうにかなるだろ」


「全然考えてなかった⁉」


 部下から失望の声が漏れ聞こえ、冴も呆れ顔だ。彼女のグループの者たちは、堪えきれずにくすくす笑っている。



「……クソが。てめえと話してると、どうも調子が狂っちまうぜ」


 仲間を睨みつけて黙らせてから、永井は再び冴と対峙した。手にした銃剣付きのショットガン、その銃口を彼女へ向ける。


「面倒な前振りはなしだ。最初からクライマックスで叩きのめしてやる!」


「あら。威勢だけはいいのだから、困りものね」


 冴もナイフを手にし、油断なく構えた。銃弾をかわしたら、すぐに敵の懐へ踏み込んで斬りつけるつもりのようだった。


 両勢力が今にも激突しようとしていた、そのときだった。パン、と乾いた音が辺り一帯に響き渡る。


「誰かが発砲したのだ」と気づくのに何秒かを要した。けれども、永井も冴も、両グループの誰もまだ攻撃していない。



(威嚇射撃か⁉)


 わざと自分たちに当てず、警戒させる意味でぶっ放したらしい。何だか舐められているような気がして、永井は無性に腹が立った。


 辺りを見回すも、敵の姿は見えない。


「――お前らか。この近くにたむろして、いつも騒いでる雑魚グループは」


 冴と言い争っている間に、日は没していた。


 闇に包まれた街を、何組かの足音が忍び寄ってくる。


「誰だ。姿を現せ!」


 音のした方へショットガンを向け、永井はやみくもに撃った。


「あなたたちも攻撃しなさい!」


 冴も部下に命じて、拳銃を打たせる。もはや両陣営の争いは中断され、双方、第三勢力の排除に躍起になっていた。


 だが、いくら撃っても闇の中から砂埃が漂ってくるだけで、まるで手応えがない。何か硬いものを撃っているような感触があった。



 やがて視界が晴れると、やや離れた位置に四名の男女が立っていた。


 ホスト風の男が一人と、髪を短く刈った、体格の良い男が一人。グレーの布マスクにパーカー、ダメージジーンズといった、陰気な出で立ちの女が一人。おどおどしているボブカットの女が一人。


 四人の前には、砂の塊が鎮座していた。永井たちには知るよしもなかったが、和子が能力で作り出した防御壁の残骸である。よく見れば、砂の中にそれが受け止めた弾丸が混じっていることに気づけただろう。


 人数こそ少なく、永井のグループと同じかそれ以下だ。しかし、彼らの体からはすさまじい威圧感がにじみ出ていた。数え切れないほどの死線をくぐり抜けてきた、歴戦の強者の風格があった。


「今からここは俺たちの縄張りだ。とっとと失せろ。さもないと……」


 凄みを利かせ、菅井は一同をぐるりと見回した。


「お前らは全員死ぬことになる」


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