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50 魔王降臨


「ユキが出ていった!? 一人でか!?」


 ルシアは驚いて大声をあげた。


 村人や兵士を引き連れて意気揚々と宿屋にもどってきたルシアは、先に避難していた子供たちと抱き合って再会を喜んでいた。

 姿が見えないユキの名を呼ぼうとした矢先に、ボイドさんからユキがニナさんを探しに広場へ向かったことを告げられたのだ。


「待っておれと言ったのに、どうしてそんな無茶を……」


 ルシアは狼狽して青い顔をしている。

 ボイドさんは申し訳なさそうに「すまない」と言って頭を下げた。


「広場は南側から浸入した魔物が流れ込んで、激戦区になってるはずだ。 すでに避難民も広場に近づかないように通達が出ている」

 

 近くで話を聞いていた兵士が言う。


「わしはユキを探しにいくぞ」


 ルシアは言い捨てると外に飛び出していた。

 広場に行ったことはなかったが、子供たちに聞いていたので方向ぐらいはわかる。前の通りをまっすぐに進むだけだ。


「まったく、どうしてユキはわしが戻るまで待っておらぬのだ! む……いや、待てよ……もしやこれは、ユキにわしの勇姿を見せつける絶好の機会なのではないか?」


 全力で通りを走りながらルシアはぶつぶつと呟いた。


「どうもユキは、わしのことをただの病傷人ぐらいに思うておるふしがある。 わしができる魔王だとアピールしておくのは、まさに今この時か!」


 ルシアの傷はとっくに癒えていたのだが、そうなるとこの村にユキが逗留する理由がなくなってしまう。もとよりユキがルシアの面倒をみている理由もよく分からないので、ユキたちが自分を置いてどこかに行ってしまうことをルシアは恐れていた。

 ルシアの力は旅の役に立つはずなのだが、そういった交渉やコミュニケーションをしたことがないルシアはどうしていいのか分からずに、今後の話題になりそうだと感じ取ると寝たふりで乗り切り、怪我人のふりを続けていたのだ。


「ともかく! まずはユキの安全を確保しなければ! ええい、もっと速く走れんのか!」


 ルシアは苛立ちながら左手をかざした。

 その手の先の空中に、糸のように細長い縦線がピシリと走る。

 その縦線が空間が割れるようにゆっくりと太くなっていく。


「む! いけるか!?」


 ルシアは空間を押すように左手に力を込めて突き出した。

 縦線は一気に広がり、解放される両開き扉が一瞬だけ浮かび上がった。


「開いた! 宝物庫の扉!」


 それは歴代の魔王が永い年月をかけて世界中、果ては別世界にまで手を伸ばして蒐集してきたありとあらゆる宝具が納められたと言われる『魔王の宝物庫』の扉であった。

 今のルシアの魔力では深層にまでは届かないが、認識できる範囲でもそこに納められた膨大な量のアイテムのイメージが頭に流れ込んでくる。浅層ということもあり、ルシアからすればほとんどはガラクタなのだが、ルシアの意識はその中からとりわけ貴重な宝具を見つけ出していた。


「ククッ……フハハハハッ! さすがわし! こんなこともあろうかと、このような傑物を第一層に放置して忘れておったとは!」


 ルシアは悪そうな顔で笑った。

 貴重な宝具は通常、より深い階層に保管するのだが、整理整頓が苦手なルシアは面倒くさくて第一層に無造作に放り込んだままガラクタに埋もれて見失った宝具がいくつも存在する。

 そのうちの一つを、今たまたま発見したのだ。

 

 ルシアはひとまとめになった武具を宝物庫から取り出した。

 異次元空間から取りだされた宝具が光を放ち自動的にルシアに装着されながら顕現する。


「きたっ! 黒葬の鎧【ヴェイングラヴィティー】! 狂滅ハルバード【シルゼフベルガー】!」


 ルシアは漆黒のマントを羽織り、黄金で縁取られた黒い鎧に身を包んでいた。胸当ての中心には大きな蒼い宝玉が埋め込まれている。背にはハルバードを背負っていた。


「む? 残り魔法力3.3パーセントか……派手な演出はできぬが……まあ、問題はなかろう」


 黒葬の鎧はルシア自らの手で創った宝具である。強力で恒久的な魔法効果を付属させるのは骨が折れるため、充填したMPを消費して効果を発揮するようにしてある。

 こんなことなら小まめにMPを充填しておけばよかったと後悔してももう遅い。残量がゼロになってから仕方なく充填を始めるのがルシアの基本スタイルである。普通に使うなら0.5パーセントもあれば十分なので、よしとすべきだろう。


