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49 超獣合成体


「超獣合成体とやらは、いつ目覚めるのだ?」


 広場を見下ろす建物の屋上で、エリオラはゲーリッヒに訊ねた。

 ゲーリッヒの周囲には透明化の魔法がかけられていて、二人の姿は外部からは見えない。


「もう、目覚めている。 というより、眠ってなどいなかったようだ」


「どういうことだ?」


 ゲーリッヒの言葉にエリオラは眉をしかめた。


「さて……普通は封印されて年月が経つと、あきらめて眠りにつくものだが、そうはならなかったようだな。 それだけの知能がないのか、それとも……」


 その化け物は二百年もの間、封印に屈伏することなくひたすらもがき続けていたのだろうか。だとすれば、解き放たれたいま、どれほどの怒りを蓄えているのか想像もつかない。


「それにしては、なかなか出てこないではないか」


「思ったよりも地下深くに封じられていたようだ。 だが、近づいてきているよ。 凄まじい怒りを感じる。 これを制御することなど不可能だ。 せいぜい、こちらに向かってこないようにできるかどうかだな。 見ていろ、ヤツは間もなく姿を現すぞ」


 ゲーリッヒは邪悪な笑いを浮かべていた。



◆◆◇◆◆◆



 行政区と大聖堂に避難していた村人たちは、冒険者の誘導に従って列になって広場の外周の建物に沿って移動していた。

 現在、東門と北の通用門近辺は魔物の掃討が完了して安全が確保されているらしい。

 門前に村人を集め、いざとなれば村の外に脱出させる手筈になっている。


 ユキは他の冒険者に混じって六番通りに入っていく村人の列を誘導していた。ギリアンには村人と一緒に避難するように言われていたが、一度関わってしまった以上は、もう他人事で済ますことはできなかった。

 丘巨人には村人から離れた場所で中央の記念碑を警戒させている。戦いの最中にユキのレベルが2つも上がったせいか、丘巨人はおとなしく命令に従っていた。


 しばらくするとギリアンがやってきた。丘巨人は目立ちすぎるのでユキが広場に残っているのはバレバレだ。


「ユキ、そろそろ避難してくれ。 もうわかっているだろうが、封印が解かれた。 ここは危険だ」


 封印された超獣合成体のこととカイトが行方不明だということは、すでに聞いている。


「いえ、わたしだって冒険者ですから、民間人より先に逃げ出すわけにはいきませんよ。 最後の一人が避難してからです」


「……ったく、見かけによらず強情だな。 おまえはガレオンで受けたクエストの途中なんだろ? ゼフトの緊急クエストに応じる義務はないんだぜ。 おまえにまでなにかあれば……」


「カイトさんなら、だいじょうぶですよ、きっと。 それに、誰のせいです? 今さらわたしが逃げ出したら、みんなが動揺するんじゃないですか?」


「う……それは……」


 いたずらっぽく笑うユキにギリアンは口ごもった。


「だいじょうぶです。 ギリアンさんがいて、カイトさんも、きっと来てくれます。 それに……」


 ユキの胸にルシアの顔が浮かんだ。魔王が人間の手助けをするなど本来なら考えられないことだが、子供たちを脅かす存在をいまのルシアが放っておくとは思えなかった。


 ドズゥン!


 とつぜん、衝撃と共に記念碑の石舞台の片側が浮き上がった。砕けた石畳が噴き上がり、村人から叫び声があがる。

 少しの間を置いて再び突き上げるような衝撃が走り、巨大な石舞台が宙を舞っていた。


 地面に落下した石舞台は真っ二つに割れてごろりと転がり、砂煙の向こうの石舞台のあった穴から銀色の物体が飛び出して穴の淵に落ちた後、巨大な影がのそりと這い出してきた。


