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51 そして決着


 ルシアと超獣合成対が激突していた最中、広場中央にぽっかりと開いた大穴からカイトがひょっこりと顔を出した。


 カイトの手にはロープが握られていて、ロープの先に結わえつけられた鉤つきのフックは崩れかけた石畳の隙間に引っ掛かっている。


 カイトは超獣合成体の分身である大蛇に足止めをされていたのだが、どうにか始末してここまで登ってきたのだった。


 カイトは周囲を窺うと、気配を消しながら穴から飛び出し、石舞台の残骸に身を寄せた。

 広場には魔物や人間の死体が多数転がり、隅のほうではまだ戦闘が続いている。

 

「うわぁ、村のど真ん中かよ。 さっきの魔物はどこいった?」


 そのとき、瓦礫の向こう側からルシアの声が聞こえてきた。


「魔王チョオオーーップ!!!」


 まさにいま、ルシアが超獣合成体を叩き伏せたところだった。


「さすがというか、酷いネーミングだな」


 カイトは呟きながら、奥にユキとギリアンの姿も確認する。

 魔法が使えないルシアの戦闘力は未知数だったのだが、あの化け物を倒してしまうのだから、なにも心配する必要はなかったようだ。正直なところ、カイトでもあれを一人で倒せる気はしなかった。


 ルシアの勝利にどっと歓声が上がり、しばらくすると広場の一角からルシアめがけて一筋の炎が走った。それはあまりにも速く、常人では捉えることができなかっただろう。

 冒険者殺しのエリオラがルシアと激突するのを見届け、カイトはエリオラが飛び出してきた位置を確認した。


「あそこか……」


 広場に面した三階建ての建物の屋上辺りだ。

 カイトは静かに移動をはじめた。




 炎を噴き出しながら空中に浮かんだエリオラが、距離を保ちながら円を描くようにルシアの周りを飛ぶ。と、一気に加速するとルシアを掠めて通り過ぎる。すれ違いざまの一撃をルシアは弾き返していた。

 ルシアは素早く振り返るがエリオラはすでに何十メートルも離れたところに浮かんでいる。

 遠目に見ている者たちにもエリオラの動きは速すぎて見えていなかった。


「どうした! 手も足も出ないか、角無し!」


「先ほどから単調な攻撃ばかりじゃな。 その攻撃は、体に堪えるのではないか?」


「………!」


 まだ余裕の見えるルシアに比べ、エリオラは疲労の色を浮かべていた。

 ルシアの指摘どおり、常識を越える急激な加速はエリオラの肉体に大きな負担を強いていたのだ。連続攻撃をしようにもGが強すぎて一撃離脱が精一杯だ。もっとも、今までならその一撃で倒せない相手はなかったのだが。

 

「ほざいてろ! 少しずつ削り殺してやる!」


 突撃してくるエリオラの攻撃を弾くと、ルシアは走り出した。次の攻撃までに数秒のタイムラグがあることはもう分かっている。


「さて、これならどうする?」


「くっ………!」


 ルシアは転がった石舞台を背にハルバードを構えていた。穂先はまっすぐエリオラに向けられている。

 このまま突っ込めば石舞台への激突は避けられない。かといって中途半端な速度で飛び込めばハルバードのカウンターが待っている。ハルバードの攻撃範囲はエリオラの大太刀よりも広いのだ。

 

 エリオラは大太刀を振り抜き斬撃を飛ばすが、ルシアは想定済みとばかりにすばやく斬撃を飛ばして相殺する。

 エリオラが攻めあぐねて空中に留まっていると、耳慣れない高音が広場に響いた。


 ピコーン ピコーン ピコーン


 ルシアの纏う黒葬の鎧。その胸に嵌め込まれた青い宝玉が赤色に変わって点滅していた。

 その点滅に合わせて、あからさまな警告音が大音量で発せられている。それは黒葬の鎧に蓄えられた魔力の残量が3パーセントを切ったという警告だった。


「どうした………それは、ピンチなのではないか?」


 エリオラが疑わしそうにルシアの顔色を観察する。


「いいや、いまから貴様を全力で倒すという合図じゃ」


 ルシアは慌てた風もなく、にやりと笑った。



「ウル〇ラマンか、あいつは」


 建物の影に身を隠したカイトが思わず突っ込んだ。



「なめるな!」


 エリオラは高速移動でルシアの横手に出現すると、体への負担も構わずにルシアへと突撃した。


 この一撃で仕留める!


