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08 「盗賊なんでね、手くせが悪いんだ」


「やはりな……外とつながっておったか、ベルキシュー」


 ベルキシューは剣を引き抜きざまに横に払い、ルシアの腹を引き裂いた。

 ルシアは血を吐きながらも反転し、倒れずにベルキシューと対峙する。両腕で巻きつけるように傷口を押さえ、内臓がこぼれるのをどうにか防いでいた。


「おおかた、ナイルラトテップあたりの差しがねか? わしの封印さえ解けてしまえば、あのようなものにつかなくてもよいものを」


 いくら魔族とはいえ明らかに致命傷だが、ルシアはわずかに顔を歪めただけで変わらずにベルキシューに話しかける。


「いまあなたを殺せば、魔王の宝物庫を引き継ぐのは、この私。ならば、私こそが魔王の正当な後継者となるのでは?」


「なるほど……身の程を知れ」


 ベルキシューの金色の瞳が怒りに燃え上がる。


「お覚悟!」


 ベルキシューが踏み込み、鋭い剣が無防備なルシアの首筋に吸い込まれていく。


 ギィン!


 とつぜんルシアの前に現れたカイトが、手にした短剣でベルキシューの剣を受け止めていた。


「なんのつもりだ、人間!」


 ベルキシューが飛び下がりながらすばやく剣を繰り出す。

 人間にはとうてい見切れないはずの高速の三段斬りを、カイトは顔色ひとつ変えずに受けきった。


「まあ、なんというか、俺のマスターがあんな感じだから」


 カイトが前に進み出ながら、親指でルシアの方を示す。


「だいじょうぶですか、ルシアさん!」


 ユキがルシアに駆け寄って回復魔法をかける。


「なにを……しておる?」


 ユキの回復魔法は弱すぎて、ルシアの致命傷にはほとんど効果がない。それでも必死に魔法をかけ続けるユキを見て、ルシアは困惑した。

 ルシアは人間に敵対する魔王なのだ。いまは魔王を倒す絶好の機会であり、戦況を見てもルシアに味方をするメリットはまったくないはずだ。


「おまえは、馬鹿なのか?」


「いいから、黙って!」


 ユキは大きすぎる傷口に手をあてて回復魔法をかけ続ける。


「そういうことなんで、とりあえずあんたを倒す」


「人間の盗賊風情が! 後悔するぞ!」


 ベルキシューが叫ぶと、手にした剣が炎を噴き上げた。

 一気に間合いを詰めて振り下ろすが、空を切る。一瞬で姿を消したカイトの気配を背後に感じ、剣を振り上げざまに振り返るが、誰もいない。気配は背後に張り付いたままだ。


「このっ……!」


 振り向きざまに凪ぎ払うと、カイトは飛び下がって剣をかわした。


「おのれ、ちょこまかと……」


 対峙したカイトが素手だと気づいた瞬間、ベルキシューは血を吐き出していた。

 いつの間にか、その胸に深々と短剣が突き刺さっている。


「な……に……?」


 その一瞬でカイトの気配は背後に移動している。気配めがけて剣を降るが、当たらない。再び対峙したカイトの手には胸に刺さっていたはずの短剣が握られている。


「悪いね。盗賊なんで、手くせが悪いんだ」


 カイトは短剣を逆手に握り変えると、腰を落として構えをとった。


「瞬迅剣!」


 カイトが呟いた瞬間、ベルキシューの視界がぐるりとまわった。その視界の端に、地面に立ったままの自分の下半身が見える。

 カイトは最初の姿勢のまま、ベルキシューの十メートルも後方に立っている。

 一瞬遅れて衝撃波がベルキシューの上半身を吹き飛ばし、森の木々を数十メートルに渡ってなぎ倒した。


 あまりの凄まじい光景に、ユキは手を止めて茫然としている。


「かたづいたよ」


「い、いまの、なんですか?」


「ああ、勇者剣術の基本技なんだけど、すばやさを攻撃力に上乗せできるんだ」


「ゆ、勇者剣術!?」


「そんなことより、ルシアはだいじょうぶ?」


 ユキははっとしてルシアを見上げた。もう魔力は使いきっている。


「ふん、ほんの致命傷じゃ」


 魔王ルシアは常時再生の魔法を自分にかけ続けている。無尽蔵の魔力でブーストアップされたそれは、わずかの肉片からでも一瞬で肉体を再構成させ、事実上不死の存在であった。しかしすべての魔力を失ったいま、ルシアは不死身の魔王ではなくなっている。


「魔王城で休んだほうがいいんじゃない?」


「誰もおらん城に戻ったところで、どうにもならん。どうせ朽ち果てるなら、外のほうが何千倍もましじゃ」


「そんな……」


「そうじゃ、あれをなんとかせねばな」


 ルシアは魔王城に目を向けると、足を引きずるように歩き出した。ユキが抱きつくようにしてその体を支える。

 ユキの肩に腕を乗せて、ルシアは魔王城に戻った。


「カイト、それを持ってきてくれぬか」


 エントランスに落ちていた三本の角をカイトは拾い上げた。無限と言われた魔王の魔力を蓄えたそれは、赤い光を放っている。


「どうするんだ?」


 魔王城の扉が開くと、そこは玉座の間ではなく、石壁に覆われた暗い部屋だった。部屋の真ん中には大きな機械が置かれている。


「あれは魔王城の動力源、魔心炉じゃ。あれに、わしの角を捨てろ」


 カイトは機械に近づき、蓋らしき部分を開けた。中は真っ暗で、遥か下のほうに小さな青い光が灯っている。そのなかに三本の角を放り込む。


「これでいいのか?」


「うむ、ご苦労。奴らに簡単に渡すぐらいなら封印してしまうのじゃ。ここを出るぞ」


 部屋から出ると、城のなかに警報音が鳴り響いた。


『動力復旧と共に、ステルスモード、及び、次元籠城モードへ移行します。次元籠城モード中は城への出入りは不可能となりますので、ご注意ください。 動力復旧まで、あと八十秒』


 三人が城から出ると、魔王城はゆらめき始め、幻のように姿を消した。跡には森があるだけだ。

 それを見届けると、ルシアはその場に崩れ落ちた。


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