 接近戦に特化した黒葬の鎧の付与効果でルシアの身体能力は劇的に跳ね上がった。

 飛ぶような速度で一気に広場に到達すると、強化された超感覚で広場の片隅に居るユキを発見する。

 ユキの前で巨大なミノタウロスが、いままさに戦斧を振り下ろそうとしている瞬間だった。


「いかん!」


 ルシアが右脚を振り抜くと衝撃波が地面を削りながら飛んでいき、ミノタウロスに直撃してその動きを止める。ルシアは地面を蹴り、一気にミノタウロスに飛び込んだ。


「魔王キイィィィック!!!」


 横腹に突き刺さった渾身の飛び蹴りは、ミノタウロスを広場の端まで吹き飛ばしていた。


「ユキ、無事か!」


 振り返って叫ぶと、地面に座り込んだユキはきょとんとしていたが、すぐに元気にうなずいた。


「はい!」


 どうやら間に合ったらしい。

 ルシアは安堵の表情を浮かべた。よく見るとユキの前に何人かの冒険者が口を開けて呆然とつっ立っている。ユキは倒れた一人の上半身を後ろから支えていた。


「お主らも、よくぞ持ちこたえた。 あとは、わしに任せておけ」 


 ルシアはにやりと笑うと、遠くで立ち上がるミノタウロスに向きなおり歩を進めた。

 キールたちは蒼白い顔でルシアを見送る。



 静まりかえった広場に徐々にざわめきが広がっていく。


「あの化け物を吹き飛ばした!?」

「おい、いまのどうやったんだ?」

「見ろよ、あのハルバード。 ありゃあ、極上品だぜ」

「だが、あの化け物の戦斧とじゃ、サイズが違いすぎる。 勝負になるのか?」


 ルシアはユキたちから離れると静かに立ち止まった。思えば鎧に身を包んで戦場に立つなど、いつ以来だろうか。

 あの頃はただ言われたとおりに出陣し、鬱憤晴らしができればそれでよかった。それが今は自らの意思でここに立っていると思うと、不思議な気分になる。ユキと出会う前の記憶は遥か遠く、すべてが夢だったかのようだ。いや、いまこうしている現在が夢なのではないか。目が覚めるとカビ臭い城のなかで、なにやらあり得ない楽しげな夢を見ていたと思うのだろうか。

 ルシアはぞっとして(かぶり)を振った。


 怒りの咆哮をあげながら突進してくる単眼のミノタウロスをルシアは憮然とした顔で見つめた。


「なるほど、こいつは見覚えがあるぞ。 主人の顔も分からんようでは、番犬にもならん。 コジローの圧勝じゃな」




「あいつ……笑いやがった」


 ギリアンは立ち上がろうと身を起こした。


「ギリアンさん、だいじょうぶですか!?」


 ユキはギリアンを支えながら回復魔法をかける。


「ああ……おかげさまで、なんとかな」


「もう少し休んでいてもいいんですよ?」


「そうも……いかねえだろ。 どういう状況だ、これは? どうして魔王がおまえを助ける?」


「え? えと……あの人はルシアさんで……その……」


 ギリアンはどうにか立ち上がった。左腕が折れているようだが、それ以外はなんとかなりそうだ。


 ギリアンはあたふたしているユキを不思議そうな目で見た。

 こいつ、何者なんだ?