 だがエリオラはとつぜんバランスを崩すと地面に激突した。

 エリオラの行動を読みきっていたルシアは、予測したコースに重力場を展開していたのだ。

 地面を転がるエリオラにルシアは容赦なくハルバードを叩きつけた。


 炎を撒き散らしながら吹き飛ばされたエリオラは、それでもすぐに立ち上がる。


「良い鎧じゃ。 命拾いをしたな」


 炎帝の鎧は胸部が大きく破損し、噴き上がる炎は見る影もなく弱々しくなっていた。


「まだだ!」


 エリオラは【紅蓮刀 焔一文字】を構えてルシアににじり寄る。


「その意気やよし」


 ルシアが光に包まれると纏っていた黒葬の鎧が消え、ノースリーブの白いワンピース一枚の姿になっていた。同時に耳に突き刺さるような警告音も消える。


「なんのつもりだ」


「わしが言うのもなんじゃが、ああもうるさいと気が散ってたまらん。 その分、手加減はせんから気にするな」


「私を馬鹿にするなぁ!」


 エリオラが叫びながら斬りかかった。ルシアがハルバードをぶつけるように弾き返す。


「くっ……!」


 大きく跳ね上げられた剣を力づくで押さえつけてエリオラは連続攻撃を放つ。だが攻撃のことごとくをカウンターパリイで跳ね返されるので、連撃の速度は上がらず単調なリズムになっていく。


「これならどうだ!」


 正面からの打ち下ろしの途中でエリオラは剣を引いた。跳ね上げようとしたルシアの両腕が上がり、無防備の喉元にエリオラは狙いすました突きを放った。

 ルシアは身をひねってかわすと、流れるように横薙ぎに変化した攻撃も身を沈めて難なく回避した。


「ば、馬鹿な!」


 エリオラが得意とするフェイントからのコンビネーションは、フェイントが決まった時点で勝利を確信して放った攻撃だった。


「驚くことでもあるまい。 その太刀筋は、前に見せてもらったぞ。 平衝きをかわされたら首薙ぎに変化するのは定石じゃしな」


「……!」


 そうだ、たしかに宿の前でルシアに出会ったときに、エリオラは同じ動きをして見せたのだ。


「そ、そんな……一度見ただけで……?」


「一度で十分じゃろう。 決め技は一つでよいが、見せるときは必ず殺せと教わらなんだか?」


 それは傭兵として戦場で多くの人間を斬ってきたエリオラが肝に命じていたことだった。だが、ただの一振りがすべて必殺の一撃となる焔一文字を手に入れてからはそんな意識も薄れていた。つまりは武器の強さに溺れて慢心していたのだ。


「うわああああっ!」


 焔一文字の刀身が溶岩のように紅い光を放ち、エリオラは力まかせに振り下ろした。鎧も剣も焼き切る死の斬撃を、ルシアのハルバードはあっさりと跳ね返す。

 

「きさまを殺して、私が魔王になる!」


 焔一文字の刀身に炎のような気が集まり渦を巻く。エリオラは跳ね上げられた剣を抑えずにくるりと体を回転させた。


「覇王──」


 剣先は弧を描き、刀身に集まった気が膨れ上がる。


「──剛衝穿!」


 螺旋状の炎と気の奔流がルシアに向かって至近距離で解放される。


 バン! と、叩きつけるような音とともに螺旋の衝撃波はルシアの右脚に蹴り上げられていた。炎の奔流はまるで龍のように、まっすぐ空へと昇っていく。


「覇王の名を冠するにはいささか力不足のようじゃが、わしも渾身の一撃で応えるとしよう。 魔王──」


「ああ………」


 大きく振りかぶるルシアを前に、エリオラは動くことができなかった。もはやその瞳に浮かぶのは恐怖と絶望のみだ。


「──フルスイング!」


 無意識にかざした焔一文字をハンマーピックによる打撃が叩く。魔王の一撃は焔一文字を粉々に打ち砕き、エリオラを弾丸のように跳ね飛ばした。

 エリオラの体は数十メートル離れた石壁を破壊して建物のなかに飛び込んでいた。




「馬鹿め……貴様ごときが魔王に勝てるものか」


 大歓声のあがる広場を見下ろしながらゲーリッヒは呟いた。


「アルシアザードが相手なら敗北もやむ無しか。 これはこれで、いい土産話ができた」


 ギルフォードは賢者の少女を守るように広場に立っている。こちらに気付く様子はない。いまが引き時だろう。


 ドン!