 荷馬車ほどもある四角い頭が現れ、茶色い獣毛に覆われた逞しい上半身が続く。それは二本の足で立ち上がると地面に落ちた巨大な戦斧を拾い上げた。


「ミノタウロスか!?」


 西門の前で超獣合成体を待ち構えていたクレイドが呟く。

 たしかにその姿は牛の頭を持つ半人半獣の魔物に瓜二つだが、その規格外の巨大さと顔の中心にある巨大な単眼が異彩を放っている。


『グオオオオオッ!』


 単眼のミノタウロスは天に向かって雄叫びを挙げた。


「でかいな……」


 空気がビリビリと震え、ギリアンはその威圧感に冷や汗を浮かべた。

 ミノタウロスは足を大きく開いた極端な前傾姿勢のため、頭と肩のラインがほぼ同じなのだが、それでも三階建ての建物と変わらない体高をしている。


 村人たちが悲鳴をあげながら出口に殺到すると、ミノタウロスはゆっくりとこちらに顔を向けた。


「くるか」


 ギリアンが二本の剣を抜いたとき、西門の前に展開していた警備兵団が動いた。


「撃てー-っ!」


 クレイドの号令でバリスタが発射され、巨大な矢がミノタウロスの背中と腕に刺さった。兵団の弓隊からも雨のように矢が射かけられる。

 ミノタウロスがゆっくりと兵団に向きなおると、再び号令が下り城塞に接地された十基ものバリスタが火を噴いた。

 巨大な矢は次々にミノタウロスに命中し、一本が巨大な目に突き刺さるとミノタウロスは怒りと苦しみの混じった叫び声をあげた。


「いけるか!?」


 クレイドは攻撃の効果を確信したが、ミノタウロスが目に刺さった矢をつかんで引き抜くと、傷は煙をあげてたちどころに修復されていく。体に刺さった矢も抜け落ちてミノタウロスは体から煙を立ちのぼらせていた。


「バリスタ、次弾装填急げ! 部隊は陣形を維持したまま西門の外まで後退!」


『グゴオオォォッ!』


 クレイドが指示を出すが、ミノタウロスは咆哮をあげながら戦斧を振り上げて突進してきた。

 一瞬で距離が詰まり、長槍を持った兵士が攻撃する間もなく戦斧のひと薙ぎで数十人の兵士が飛び散った。

 ミノタウロスがさらに踏み込んで斧を振ると無数の兵士が吹き飛び血煙があがる。


「撤退だ! 全員、門の外に逃げろ!」


 一瞬で兵士の半数を失ったクレイドは、すぐさま撤退を選んだ。あまりにも力が違いすぎて戦いにならない。

 陣形を崩して走りだす兵士のなか、クレイドは一人その場に留まっていた。


 せめて兵士が逃げる時間ぐらいは稼がなければならない。これが団長としての最後の務めになるだろう。

 クレイドは魔剣エスペランサーを引き抜き、突進してくるミノタウロスに立ちはだかった。


『グゴオッ!』


 クレイドめがけて鉄塊が真っ直ぐに振り下ろされる。

 思わず剣で受けようとしかけたクレイドだったが本能的に身をかわした。クレイドを掠めた戦斧は地面を叩き、爆風のような衝撃波と飛び散る瓦礫に打たれたクレイドは通りに面した兵舎の窓を突き破り、食堂のテーブルの上に叩きつけられていた。



「でかいくせに、なんて速さだ!」


 ギリアンはミノタウロスのスピードに舌を巻いた。移動速度もそうだが、戦斧のスイングスピードが尋常ではない。あの巨大な戦斧自体に強力な魔力が込められているのだろう。

 ミノタウロスは雄叫びをあげると、逃げ惑う兵士には目もくれずに悲鳴をあげる村人たちに向き直った。

 六番通りの手前では塊になった村人たちがパニックを起こしている。


「この野郎、人間の悲鳴が大好きみてえだな」


 ギリアンは突進してくるミノタウロスに走りだした。

 冒険者の放ったマジックミサイルやフレアボム、ライトニングボルトなどの攻撃魔法がミノタウロスに着弾するが、ミノタウロスは意にも介さない。

 あれだけの攻撃力を見せつけられては接近戦を挑むのは自殺行為に等しい。兵士や冒険者たちも遠巻きに攻撃するしかなかった。

 丘巨人がこん棒を構えて突撃し、戦斧の一振りで胴体を真っ二つにされて消滅する。


「無幻斬舞!」


 ギリアンが踊るように二本の剣を振ると、ミノタウロスの目玉に網の目のような傷が走って血を噴き出した。

 それでもミノタウロスは止まらずにギリアンに戦斧を振り下ろす。


 ギリアンは飛び上がってかわすと、空中で風魔法を発動した。両足から放った空気圧の反動でギリアンは一気に加速し、ミノタウロスの脇を掠めて後方に回った。

 ミノタウロスの脇腹に二筋の赤い傷が開くが、瞬く間に修復される。


「くそっ! やっぱりかてェな」


 勢いをつけて斬りつけたのだが、それでも深手を負わせるには至らない。皮一枚を切ったぐらいでは一瞬で修復されてしまう。


 ミノタウロスは怒声をあげると振り返ってギリアンに斬りかかった。

 ギリアンは風魔法を使って空中を蹴るように高速移動しながら斧をかわしていく。このまま注意を引き付けて西門の外へ誘導したいのだが、ミノタウロスの反応が恐ろしく速く、攻撃をかわすので精一杯だ。

