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62 幕間⑪


 木窓を開ける音がして、涼しい風が顔を撫でていく。

 カイトは薄闇のなか目を開いた。それほど暗くしたつもりはなかったのだが、窓から差す月明かりは床の上にはっきりとしたシルエットを描いている。盗賊クラスの特性で夜目が利くため、一般的な感覚とはズレがあるようだ。


「どうしたの?」


 カイトは身を起こしながら窓辺に佇む影に声をかけた。


「ああ、起こしてしまったか」


 ルシアが穏やかな声で振り返る姿は月が生み出した美しい幻のように儚げで、カイトはしばし我を忘れて見入っていた。

 食堂もとっくに閉まっているのか、聞こえてくるのは知らない虫の鳴く声ばかりである。そういえば、いまの季節も知らなかったな、とカイトは思った。


 ルシアは窓枠にもたれかかると、肩越しに外へ目を向ける。


「ここは、よい村じゃな」


 浮かべた笑顔が、カイトにはなぜか寂しげに見えた。


「子供たちと別れるのは寂しい?」


「子供たち……か。 そういえば、ギンジは六才でミアは五才であったか」


 ルシアは目をほそめて子供たちの家がある通りの奥に目を向けている。

 

「ありがとう」


「え?」


 とつぜん告げられた感謝の言葉に、カイトは思わずなにかの聞き違いかと考えた。


「いや、よく考えれば、おぬしにはまともに礼を言ったことがなかった気がしてな。 わしは、いつもカイトには感謝しておるぞ」


「な、なんだよ、今さら。 ちょっと気持ち悪いぞ」


 落ち着いた雰囲気のルシアはいつになく大人びていて、カイトは顔が赤くなるのを感じた。部屋が薄暗くてよかったが、どうも調子が狂う。


「はは、そうじゃな。 いまのは忘れてくれ」


 ルシアはそう言うと、窓辺を離れてカイトの隣に腰を下ろした。腰ひもに揺れる犬賢者のぬいぐるみが、薄闇のせいかボロボロに汚れているように見えた。


「……なにかあったの?」


「いや、カイトの顔をよく見ておこうと思ってな。 わしは、もういかねばならん」


「え……」


 吐息を感じた瞬間、頬にルシアの唇が触れた。


「今日は疲れたのであろう? もう眠れ」


 ルシアの手がカイトの額に触れると、意識が遠のいていった。




 翌朝、カイトは爽快に目覚めた。


「朝か……なんだか、よく寝たな」


 昨日はルシアをギリアンのところに連れていった後、ユキと宿に戻って食事をとるとすぐに眠ってしまったのだ。

 なにか夢を見た気がするが、よく思い出せない。


 カイトはベッドから抜け出すと、金色の光に縁取られた木窓に近づく。


(あれ? 窓は閉めてたっけ……うん、寝る前に閉めた)


 窓を開けると(まばゆ)い朝日が射し込み、涼しい風が草と土の匂いを運んでくる。鼻腔の奥になにかの甘い残り香を感じた瞬間、ふいに頬に触れた温かい感触を思い出した。


「……ルシア?」


 急いで部屋を出ると、ちょうどユキが向かいの部屋から出てくるところだった。


「あら、カイトさん、おはようございます」


「ああ、おはよう。 えっと……ルシアは?」


「昨日はワインを一口飲んだだけで酔って寝ちゃったらしくて、ギリアンさんが背負ってきてくれました。 まだぐっすり眠ってますよ」


「寝てる?」


 部屋に入って確認すると、ルシアはだらしない格好で呑気そうに寝息をたてている。


「ほらほら、女性の寝姿を覗き見するものじゃありませんよ」


 ユキに引っ張られて部屋を出ると、二人で洗面所に向かった。


「夢……か。 そうだよな」


 頬を触りながらカイトは呟いた。あのとき、床に映ったルシアのシルエットには角があったように見えたのだ。


「どうしました?」


 ユキが少し心配するような目でカイトの顔を覗きこむ。


「ああ、なんでもない。 今日の仕事は昼までなんだろ? 終わったら、買い物つき合ってよ」


「いいですよ。 旅の準備ですよね? やっぱり相談して決めたい物もありますからね。 あ、ルシアさんは来るでしょうか?」


「お昼は一緒に食べるとして、その後は忙しいんじゃない? 遊ぶのに」


「そうですね、もうすぐ出発ですから、それまでは少しでも子供たちと一緒にいさせてあげたいですね。 だって、あんなに楽しそうなんですもの」


 うれしそうに笑うユキに、カイトも笑顔を浮かべた。

 ユキはカイトが何も説明しなくても魔王のルシアも子供のルシアも自然に受け入れている。これはこれで特殊な能力だとカイトは思う。ユキがいなければ、ルシアもここまで人間に心を開くことはなかっただろうし、出会ったばかりの三人がいつの間にか強く結びついているのもユキがいるからだ。


「ユキって、ある意味、最強だよな」


「え……ええっ?! どういう意味ですか?!」


 思わず口にした言葉に、ユキは驚いて動揺している。


「あはは、ユキはすごいってことだよ」


「んー? ちょっと馬鹿にしてません?」


「してないって、ほんとにそう思ってるんだ」


 拗ねたようにじと目で睨むユキに、カイトは軽い調子で答えた。









幕間もあと1話か2話ぐらいで終わる予定です。出番が少なかった人たちの回とかももっとやろうかとは思ったんですが、まともにやると30とか40まで行きそうな気がするので(何気にキャラ多かったですね)、いいかげん本編にとりかかろうかと思います。

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