 軽い衝撃が走り、ゲーリッヒが視線を落とす。その胸からは短い刃が突き出ていた。


「な……に…?」


「さっきはどうも」


 背後で少年の声がした。

 カイトは短剣を引き抜くと飛びさがった。

 ゲーリッヒが赤く染まっていく胸を押さえながら振り返る。


「きさまは……なぜ生きている!? たしかにデモンズウォールの結界に閉じ込めたはず……!」


「けっこう危なかったよ。 やられっぱなしってのも気分が悪いから、やり返しに来た」


「調子に乗るな……ただの人間が私に勝てると思うなよ」


 たしかに心臓を貫いたはずだがゲーリッヒは倒れる様子もなく両手を軽く上げた。その手から炎があがる。


「どうして俺が一発だけで我慢してると思う?」


「なんだと?」


 そのとき、建物の壁面を駆け上がってきた黒い影がゲーリッヒの背後に飛び出した。


「よお、カイト。 俺の分も残しておいてくれたんだな」


「まあね」


 振り返ったゲーリッヒの目が驚愕に見開かれる。


「馬鹿な! ギルフォードだと!?」


 ギリアンの剣がゲーリッヒの胸を深く十字に切り裂く。


「ぐはっ!」


 ゲーリッヒは崩れ落ち、床には血溜まりが広がる。


「無事だったか、この野郎!」


 ギリアンは剣を納めてカイトに近づいた。


「マジで死にかけたけどね。 ギリアンは、気づいてたんだろ?」


「ああ、いいタイミングだったぜ」


 ギリアンもカイトと同様にエリオラの出現位置からこの場所を割り出していた。だがゲーリッヒが自分を監視していることを予測して気づかないフリをしていたのだ。そして気配を消して移動するカイトにもすぐに気づき、襲撃を任せることに決めたのだった。カイトがゲーリッヒを攻撃した瞬間に透明化の魔法は効力を失い、その姿を目視したギリアンは全力で駆けつけたのだ。


「はい、お土産」


 カイトはギリアンに黒い玉を放り投げた。ギリアンが片手で受け止める。


「これは……通信オーブか」


「うん、そいつから盗んだ」


 カイトはゲーリッヒに視線を向けた。通信オーブはギリアンの持つ一つだけでは役に立たないが、複数あれば活用できるはずだ。


「………」


 カイトが武器を構えなおした。それを見たギリアンも柄に手をかけて振り返る。


 倒れていたゲーリッヒが炎に包まれていた。服が燃え皮膚が溶け赤い繊維が覗いている。

 ゲーリッヒは突然がばりと起き上がると叫び声をあげた。


『グアアアアァァッ!』


 溶け落ちた皮膚の跡は赤黒い鱗に覆われつつあり、瞳孔は縦長の人ではない何かの形になっていく。


「こいつ、魔人化してやがるのか!?」


「えー、もしかして魔族って、みんなこうなの?」


「んなわけあるか! キメラみてえに魔神の細胞を合成しやがったんだ!」


 ギリアンの知識では魔神と融合した者は人の姿や自我を保つことはできなかったはずだが、二百年の間にその技術が進歩したのだろう。


『キサ、マラ……コノ、ママデハ………スマサンゾ……』


 ゲーリッヒの背にコウモリのような翼がばさりと広がった。

 前に出ようとするギリアンをカイトは手で制した。


「ねえ、あんた。 いちおう忠告しておくけど、そこから動かないほうがいいよ」


『キサ、マ……ナニ、ヲ……イッテ……』


 ゲーリッヒの体がふわりと浮き上がった瞬間に、その体はかき消えていた。


「あーあ、だから言ったのに」


「おい……いったい、どうなったんだ?」


「追い追い説明するよ。 とりあえず、みんなのところに戻ろう」


 広場では大歓声のなか、武器を放り出したルシアがユキを高く抱き上げていた。




◆◇◇◇◇




 ゲーリッヒは気付くと暗闇の中に立っていた。

 ここは、何処だ?

