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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
7.「トリプルシックスの秘密」編
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097 復活!トリプルシックス

「……う、ああっ。ああああっ」


 体内に高圧電流を流し込まれ、陽菜が悶える。威力を分散させず、ターゲットを彼女一人に絞った雷撃は強烈で、場合によっては一瞬で命を奪える。


「陽菜さん!」


 彼女が窮地に陥っていることに気づき、荒谷がアイザックの方へ振り返った。援護すべく、手から光弾を放とうとする。


「――よそ見をする余裕があるのかしら?」


 だが結果としては、その僅かな隙が致命的になった。ケリーに高速移動させ、懐に踏み込む機会を与えてしまう。


 「まずい」と思い、振り向いたときには彼女の攻撃が決まっていた。至近距離で素早く爪を振るい、荒谷の脇腹が深く切り裂かれる。



「がっ……」


「荒谷さん!」


 片膝を突いた彼を、唯が慌てて支えようとする。


 紺の怪人は踵を返し、今度は唯へ向けて飛びかかった。空中で華麗に身を捻り、跳び蹴りをヒットさせる。転倒したところに馬乗りになり、とどめとばかりに右手の爪を振り上げた。


「残念だったわね、お嬢ちゃん。私たちの言うことを大人しく聞いていたら、もう少し長生きできたかもしれないのに」


 しなやかな動きで、右腕が繰り出される。その先が狙うのは、唯の胸元。心臓を一突きし、スマートに仕留めるつもりのようだった。


 もう駄目かもしれない。「ひっ」とか細い悲鳴を漏らし、唯は思わず目を閉じた。



「なかなかしぶといじゃねえか。だが、いつまで耐えられるかな?」


 陽菜はまだ、かろうじて意識を保っていた。そのことに少なからず驚きつつも、アイザックが笑みを深める。


「お前を殺したら、次はトリプルセブンを地獄に送ってやる。一人ずつじっくりいたぶりながら殺して、俺たちに反逆したことを死をもって後悔させてやる」


 乾いた笑い声を発し、怪人がさらに陽菜へ電圧をかけようとした、そのときであった。



「――やめろ!」



 放たれた雷撃の槍が、アイザックの体を吹き飛ばす。紫電の奔流が、すさまじい勢いで吹き荒れる。


「何っ⁉」


 完全に不意を突かれ、ガードできなかった。痛みに呻き、怪人は無様に地面を転がった。


 その拍子に手が離れ、持ち上げられていた陽菜は体の自由を取り戻した。へなへなと座り込み、それから激しく咳き込む。


「……けほっ。ごほ、ごほっ」


 気管の圧迫、致死量の電圧。あと少し遅かったら、本当に殺されていただろう。喉に手を当ててみると、稲妻に焼かれた跡が黒く残っていて、焼けるように痛む。


(でも、誰が助けてくれたんだろう?)


 何とか生命の危機から脱してはじめて、陽菜は素朴な疑問を抱いた。


 先刻、アイザックを弾き飛ばした紫電。その使い手は、彼女が知る限り一人しかいない。恐る恐る顔を上げると、彼は心配そうに陽菜を覗き込んでいた。


 仲間たちの苦戦を知り、彼は戦場へ駆けつけたのだった。


「……遅くなってごめん、陽菜さん」


 彼女の肩へ手を置き、そっと側を通り抜ける。


「あとは任せてくれ。ここは俺が引き受ける」


 陽菜を痛めつけ、もう少しで死に至らしめようとしたアイザックを、許すつもりはなかった。


 真っ直ぐに歩き、能見は紅の怪人と対峙した。



「……ダメっ。ダメだよ、能見くん」


 どうして能見がここにいるのか、陽菜には分からない。芳賀の部下から彼が戦況を聞いたことも、それで飛び出してきたことも、彼女は知らない。


 けれど、彼が戦ってはいけない体であることは明らかだった。今のまま力を使い続ければ、そう遠くない未来、能見はアイザックたちと同じ怪人へと変わってしまう。


「約束したのに。もう戦わないって、能見くん、約束してくれたのに」


 言葉を詰まらせ、うっ、うっ、と陽菜は嗚咽を漏らした。麻痺してほとんど動かない腕を僅かに震わせて、彼を止めるべく手を伸ばそうとする。


「愛海ちゃんみたいにならないでって、約束したのに。……やめて。お願いだから、もう戦わないでよっ」


 心から自分のことを想ってくれているんだな、と能見は痛いほど感じた。逆の立場だったら、同じことをしていただろう。



「……ごめんな、陽菜さん。今回だけ、約束を破らせてくれ」


 だが、彼には戦う理由があった。振り返らず、淡々と決意を告げる。


「確かに、俺の体が人でなくなってしまうのは怖い。けど、皆がやられるのを黙って見てる方が、よっぽど怖いんだ」


 震える拳を無理やりに固め、能見は自分を奮い立たせた。


「――だから俺戦うよ、陽菜さん」


 束の間振り返り、能見は微笑んだ。背負っているものをまるで感じさせない、柔和な笑みだった。


「……もう、馬鹿だなあ。能見くんってば」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔を、袖でぐいぐい拭いながら、陽菜も弱々しく笑った。


「でも、能見くんらしいや。そういうところ」


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