 一瞬の隙を突いて西門の方向に離脱するが、ミノタウロスは素早く横に回り込み、カウンターで斬りつけてくる。


「うおっ!」


 風魔法で急激に軌道を変えてかろうじてかわすが、また門からは離れてしまう。

 ギリアンの動きに慣れてきたのか、ミノタウロスの狙いが正確になってきていた。


「まずいな……」


 攻略の糸口が見えず、ギリアンにも焦りの色が濃い。


 方向転換の一瞬を狙ってきた一撃にギリアンは青ざめた。かろうじてかわせると踏んだ瞬間に、ミノタウロスはくるりと斧を回して斬撃ではなく面による打撃に切り替えてきたのだ。

 とつぜん現れた鋼鉄の壁に打たれてギリアンは弾き飛ばされた。


「ギリアンさん!」


 地面に叩きつけられて転がるギリアンにユキが駆け寄った。


重傷治癒キュアシリアスウーンズ!」


 ユキは膝まづいて覚えたばかりの回復魔法をかけながらギリアンの上体を起こす。


「ギリアンさん、起きてください!」


 呼びかけるが、ギリアンは意識が朦朧としている。

 ユキはギリアンの頭を抱えながら、目の前に迫ってくるミノタウロスを見上げた。

 後ろからは村人たちの悲鳴があがっている。


「なにやってる……逃げろ、ユキ……」


 ギリアンが声を絞り出した。


「立ってください。 一人では逃げませんから」


 ユキの声が震えていた。


「馬鹿野郎が……」


 すると、ミノタウロスの足下から蔓がにょろにょろと生えてきて下半身に絡みついた。

 ミノタウロスの足が止まり、ユキとミノタウロスの間に冒険者が割り込んできた。


「ギリアン、無事か!」


 バーニーの叫び声が響く。

 ユキの前にバーニーのパーティーが背を向けて立っていた。


 バーニーは居合いの構えでミノタウロスの足もとに飛び込む。

 蔓をひきちぎったミノタウロスが戦斧を振り上げた。リーチが違いすぎてミノタウロスの攻撃が先になるのは確実だ。ゲイツ、ローレン、キールが援護攻撃を繰り出すが効いている様子はない。


 ユキは、かっと目を見開いてミノタウロスに手をかざした。

 ほんの一瞬、ミノタウロスの動きを止めるだけでいい。レベルの上がったいまなら、前よりも強力な魔法を発動できるはずだ。

 ユキはスペルアーク(魔術の方舟)と呼ばれる自らの精神世界に飛び込むと、既に存在する魔術回路のひとつを見つけ出した。それを分解し、新たに組み直す。いまの自分に扱える範囲で、より強力に、目的に叶うように。そのために必要な魔術回路の素材はユキのなかに豊富に蓄積されていた。

 その完成に要した時間は現実世界ではほんの一瞬である。


「ウォール!」


 ユキは魔法を発動させた。狙いは一点。ミノタウロスの肘の下に密着するように透明な力場が出現した。

 腕を振り下ろそうとしたミノタウロスの動きが止まる。次の瞬間には負荷に耐えきれなくなった力場は砕け散っていたが、バーニーは既にミノタウロスの足の間を駆け抜けていた。


 ミノタウロスががくりと崩れて片膝をついた。石畳に血溜まりが広がっていく。

 遠巻きに見守っていた冒険者からどよめきが起こるが、バーニーは苦い顔で振り返った。

 その手に握られた刀に刀身はなく、柄だけがバーニーの手のなかにある。


 ミノタウロスの脛の半ばまで食い込んだ刀身は、目的を果たすことなく折れてしまったのだ。


 血溜まりのなかに鋼の刀身が落ちる音が響くと、ミノタウロスは立ち上がった。傷は修復を始めている。

 歩き始めたミノタウロスの前に重装鎧のホフマンが立っていた。


「もういい! 逃げるんだ、おまえら!」


 ギリアンが叫ぶが、パーティーは動かない。

 ミノタウロスが戦斧を体の後ろに引き、ホフマンはサイドスイングに備えてタワーシールドを設置した。


「重力アンカー出力最大!」


 ホフマンの周囲の石畳がミシリと音を立てて沈みこむ。

 唸りをあげて飛んできた戦斧がタワーシールドを直撃した。


 コオン!