 魔人化したゲーリッヒは強大な力を手にしているが、それでも魔王とギルフォードを相手にするわけにはいかない。どのみち逃げるつもりだったので、ここが何処であろうとあの二人が近くにいないのなら都合がよかった。

 魔族の姿に戻るには施設で処置を受ける必要がある。魔王の情報を持ち帰れば処罰を受けることなく受け入れられるだろう。


 ゲーリッヒは周りの様子を確認しようと思った。ゲーリッヒの回りに炎の球がいくつも浮かび上がり周囲を明るく照らす。


 天井の高い地下道のようだが、ゲーリッヒはこの場所に見覚えがあった。


『マ、マ…サカ………ナ…ゼ…ダ……』


 暗闇の奥から金切り声が響き、ゲーリッヒはギクリとして振り返る。

 地下道の雰囲気が変わっていた。


『ウ……ウソ、ダ………イ、ヤ……ダ……』


 ゲーリッヒは、よろよろと後退った。

 暗闇の奥から無数の悲鳴、絶叫、怨嗟のうめき、すすり泣きが近づいてくる。

 やがて闇のなかから亡者たちが姿を現す。

 ゲーリッヒは叫びながら、炎の魔法を暗闇の壁に叩き込む。無駄と知りつつも、最後の瞬間までその抵抗が止むことはなかった。




◇◇◇◇◇◇




「カイトさん!」


 ルシアに抱き上げられて振り回されていたユキは歩いてくるカイトとギリアンに気づいて声をあげた。


「ユキ、おはよー。 ルシアもおはよー」


 ユキは呑気そうに手を振るカイトに駆け寄ると、その首に抱きついた。


「おかえりなさい! よかった……!」


「ええっと……ただいま…」


 涙を浮かべるユキの歓迎ぶりにカイトは戸惑った。


「な? 俺の言ったとおりだろ」


 ギリアンがカイトに親指を立てる。


「はは……」


 ユキはギリアンに気を遣って気丈に振る舞っていたが、随分とカイトのことを心配していたのだ。ギリアンもそれに気づいていたので無事だったカイトにユキがひどく心配していたと伝えていた。


 そこにルシアが飛び込んできて二人を抱きしめる。


「うわ、こら、おまえまで!」


「ははは、なんだか久し振りに三人そろった気がするのう」


「昨日、会っただろ!」


「でも、なんかわかります」


 ギリアンは無邪気に笑うルシアを複雑な気分で見ていた。

 この二百年間、ギリアンが誰よりも怖れ、いつか殺さなければならないと思い続けてきた女は記憶の中にある魔王とは別人のように変わっていたのだ。

 それでもその力はあまりにも危険だ。この女の真意をただし、場合によっては暗殺を試みる必要があるだろう。


「ギリアンさん……」


 ギリアンの表情に気づいたユキが心配そうに声をかける。カイトとルシアもギリアンに目を向けた。


「おい、アルシアザード……」


「む? 貴様は……どこかで会ったか? 知らぬ顔じゃが……」


 ルシアは不思議そうな顔でギリアンを見ている。

 ああ、そうだったか。と、ギリアンは気づいた。


「おまえらも疲れてるだろうが、あとで話は聞かせてもらうぞ」


 そう告げるとギリアンはギルドに向かって歩きだした。


 二百年も経っていればアルシアザードが変わっていても不思議はないのかもしれない。ギリアン自身が昔とは見る影もなく変わっているのだから。


「俺も、人のことは言えねえんだよな」


 ギリアンは呟くと、これからの事後処理に思いを巡らし、ため息を吐く。

 そして煙草を咥えると、ライターで火を点けた。





これで第一章はだいたい終了です。あとは後日潭をだらだらと長く続けるかもしれませんが、案外早く終わるかもしれません。そのへんは気分次第です。だらだらするのは得意です。

あと、少しでも面白い、続きが気になる、と思ってくれたらポチッと評価を入れてください。そしたらテンションが上がります。どうか宜しくお願いします。


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