69 小悪党
宿に戻ったユキは、もやもやとした気持ちを抱えていた。強引に押し切られるかたちでパーティー入りを承諾してしまい、これでよかったのだろうかと不安な気持ちになる。
だがリカルドの言う通り、初めてのダンジョンを経験豊富な仲間と探索できるメリットは大きい。ユキの身を案じての提案なので、悪い人たちではないはずだ。仲間になると決めた以上は、少しでも力になれるように頑張らなければ。
リカルドには明日の昼に酒場に顔を出すように言われている。ユキは気持ちを切り替えると、念のためにと探索の準備を始めるのだった。
◆◇◆◇◆
「あの子、馬っ鹿じゃないの?! 覚えてる魔法が、腹話術に浮き上がる力場、物品探索よ!」
マリーが馬鹿にしたような笑い声をあげる。
「見事に戦闘の役に立たない魔法ばかりだな! 『浮き上がる力場』は荷物持ちには調度いいけどよ、冒険者なめんなっての!」
ブラッドが呆れ顔で悪態をつく。
「そのくせ自分では選べない神聖魔法は、狙ったみたいに人気の魔法ばかり修得してるのがまたムカつくのよねー。どんなクジ運してんのよ! でも、あんたに目をつけられたのは運が悪いとしか言いようがないけどね、アハハ!」
「おいおい、人聞きが悪いな。俺たちは、ユキが死なねえように保護してやってるんだぜ。もちろん、無料ってわけにはいかねえけどな」
リカルドは唇の端を吊り上げる。リカルドのパーティーは僧侶を失ってからまともな活動ができていなかった。口を開けば小言ばかりでウザかったので、少し思い知らせてやろうと魔物に襲われたときにサポートを遅らせたら、あっさりと死んでしまったのだ。
しょせんはその程度の力量ということだ。だが、その後に募集に応じてやってきたメンバーたちは皆すぐに辞めてしまい、最近では募集に応じる者も出てこない。
回復魔法の使い手なしにダンジョンに挑むわけにもいかず、ここ二ヶ月近くの収入はゼロであった。低層で弱い魔物を狩るという手段もあるのだが、ギルドへ売却する素材を見ればその行動は一目瞭然であり、それはリカルドのプライドが許さなかった。それでも毎日のように派手に飲み食いしているために貯蓄は目減りしていき、いよいよどうにかせねばならないという時にユキが現れたのだ。
「リカルドさん、これ……お願いできますか?」
テーブルに近づいてきた若い冒険者がリカルドに皮袋を差し出した。
「おう、金はあるんだろうな?」
リカルドは皮袋を受け取ると中身を確認する。中には幾つかのアイテムとそのリストを記した羊皮紙が入っていた。
「はい。五つなんで、銀貨35枚でいいんですよね?」
冒険者はテーブルの上に銀貨を積み上げる。
「少ねえな。これで全部か?」
「いえ、まだけっこうあるんですけど、金が足りないので……」
冒険者は恥ずかしそうに頭を掻く。
「馬鹿野郎、せっかく格安で、しかも明日か明後日には鑑定が済むんだぜ? 『当たり』が幾つかあるはずだから、それを売れば元を取れるだろ。貸しにしといてやるから、全部持ってこい」
「はい、ありがとうございます!」
「他のやつらにも声をかけとけよ。E、Fランクは半額だ」
「はい!」
俺にも運が回ってきたみてえだな──
リカルドはニヤニヤしながら、出口へと向かう冒険者の背中を見送った。