 魔王アルシアザードは、明らかにユキを助けにきた。あのカイトもユキの仲間だ。


「とにかく、あいつ(・・・)は『味方』ってことでいいんだな?」


「は、はい! それはもう……」


 狂ったように叫びながら突進してくるミノタウロスに、ギリアンは目を向けた。

 ギリアンの剣は地面に転がったままだ。


 ギリアンはタバコを咥えて火を点けた。

 まだ頭の中が混乱している。余計なことを考えるのは、後にしようと思った。

 あのクソ女が任せろと言うのなら、もう手を出す必要はないだろう。さっきまでの絶望が馬鹿馬鹿しくすら思えてくる。

 ギリアンは煙を吐き出すと、注意深く広場を観察しはじめた。ギリアンには、まだ仕事が残っていた。


 ミノタウロスは距離を詰めると、武器も抜かずに立っているルシアに戦斧を振り下ろした。

 斜め上から迫る鉄塊に、ルシアはただ左手をかざす。


 ドン!


 衝撃音はルシアの足もとから起こった。石畳が陥没してクレーターを作っていた。

 巨大な戦斧の刃先はルシアの繊手に掴まれて、なにかの冗談のようにピタリと止まっている。


 ミノタウロスが全身に力を込めるが、戦斧はピクリとも動かない。物理法則に従うならルシアがどれほどの怪力を発揮しようが、質量で圧倒的に勝るミノタウロスにルシアは軽く吹き飛ばされるはずだ。だが黒葬の鎧によりルシアを中心に発生した重力場は今なお不気味な音を立てて石畳を圧壊していくほどの荷重をルシアに与えていた。

 ルシアの体には恐ろしいほどの負荷がかかっているはずなのだが、当のルシアは平然としている。


「正直、貴様のことはよく知らんのだが、わしが始末をつけるのが筋なのであろうな」


 バキン!


 ルシアが指先に力を込めると戦斧に亀裂が走った。振り払うように戦斧を引っ張ると、ミノタウロスはバランスを崩して前のめりによろける。

 空中に飛び上がったルシアは右手を振り上げた。


「魔王チョオォーーップ!!!」


 超重力の加重を乗せた手刀がミノタウロスの頭部に炸裂する。

 角が折れ飛び、地面に叩きつけられた頭部から眼球がはみ出した。


 ルシアがマントをはためかせて軽やかに着地する。

 重力場はミノタウロスの頭部に移り、ミノタウロスは再生の煙を吹き出しながらも自らの体重に耐えられずにバキバキと音を立てて小さく縮んでいく。


「その再生能力は魔法による後付けじゃな。 開発部の肝いりという割には、肝心なところで手を抜いておる」


 ルシアはミノタウロスの頭に手をかざした。魔法術式の一部を書き換えると再生魔法はあっさりと停止した。


 広場にどよめきが起こる。


「やった、すげえ!」

「一撃で倒しやがった!」

「ハルバード使わねえのかよ!」

「結婚してくれー!」



「信じられん……まさか、アルシアザードなのか……?」


 一部始終を見ていたゲーリッヒが呆然と呟いた。


「嘘だ! あれは、あのときの角無し……!」


 歓声を浴びるルシアを映すエリオラの瞳には、怒りと嫉妬の炎が渦巻いていた。

 炎帝の鎧が激しく炎を噴き上げる。


「あいつが魔王だと……!? 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 殺す……あいつを殺して、私が魔王になる!」


 エリオラの背部に炎が集まっていく。


「エリオラ、待て!」


 ゲーリッヒの制止を無視してエリオラは爆炎を噴き出しながら飛び出していた。



 ガギィン!


 瞬間移動するような速度で突っ込んできたエリオラの大太刀を、ルシアはハルバードで受け止めていた。


「む………」


 あまりの勢いに石畳の上をザリザリと押し込まれる。

 金属質の爆音が後から追いかけてきた。


「おのれ、角無しぃっ!」


「ほう……いつぞやの剣士か」


 ルシアは不敵な笑みを浮かべていた。



前々からなんとかしようとは思ってたんですが、魔力と魔法を行使するために消費するMP(マジックポイント)がごっちゃになっていました。これからは明確に分けて表記します。過去の分も追々訂正していきます。

今回の作中でルシアが重力場の中でも平気そうでしたが、黒葬の鎧の効果で圧力変化耐性が付与されているので、まともに影響を受けているわけではありません。ミノタウロスに重力場を移した場面でも普通なら急に圧力が下がると血液の中に気泡が発生して死んだりします。そこらへんは対策済みということで。

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