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05 「魔族って、みんな名前長いの?」



 少年は首をひねった。


「そういえば俺、自分の名前知らないな」


「なんで、そこ気にならないんですか!?」


「えーっと、……ちょっとまって」


 少年はステータスウインドを開いた。


「ああ、これかな? 『カイト』…だってさ。よろしく」


「あ、わたしはユキっていいます。よろしくお願いします、カイトさん」


 ユキはぺこりと頭を下げた。


「もうよいか?」


「ああ! すいません、つい…」


「ならば、妾も名乗ろう。我こそは最強の大魔法使いにして魔王、アルシアザードじゃ!」


 アルシアザードは親指で自分を差しながら、最高のドヤ顔で名乗りをあげた。


(これ聞くの二回目だなー)


 愛想笑いを浮かべながら、ユキはそんなことを考えていた。


「魔族って、みんな名前長いの? えっと、バイオハザードさんだっけ?」


「無礼なやつめ! 首根っこを引っこ抜くぞ!」


「そうです! アルシアザードさま、こんなやつ今すぐ殺してしまいましょう!」


 アルシアザードが激昂し、ユキは青ざめた。魔王を怒らせてしまえば命の保証はない、というより、確実に殺されてしまうだろう。


「俺たち人間は、長い名前は覚えられないんだ」


 カイトが、わけのわからないことを言いはじめた。


「ぬ………そうなのか?」


「アルシアザードさま、こいつを信用してはいけません! わたくしも人間の生態は詳しくありませんが、こいつの言っていることは出鱈目(でたらめ)な気がします!」


 ユキは、おろおろと成り行きを見守っている。


「でたらめじゃないさ。ユキ、『アルシアザード』って、早口で三回言ってみて」


「は、はいいっ!?」


 こっちに振られても困る。どうすればいいのかわからず、ユキはヤケクソで叫んだ。


「ア、ア、アりゅシアじゃっ……わあっ! ごめんなさい!」


「ほらね」


 カイトはしたり顔で、うんうんと頷いている。


「むう……人間とは下等な生物だと聞いてはおったが、難儀なものだな」


「アルシアザードさま、こんな下等なやつらと話すことはございません! はやく、はやく殺してしまいましょう!」


「そこで、下等な俺たちでも覚えられる長さで魔王さまの名前を呼ぶのを許してほしいんだけど」


「……どうするのじゃ?」


「アル……ルシア……『ルシア』って呼ぶのはどう?」


「ルシア……じゃと?」


 アルシアザードは顎に手をあてて考えている。


「おい小僧! 偉大なる魔王さまの御名を勝手に省略するとは……」


「なかなかよいではないか。許す」


「アルシアザードさま、お気をたしかに!」


 ベルキシューは取り乱してアルシアザードの肩を激しく揺さぶる。


「ああっ!? 小僧、いま『アルシアザード』って言ったな! たしかに聞いたぞ! 間違わずにしっかり………」


「もうよい、ベルキシュー」


「しかし、魔王としての威厳が……!」


「こんなカビ臭い城のなかで、二百年もぼーっとしておるのじゃ。外ではそろそろ、新しい魔王でも出てきておるのではないか? いまさら威厳もあるまい」


 アルシアザード(あらた)めルシアの目が一瞬するどくなり、ベルキシューは口をつぐんだ。


「ところで、俺に用があるんだろ?」


「おお、忘れておった。カイトと申したな。これを」


 ルシアはカイトに導きの碧玉を差し出した。


「そなたはユキと申したか。カイトのレベルは99で間違いないのだな?」


「はい、それは間違いありません」


「SOPはどうじゃ?」


 ユキはカイトのステータスを確認した。


「9999,999です」


「やはり、人間の限界まで高められておるな。ではカイト、その碧玉を使ってみよ」


「いいけど、なんなの、このアイテム?」


 カイトはちょっと嫌そうな顔で、手の上で淡く光る水晶玉を見つめた。導きの碧玉はひんやりとしていて、見た目よりもずっしりとしている。


「それは、SOPを強制的に1だけ増やすアイテムじゃ」


「!! アルシアザードさま、それは……!」


 意味を理解したベルキシューの顔色が変わった。


「……俺が使ったらどうなるの?」


「さて、どうなるものか……。試してみたいとは思わぬか?」


「ルシアはそれでいいの? もしかしたら、とんでもなく強くなるかもしれないぜ」


 すでにとんでもなく強いんですが、とユキは思ったが、空気を読んで黙っていることにした。


「わしは約束は守るぞ。そなたはどうなのじゃ?」


「……ああ、そう言えば『言うことを聞く』って言ってたっけ。じゃあ、決まりだ」


 カイトはあっさり(うなづ)くと、導きの碧玉を胸の高さまで持ち上げて魔力を込めた。


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