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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
7.「トリプルシックスの秘密」編
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091 作戦、再始動

 一方、芳賀たちは、能見と陽菜抜きでミーティングを進めていた。


「今後の作戦には、能見は参加させない。彼のためにも、僕たちだけでこの戦いを終わらせよう」


 ひとまず基本方針を打ち出してから、芳賀は咲希へ話題を振った。


「咲希さんは、能見の力をコピーして使えるはずだね」


「ええ。それがどうかした?」


 怪訝そうな顔の彼女へ、説明を続ける。


「正直に言って、能見の力を手放せば戦力ダウンは避けられない。彼の電撃は射程距離が長いし、当たった相手を麻痺させ、短時間だが動けなくさせることもできる。硬い皮膚を持つオーガストにも有効だったくらい、あの電撃は強力なんだ」



 そこで、と芳賀は人差し指を立てた。


「咲希さんに彼の力をコピーして使ってもらえば、これからもあの力を扱えることになる。……もちろん、以前のように二人で同時に電撃を放ったりはできないだろう。けれど重要なのは、能見の力を継続的に使えるということだ。清水さんにブーストをかけてもらえば威力もアップするし、主戦力に」


「あー、ごめんね。めちゃめちゃ真剣に検討してくれてるところ、悪いんだけどさ」


 長くなりそうだったので、咲希は先手を打った。話を遮り、そのプランを進める上での致命的な欠陥を伝える。


「あたしの能力は、近くにいる人の力しかコピーできないの。だから、もしあんたがその作戦で行きたいのなら、あいつを戦場に連れて行くことになるけど」


「おい、それはまずいんと違うか」


 武智が顔色を変えた。


「戦えない状態の能見を連れて行って、万が一危険に晒したらどうするんや。……それに、あいつのことや。俺らがピンチになったら、いてもたってもいられなくて加勢しようとするに決まっとる」


「あり得るね」


 難しい表情で、芳賀が首を横に振る。


「仕方ない。能見を作戦チームから除外して、彼の力も使わずに戦おう」


 彼の決定に、反対する者はいなかった。



「それで、次はどう動くんだ」


「当面は、監視カメラの破壊を続けるつもりだよ」


 菅井に問われて、芳賀はすぐに答えた。あらかじめ案を練っていたのだろう。


「君たちのグループが使っているアパート、あの周辺のカメラは大体壊した。でも、まだ三割ほどは残っているはずだ。管理者の目が届く場所は、少ないに越したことはない」


 しかし、その見通しは甘くなかった。芳賀の顔つきは険しいままだ。


「ただし、油断は禁物だ。彼らとしても、僕たちが残りのカメラを壊そうとすることは想定内だろう。前回のように奇襲される可能性は、決して低くない」



 あくる日の夜。日没とともに、彼らは動き出した。


 菅井たちが拠点とするアパート前に集合し、監視カメラ破壊作戦が再開される。


「編成は、昨夜説明した通り。――チーム一が僕と武智、咲希さん、望月さんの四名。チーム二は菅井、荒谷、陽菜さん、清水さんの四名だね」


 皆を見回し、芳賀が最終チェックを行った。各々が静かに頷く。


 全員揃っているし、士気も十分に高い。そのことに満足してもなお、彼は激励の言葉を忘れなかった。


「このチームから能見を外さざるを得なかったことは、本当に残念だよ。……けれど、たとえ離れた場所にいても、僕たちの心は一つだ。彼が安心して僕らに後を託せるよう、ここで頑張ろう」


 能見に助けられたことは、皆少なからずある。思い思いの表情を浮かべ、彼らは束の間、物思いにふけった。陽菜はちょっぴり寂しそうだし、武智は「俺があいつの分まで戦ったるわい」と気負っている。



 なお、能見が戦力外となるに際して、戦力を補うために「グループ内の他の被験者も参加させるべきではないか」との意見も出た。けれども、芳賀の強い反対によって押し切られた。


 芳賀が統率しているグループは、幾度もの戦いと合併を経て、かなり大規模なものへと成長している。特に菅井たちの勢力を味方に引き入れてからは、人数が当初の倍近く膨れ上がった。


 しかしながら、彼らの大半は弱い能力しか使えない。数で押せばあるいは何とかなるかもしれないが、管理者とやり合うのは厳しいと思われた。


 また、そもそも管理者の存在を知らされていない者も多い。下手にショックを与えたくはないし、戦う中で彼らの力が活性化し、怪人化するようなことがあっては最悪だ。耐性を持つナンバーズとは異なり、普通の被験者は皆等しく、怪人化の危険性を秘めているからである。いつ爆発するともしれない時限爆弾を、体内に抱えているのだ。


 現状では、摂取するウィダーゼリーの量を最低限に抑えさせ、何とか怪人化を食い止めている。が、それもいつまでもつか分からない。


 部下に危険を冒させるわけにはいかず、芳賀はあくまで「自分たちだけで戦う」と決めた。板倉や愛海のような悲劇を、二度と繰り返すつもりはなかった。



 チーム一のリーダー、芳賀が三人に声をかける。


「それじゃ、行こうか」


「せやな」


「ええ」


「……は、はい! よろしくお願いします!」


 武智と咲希は気楽なリアクションを返したが、和子はやや緊張しているようだった。いつも一緒に行動していた唯とバラバラになって、心細いのかもしれない。


「和子ちゃん、そんなに硬くならなくても大丈夫よ」


 くすくす、とおかしそうに笑い、咲希が彼女の肩に手を置く。


「私たち、仲間じゃない。全然遠慮しなくていいのよ?」


「そ、そうですよね。えへへ」


 ショートヘアの勝気そうな美女を前に、和子はなぜかどぎまぎしていた。頬に朱が差し、咲希の顔を直視できない。


(……あれっ? どうしたんだろう、私)


 本人にはあまり自覚がないが、やはり和子にはそっちの気があるのかもしれない。


 美音が「優しいお姉ちゃん」だったとすれば、咲希は「ボーイッシュでかっこいい先輩」にあたるのだろうか。新しい性癖が開拓されてしまった予感に、彼女は胸を高鳴らせた。


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