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68 甘言


「なんでも好きなだけ頼んでね、お詫びとお礼だから」


「はあ……」


 渡されたメニューを手に、ユキは生返事を返した。

 酒場の丸テーブルをタッカーのパーティーとユキの六人が囲んでいる。パーティーのメンバーは、リーダーで『ナイト』のタッカー、『ウォリアー』のカイゼル、『魔法使い』のエディ、『僧侶』のジューノ、『忍者』のリズの五人だ。


「すまなかったああああっ!」


 とつぜん正面に座るタッカーがテーブルに頭を打ちつけそうな勢いで頭を下げ、ユキはびくりと肩を跳ねさせた。


「おら、ユキがビビってるだろ。大声をだすな」


 カイゼルがタッカーの頭を張り飛ばす。


「だ、だいじょうぶです! ぜんぜん怒ってないですから……じゃ、じゃあ、ご馳走になりますね」


 ユキは慌ててメニューを開いた。遠慮をしていたらタッカーがいつまでも謝りつづけそうな気がする。


「それにしても、賢者なんて初めて見たよ。それもFランク……」


 ジューノが隣の席から珍しそうにユキを眺めている。


「え、そうなんですか? 大きな町なら賢者も居ると思ってたんですけど……」


「賢者とは、魔法使いか僧侶を極めた先の、さらに一握りしかなれないクラスですよ。王都のSランクパーティーに在籍していると聞きますが……最初から賢者なんて、おとぎ話でしか聞いたことがないですね。ユキさんとは、時間があるときにでも魔術談義をしてみたいものです」


 エディも興味深そうにユキを見つめている。


「それは、ぜひわたしからもお願いしたいです。でも、師匠からは専門職に比べて成長もずいぶん遅いので苦労すると脅されてます」


「ふむ……師匠のお名前を伺っても?」


「はい。リーフォレイ・ハーミットです」


「『深緑の隠者』ですか。偽名ですね。とあるおとぎ話の登場人物ですよ。そのお話の中でも俗称としてそう呼ばれていて、誰も名前を知らない賢者です」


「そうなんですか……ある日、ふらっと村に現れた人なので、実はわたしもよく知らないんですよね」


 エディは魔法使いらしく博識のようだ。師匠の謎がまた一つ増えたが、名前がなんであろうと大した問題ではない。師匠は師匠以外の何者でもないとユキは思う。


「それよりユキは、しばらくこの町に居るの?」


「はい、グレイフィールド城の噂を聞いて、この町で冒険者をやりたいと思ってたんです」


「そっか。私たちは明日から二週間ほど遠征に出るんだけど、また会えそうね」


 にっこりと笑うリズに、女だと分かっていても頬が赤くなる。この笑顔の破壊力は反則だ。

 その後、Bランクパーティーだというタッカーたちから貴重な冒険の話をたくさん聞くことができた。和やかな雰囲気で解散すると、とりあえずの宿を探しにユキは初めての町を探索に出掛けるのだった。





 二日後、ギルドにやってきたユキは依頼書や求人票の貼られたボードを熱心に眺めていた。

 低ランク高ランク問わず、魔法使いや回復魔法の使い手の募集は多い。ユキは神聖魔法のヒールを修得しているので適当なFランクのパーティーを探していたのだが、求人が多すぎて目移りする。判断基準もよくわからずに悩んでいると、不意に声をかけられた。


「君が噂の賢者か。パーティーを探しているのかい?」


 振り返ると、背の高い若い男がにこやかにユキを見下ろしていた。


「あ…はい、どれがいいのか、なかなか決まらなくて……」


「それなら、俺のパーティーに入らないか? これでもBランクを率いてるんだぜ」


「え? Bランク……ですか?」


 笑顔を浮かべる男は革鎧の上に上等そうなブラストプレートを着こみ、腰に提げた剣もそこらの数打ちではないと知れる。


「いえ……、わたしはまだFランクなので、釣り合いませんよ」


「大丈夫だって、鑑定スキルだけでも十分な戦力だ。こっちで話をしようぜ」


「え……ちょっと…」


 男はユキの肩に手を回すと、強引に近くのテーブルへ連れていった。テーブルには三人の男女が座っている。


「へえ、その子が賢者なの? よろしくね、私は魔法使いのマリーよ」


 赤い髪の女が声をかけてきた。美人だがキツそうな目をしている。


「俺は戦士のブラッドだ。こいつはアサシンのバルログ。よろしくな」


 バンデッドメイルを着たブラッドはよく焼けた褐色の肌で大きな目をギョロギョロさせて愛想笑いを浮かべている。逆に糸のように細い目で小柄なバルログは、ユキを見上げ黙ってうなづいた。


「俺はリーダーのリカルドだ。みんな、新しい仲間の賢者様だ」


「ちょっと待ってください! わたし、まだ決めてませんよ。もう少し考えさせてください」


 いつの間にか仲間にされていて、慌てて否定する。


「おいおい、なにを悩む必要があるんだ? Fランクのパーティーなんて、半分は死んじまうんだぜ。賢者様を簡単に死なせるわけにはいかねえからな。最初は俺たちが守ってやるからよ、ある程度経験を積んで、自信がついたら好きにすりゃあいい。それまでは『お試し』ってことで、冒険者の勉強をするんだ」


「お試し………ですか」


 そう言われると、親切な申し出のような気がしてくる。リカルドの主張は誇張しているのだが、Fランクのパーティーが全滅しやすいという話はユキも聞き覚えがあった。命に関わる選択であるだけに心が揺れた。


「最初は収入も不安定だしな。今からユキは仲間だ! 一人でできる仕事も回してやるから、まかせろって! なあ!」


「は、はい………」


 都会に出てきたばかりの田舎娘にすぎないユキは、まだ本当の悪意というものを知らなかったのだ。




知らない人についていっちゃいけません!!


回想回、まだ続きます、


一話あたり五千文字以上を目指してたんですが、ここにきて、あまり文字数多いと読んでて疲れるか?とか悩んでます。

まあ、いろいろやってみます。


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