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 ユキはボードに貼られたたくさんの依頼書をぼんやりと眺めていた。

 朝早く、ギルド酒場の個室に行く前に依頼書を眺めるのが日課のようになっている。

 個室はリカルドのパーティーによって二部屋が貸切状態になっていて、ユキは一日置きに部屋を変えて朝から晩までアイテムの鑑定作業に忙しい日々を送っていた。

 一週間目と二週間目にあたる昨日にリカルドから報酬として銀貨40枚を渡されたのだが、宿代には少し足りない金額だった。個人でこなせそうな依頼を探してはいるのだが、いかんせん時間が足りない。リカルドは鑑定の依頼が落ち着いてくれば休みの日を作ると言っているが、今のところ休日もなくこの状態がいつまで続くのかも分からなかった。

 バルログは作業中はいつもユキについていてくれるが、リカルドとはあまり話ができず、マリーとブラッドに至っては初日以外は会話すらほとんどできていない。忙しい合間を縫ってユキの仕事のフォローをしてくれているのだろう。とても良い人たちだ。

 あまり我儘も言ってられないので、もっと安い宿を探さなければとリカルドに相談すると、親切なことに安いアパートを知っているので紹介してくれるという。おかげで、どうにか食べていくことはできそうだが、考えていた冒険者ライフとはかなり違った生活になってしまっている。がんばってくれているところ申し訳ないとは思うのだが、やはり鑑定の仕事はもう少し減らしてもらうべきではないかとユキは考え始めていた。


 テーブルで待っていたバルログと合流していつもの個室に向かうと、扉の前に立っている冒険者が軽く会釈する。盗難防止にリカルドが雇っている用心棒の一人で、セルゲイという三十過ぎの戦士だ。ユキが挨拶をするとセルゲイは何か言いたそうにユキを見ているが、バルログに目をやるとあきらめたように横を向いてため息をついた。


「?」


 ユキは小首をかしげて個室に入る。部屋の中にはアイテムの入った篭が大量に待ち構えていた。


「さて、今日もがんばりますか!」


 ユキは気合いを入れると仕事に取り掛かった。

 




 お昼の休憩時間になり、ユキとバルログはテーブルで昼食をとっていた。少し離れたテーブルにリカルドも席を取っているのだが、アイテムの持ち込みや引き取りの接客に忙しく、あまり話はできない。

 バルログは昼食を食べ終わると黙って席を立ち、訓練室へと向かう。とくにすることもないユキは、最近はバルログの訓練を見学して時間を潰していたのだが、今日は一人テーブルに残った。


 ユキは接客を終えてテーブルに戻ってきたリカルドに近づくと声をかけた。


「すいません、ちょっといいでしょうか」


「おう、どうしたユキ?」


 リカルドは機嫌よさそうに返事をする。


「えと……わたし、冒険者活動をしたいので、ギルドの依頼をする日を開けてほしいんですけど」


 とたんにリカルドは不機嫌な顔になった。


「はあ? 仕事なら回してやってるだろ」


「わたし、冒険者らしい活動をしていないように思うんです。これだとランクは上がらないですよね? そろそろダンジョン探索もしたいんですけど……」


「馬鹿を言うな! おまえがダンジョンなんて、まだ早いんだよ! 素人が集まって潜ったところで、ゴブリンに殺されるのがオチだぜ」


「え? リカルドさんたちがパーティーを組んでくれるんじゃないんですか?」


 もともとそういう話だったとユキは記憶している。


「ああ?! 俺たちは(・・・・)Bランクパーティーなんだぞ。Fランクのおまえがついてこれると思ってんのか!」


「それは……でも……」


 それはその通りなのだが、それを見越した上でユキの活動に手を貸してくれるのではなかったのか。そこまで過保護にされるのを望んではいないし、それならばパーティーに入ることもなかったのだ。それよりも、ユキがパーティーの一員ではないような言いかたが悲しかった。


「仕事が詰まってんだ! おまえは目の前のことだけやってりゃいいんだよ!」


「………はい」


 リカルドに怒鳴り返され、ユキはとぼとぼとテーブルに戻った。

 ほどなく引き取りの客がやってきて、リカルドは個室に向かっていった。


 さすがにユキも少々こたえたのか俯いてじっとしていると、正面の席に誰かが座る気配があった。


「お邪魔するわよ。元気……は、あまりなさそうね。おひさしぶり」


 明るい声に顔を上げると、見蕩れるような笑顔がユキを覗きこんでいた。


「リズさん……こんにちは! 帰ってきてたんですね!」


 悲しかったことも忘れて、すぐに笑顔になる。前に話をしたのが、ずいぶん昔のことのように思えた。


「今朝戻ってきたところなんだけど、ちょっと良くない噂を耳にしたのよね」


「良くない噂ですか? わたしは外の情勢には疎いので、お力になれるかどうか……」


 ユキはきょとんとした顔で首を傾げる。

 あんたのことだ! と叫びたくなるのを堪えてリズは立ち上がった。


「ちょっといいかしら? いいわよね。ハイ、ついてきて」


「え? ええ? なんですか?」


 リズはユキの手を取ると、強引に歩きだした。そのままユキの仕事部屋とは別の個室が集まる廊下に引っ張っていく。一つの扉を開けると中にユキを押し込んでテーブルの席に座らせた。


「それじゃあ、洗いざらい吐いてもらいましょうか」


 腕を組んでにっこり笑うリズを、ユキは赤い顔で呆然と見上げた。




胸糞展開ですが、ユキの鈍感力のおかげでだいぶ緩和されてます。本人がなにも気づいていないというね……



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