 澄んだ音が響いて、ホフマンは宙を舞っていた。

 ゲイツが後衛の前に出るが、もはや万事休すだ。

 

「おい、キール! お前まで、なにをやってやがる! 全滅するぞ!」


「自分でももう少し冷静でいられるつもりだったんですが……ともかく、時間は稼ぎます。 あなたは生き延びてください」


 ドクン!


 右腕が跳ね上がり、ギリアンは左腕で押さえ込んだ。


「くそっ! くそっ! くそっ!」


 ここでゲイボルグを解放すれば、辺り一帯は火の海になってしまう。魔力を使ってこいつを抑え込んでさえいなければ、もっと戦えたはずなのだ。


 目の前に迫ったミノタウロスが戦斧を大きく引いた。

 ギリアンを抱えたユキの腕にぎゅっと力がこもる。


 ゴオッ!


 そのとき、石畳を削りながら飛んできた巨大な衝撃波が横手からミノタウロスを直撃した。

 ミノタウロスがぐらりと揺れてバランスを崩す。


 衝撃波を追うように矢のように飛び込んできた黒い人影が、何か叫びながらミノタウロスに激突した。


 ミノタウロスは体をくの字に曲げて吹き飛び、広場の端まで転がっていった。


 広場は一瞬で静まりかえった。


 静寂のなか、長身の人影が立っていた。背にはハルバードを背負い、黒い鎧に漆黒のマントと長い黒髪が風に(なび)いている。


 目の前に佇む後ろ姿がギリアンの遠い記憶と重なる。


「まさか……てめえは……」


 その女(・・・)は鮮明に記憶していた姿と寸分違わなかった。それでも信じることができなかった。

 

「アルシアザード……なのか……?」


 噛みしめた奥歯がギリリと音を立てる。

 考えていたよりも遥かに最悪な状況だ。湧き上がる殺意をギリアンは必死で押さえ込んだ。ギリアンはすべてを道連れに、いまゲイボルグを解放すべきかの判断を迫られていたのだ。


 背を向けている魔王アルシアザードが動いた。

 ギリアンの脳裏に感情のない人形のような顔と氷のように冷たい瞳がよみがえる。


 アルシアザードが振り向き、必死の形相で叫んだ。


「ユキ、無事か!」


 誰だ……こいつは?


 ギリアンは困惑する。

 目の前の女は記憶のなかにある美しい顔と同じはずなのだが、感情をむき出しにしたそれは決して人形などではなく、ギリアンの知る魔王とはあまりにも違っていたのだ。





ルシアが背負っているハルバードの説明をしておきます。ハルバードは長い柄の先に武器を取り付けたポールウェポン(竿状武器)と呼ばれる武器の一つです。ポールウェポンには長槍(パルチザン)薙刀(なぎなた)、ポールアックスなどがありますが、ハルバードの特長は複合武器であり、穂先に槍、その下に片刃の斧、その反対側にはピック(棘)のついたハンマーがついていて、状況に応じて突く、切る、叩くの攻撃を使い分けることができます。攻撃範囲も広く、使いこなせればかなり強力な武器です。

あと、説明しそこねてましたがギリアンの武器が替わっています。最初に持っていたカトラスはエリオラの攻撃を捌いたときにボロボロになってしまったので、いまはシミターという剣を二本装備しています。シミターは薄い片刃の曲刀で、使い勝手はカトラスと似ています。見た目はアラビアンナイトに出てくるやつと言えば、なんとなくわかっていただけるでしょうか?

他にも色々説明が足りてない気はしますが、とりあえずこんなところで。

あと、下の☆☆☆☆☆で5段階の評価をつけてくださると、とてもうれしいです。

よろしくお願いします。






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