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98 作戦変更


 部屋から出ていくアルクをバルログはしばらく見送っていた。

 8年前、汚れた路地の片隅で震えていた兄妹をチームに案内したバルログは、なにかと二人の面倒を見ていた。そのアルクが山猫のボスになっていたのは驚きだった。

 部下たちに頼られているということはその態度や統率のとれた動きからも明白で、なんだか感慨深いものがある。


「バルって友達いたのね。ぼっちだと思ってたわ」

「……」


 チャオが失礼なことを言ってくるが、実際にぼっちなので言い返せない。アルクとエレクの兄妹には保護者のような感覚だったので、正直かなり戸惑っている。もう五年も会っていなかったのにアルクが昔と変わらない態度で接してくれたのは素直にうれしかった。


「ポルトとルシアさんは?」


 二人の姿が見えないことに気づいてチャオに尋ねる。


「広場の方に行ったわよ」


 バルログはうなずいて広場へと向かった。

 ポルトはとりあえずここに保護してもらった方がいいだろう。父親は行商の旅に出ているらしいので、戻ってくるまでどうにか町に住めるようにしてあげたかった。だがいまのところバルログにこれといった案があるわけでもない。


 まずは、任務を進めないと。

 いまの最優先事項はクエストだ。潜入の前に檻囚棟の下見をしておきたかった。確認のためにチャオも連れていった方がいいだろう。


 広場に出るとポルトとルシアがなにやら話していた。遠巻きに少年たちがにやにや笑いを浮かべながらルシアを眺めている。ここは、ルシアにとっては安全な場所ではなさそうだとバルログは思う。


 檻囚棟に行くついでにルシアを商業区へ渡る橋まで送ってあげようと考えていると、バルログを見つけたルシアが声をかけてきた。


「おお、バルバル。わしらは、もうここを発つことにしたぞ」

「! そ……そうですか。そ、それが、いい、と……思います」


 ちょうど話を切り出そうと思っていたのでいいタイミングだ。だが、バルログは妙な違和感を覚えた。


 ん?

 いま、わしら(・・・)って言った?


「あ、あの……ポルトは……」

「む? とうぜん、連れていくぞ」


 え? なんで?

 バルログは意味がわからずに困惑する。


「いまから檻囚棟とやらにポルトの妹を探しに行こうと思うてな。だれか、場所のわかる者をつけて欲しいのじゃが……。そうじゃ、バルバルはそこを知っておるか?」

「ちょっ……! なにを言ってるんですか!? まずは潜入して中の様子を確かめてからです。ていうか、俺がなんとかしますから、ルシアさんはもう関わらない方がいいですよ!?」


 驚きのあまり、ルシアに対する緊張がどこかに飛んでしまった。


 なにを言ってるんだ、この人は? 

 話を聞いていれば危険な場所だと想像はつくはずだ。身のこなしから冒険者だろうと目星はつけていたが、隠密行動が得意な盗賊系のクラスではなさそうだった。

 内部の様子もわからずに乗り込んで特定の子供を探して連れ出すなど現実的ではない。潜入調査は指名クエストの一部だが、そこで証拠を掴んでからギルドなり警備隊なりの組織を動かして捕らわれている者を一気に救出するのが確実だとバルログは考えていた。


「気遣い感謝する。じゃが、のんびりしておってはポルトの妹がどうなるかわからんだろう」

「いや……でも……」


 そんなことは言われなくてもわかっている。だからこそ確実に助け出すために入念な情報収集と下準備が必要なのだ。


 バルログは言葉を詰まらせ、ついリカルドの顔を思い浮かべる。

「そんなガキのことなんざ、どうでもいい。まずは敵の戦力を確認して確実にぶっ殺──」


 いや、違う、違う。

 頭の中でしゃべりだしたリカルドをあわててかき消す。


「檻囚棟はアルデオファミリーが管理しています。そこに拐われた人達が捕らわれているなら、警備の戦力はかなりのものを想定した方がいい。こちらは戦力が少なすぎるので、まずは俺たちが潜入して中の様子を確かめます」


 どうにも状況を理解していないらしいルシアに丁寧に説明してみる。


「うむ、がんばれ。まあ、わしがひと暴れしておる間に潜入すれば簡単ではないか?」


 まったく伝わっていないようだ。さすがにイラっとしてきた。


 今まではリカルドの指示を待ち命令されたことを淡々とこなすだけだったので、他人に対してこういう感情を抱くのも久しぶりな気がする。これまで心を押し殺して人形のように生きてきたのだと改めて気付かされた。

 でも、短気はダメだ。まずは丁寧に説明をしないと。


「えーとですね……建物の周りには、まず確実に腕の立つ見張りが複数いるはずです。それを突破したとしても、内部には相当な戦力があると思います」

「ふははは、問題ない。そんなもの蹴散らしてくれるわ」

「……」


 この人、頭が悪いのかな?

 バルログは本気で心配した。説得ができないようなら、事が済むまでここに監禁したほうがいいのかもしれない。アルクに頼めば安全な部屋を用意してくれるだろう。


「ルシアさん!」

「む?」


 いままで黙っていたチャオが真剣な顔でルシアに詰め寄った。

 話術で他人を説得するのはバルログにはハードルが高い。ここはチャオに任せた方がいいだろう。


「すばらしいです! ルシアさん、カッコイイ! わたしにも協力させてください!」


 ここにも馬鹿がいた。

 

「ちょ! チ、チャオ、なにを言って……」

「バル、作戦変更よ! ルシアさんをサポートして檻囚棟に突っ込むわ!」


 バルログは眩暈(めまい)に襲われ足元がふらついた。

 雇い主であるチャオの指示は強制力を持っている。バルログの任務はあくまでチャオとレイクのサポートなのだ。レイクの指示を仰ぎたいところだが連絡手段がなかった。


 ここは大人としてきっちり反対意見を述べる場面だ。あえて怒りを顕にして叱りつけるぐらいの演出は必要なのだが、これまで指示待ちの戦闘機械に甘んじてきたバルログにそんなスキルはない。

 現状を淡々と説明していかに無謀なことをしようとしているかを理解してもらおうとするが、チャオは「よし、燃えてきたわ!」などと頭のおかしいことを宣っている。


「じゃあ、さっそく檻囚棟に向かいましょう。一刻も早くポルトの妹を救出するわよ!」


 チャオは高らかに宣言した。


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