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48 右腕の封印


「第二中隊は西門前を掃討! 残りは行政区前に布陣だ! 中の魔物は冒険者に任せろ! 急げ!」


 クレイドは声を張り上げて指示を飛ばした。

 石舞台の上に現れた魔方陣がブラフであった場合のことを考えると記念碑の防衛を放棄することに躊躇していたが、統率された動きを見せていた魔物の動きが突如として乱れ、戦場を逃げ出す魔物が多く現れるに至って、クレイドはようやく封印が解かれたことを確信した。


 魔物使いたちは封印されていた超獣合成体(メガキメラ)とやらのコントロールに集中するため、他の魔物の支配を解除したのだろう。


バリスタ(弩砲)を集めろ! 城壁に設置してるものも、中央記念碑に照準を合わせるんだ!」


「おい、クレイド! どうなってる!」


 前線にいたギリアンがクレイドのところに駆けつけてきた。


「ギリアンか……どうやら封印が解けてしまったようだ」


「なんだと!? いったいどうやって……」


「どこからか触媒を放り投げられた。 気づいたときには、もう魔方陣が完成していた」


「なんてこった……仕方ない、俺も迎撃に加わるぞ」


「すまない、助かる!」


 クレイドは感謝の言葉を告げると、いそいそと兵団の指揮に戻った。

 ギリアンが冒険者ギルドに目を向けると、二階の会議室からヘンケンがこちらを見ていた。剣を交差させて合図を送ると、ヘンケンは頷いて奥に姿を消す。

 ギリアンは剣を鞘に納め、煙草を取り出して口に咥えた。ライターで火を点し、煙を吐きながら広場を見渡す。


 空を飛んでいた魔物は散り散りになって、ほとんど残ってはいない。統率を失った魔物たちは冒険者によって手際よく討伐されつつある。もともとキメラ以外はたいして強力な魔物はいないので、討伐が完了するのも時間の問題だろう。

 問題は超獣合成体だ。封印により弱体化していればいいのだが、あまり期待はできない。

 その開発コンセプトや勇者パーティーでも倒すことができなかった事実から考えると、このゼフトの戦力で討伐するのは困難に思えた。


「まさか、これで見納めになるんじゃねえだろうな」


 ギリアンは眉間にしわを寄せて呟いた。

 ここはギリアンが百年以上に渡って仲間や友人の生と死を見てきた場所だ。それは魔界で過ごす数百年よりも、遥かに濃密な時間だったように思う。

 

「くそっ……俺が、このザマじゃなけりゃあ……」


 そう言って、ギリアンは右腕を押さえた。その腕のなかに、ギリアンは切り札を隠し持っている。だが、それは二度と使わないと決めた力だ。

 『龍槍ゲイボルグ』

 それは魔王アルシアザードから与えられた最悪の武器だった。

 ギリアンの右腕と同化したそれを、ギリアンは魔力のほとんどを使って抑え込んでいた。

 いま、それを出現させただけでこの広場は吹き飛んでしまう。それを使えば超獣合成体でも倒せるかもしれないが、そのときはゼフトが地図から消えてしまうだろう。

 もし、ゲイボルグを再び使うことがあるとすれば、それは魔王城に眠るあの女(・・・)を倒すときだと決めていた。

 ギリアンがゼフトを拠点に選んだ本当の理由は、もし魔王が目覚めるようなことがあれば、いち速く駆けつけて刺し違えてでも倒すつもりだったからだ。

 だが、ギリアンにこの局面でゼフトを犠牲にしてまで自分ルールを押し通すつもりはなかった。


 ギリアンは部下に指示を出しているクレイドに近づいた。


「クレイド、出てきた魔物を村の外に誘導できないか?」


 現在、西門は開放されて部隊が門前の掃討を始めている。それは避難民を村の外に逃がすためだ。


「誘導か……やってみよう!」


 少し考えて、クレイドは了承した。広場に避難してきた民間人以外にも多くの人がまだ村の中には残っている。村の中で戦闘を行えば、どれほどの被害が出るのか想像がつかなかった。

 それならば、魔物を村の外に誘い出して門を閉めてしまえば村を守りながら優位に戦闘を進めることができるとクレイドは考えた。

 ギリアンもゲイボルグを使うのであれば、まずは超獣合成体と一対一になるのが最低条件だった。村人の避難を待ってゼフトごと消滅させるよりも、外に誘き出したほうが手っ取り早い。さらにできるだけゼフトから引き離したいところだが、最悪でも西門の堅固な壁が村を守ってくれるかもしれない。

 ギリアンとクレイド、どちらの思惑にも合致した提案だった。


 クレイドは早速、西門前の通りに部隊を移動させはじめた。



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