表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
7.「トリプルシックスの秘密」編
104/216

092 昼ドラ追いかけっこ

 そして、チーム二である。


 何やら一名ほど、「打倒管理者」とは別の野望を秘めている者もいた。


(……よし。頑張るぞ、私!)


 小さく拳を握り、自信に気合を入れる。それから唯は、荒谷の側へ駆け寄った。


「行きましょう、荒谷さん。私、一生懸命サポートしますね」


 にっこり微笑み、彼の腕を取る。なかなか積極的なアクションに、さすがの荒谷も慌てていた。


「ちょ、ちょっと、清水さん⁉」


 今日の唯は灰色の布マスクをつけていないし、フード付きのパーカーやダメージジーンズも着ていない。この街へ来るときに身につけていた、崩れた感じの私服は一切着て来なかった。


 代わりに纏っているのは、管理者から支給されたシンプルなデザインの衣服だ。白いブラウスに、紺のロングスカート。以前とは打って変わって、明るい印象を与える。


 彼のハートをゲットするために、思い切ってイメチェンしたのだ。



「今はまずいんだ。彼女が見てるかもしれない」


 あたふたと手を振りほどこうとする荒谷を、唯は上目遣いで、悲しそうに見つめた。


「……ダメ、ですか?」


 フードを被っていないと、艶のあるセミロングの黒髪が映える。マスクで隠されていた赤い唇も蠱惑的で、荒谷は不覚にもどきりとした。


 ちなみに、ここまでは全て唯の計算通りである。


 荒谷の恋人が誰なのか、唯は直接聞いたわけではない。だが、陽菜が能見と親しくしているらしいことを知ると、消去法で相手は咲希に絞られる。二人はいつも行動を共にしていたし、唯は「咲希さんで間違いないよね」と確信していた。


 その咲希が別チームで動いている今が、絶好のチャンスだった。ここぞとばかりに全力でアピールし、荒谷を自分にときめかせようと思っていた。


「今がダメだったら、あとで、でも良いんですよ」


 極めつけは、耳元に唇を寄せて囁いたことだ。


「この作戦が終わったら、彼女さんがいないときに会えませんか? もちろん、二人きりで」


「いや、それは……」



 さすがにまずいだろう、と荒谷は首を振った。ちらりと遠くを見やり、咲希が聞いていないことを確認してから言う。


「悪いが、俺には心から愛している人がいるんだ。その人を裏切るような真似はできない」


「真面目なんですね、荒谷さんって」


 近づけていた顔を離し、ふふふ、と唯は艶めかしく笑った。熱を帯びた視線と、甘えたような声が荒谷を誘惑する。


「私はそれでも構わないですよ。たとえ、最初は遊び相手としてでもいいんです。私のことを見て下さい。そして、めちゃくちゃにして下さい」


「……な、何を言ってるんだ! いい加減にからかうのをやめないと、怒るぞ」


 口ではそう言いつつも、荒谷の顔は真っ赤だった。案外、ナイーブな部分を残した青年なのかもしれない。咲希が彼のことを「子犬みたいで可愛い」と褒めるゆえんも、この辺りにあるのだろう。


 小柄な唯が背伸びをして、さらに距離を縮めようとする。荒谷は必死に逃れようとする。



 非常にドロドロした追いかけっこを目の当たりにし、陽菜はぽっと赤くなっていた。


「……うちの仲間がすまない」


 気まずい空気の中、菅井がぽつりと漏らす。


「普段はクールな奴なんだが、あいつ、彼氏ができたことがまだないらしくてな。この街に連れ去られたせいで、本来送るはずだった大学生活も奪われて。そういうこともあって、躍起になってるのかもしれない」


「分かります!」


「……は?」


 だが予想に反し、陽菜は赤い顔でうんうんと頷いていた。じゃれ合っている二人を眺める表情には、憧れも混じっている。


「彼氏、欲しいですもんね。私、『男の子に好かれそうだな』って思って女子大の文学部に入ったんですけど、全然彼氏できなくて。ていうか、入学してすぐにこっちに来ちゃったんですけどね」



 被験者全体の傾向として、「海上都市に来る前の記憶はあるが、今年の四月中旬以降のことはよく覚えていない」ということがある。つまり、管理者が彼らに何らかの処置をして、この街までさらってきたのはその時期だと推定される。


 陽菜たちにとっては不幸なことに、ちょうど大学の入学式の時期と被っていたらしい。


 また、被験者の平均年齢は低い。年長の者でもせいぜい三十歳に届くか届かないかくらいで、多くは大学生だ。


 実験対象に若い人間が必要だったのか、大勢の人が集まる場所に目をつけたら、そこがたまたま大学だったのか。真相は分からない。が、ともかく管理者は、大学をはじめとする教育機関から大勢の人々をさらったようだ。


 そんなわけで、唯や陽菜が「失われた青春」に憧憬するのも、まあ無理はないのだった。



「いや、その理屈はおかしいだろ」


 菅井は首をかしげていた。


「彼氏が欲しいのなら、学部云々以前に、共学の大学へ進むべきじゃないか?」


「それは、あれですよ。合コンとかやれば解決です。あと、インカレに入るとか!」


「……そのキラキラした目でこっちを見ないでくれ。リアルな女子大生すぎて、何となく怖い」


「えー、何でですかあ?」


 荒谷と唯も昼ドラ顔負けの展開を見せていたが、こちらも負けず劣らず、噛み合っているようで噛み合っていない会話が延々と続きそうである。



 ほのぼのとした時間は、しかし、一瞬で断ち切られた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