38 デモンズウォール2
「どういう状況だ?」
ギリアンはギルドの会議室に戻るなりヘンケンに訊ねた。一階の酒場で警備兵団の兵士とすれ違ったので、もう報告は入っているだろう。
「現在、村は魔物に取り囲まれているよ。 村の中でもオークやゴブリンが確認されているが数は不明。 南門が破壊されたそうだ」
「なんだと!?」
「そちらは警備兵団が部隊を向かわせているが、我々の仕事は手薄になる他の門の防衛の手伝いと村の中の魔物の討伐だそうだ」
「Dランク以上を出動させましょう。 いま、振り分けのリストを作りました」
キールが各門と居住区の各エリアにどのパーティーを向かわせるのかを記した紙をヘンケンに渡した。
「レイムスとガトリックのパーティーは広場で待機させます。 ギリアンもここを動かないでください。 警備兵団がいるとはいえ、万が一にも広場を落とされるわけにはいきませんから」
「わかった」
「それと、冒険者殺しとは接触したのか?」
ヘンケンがギリアンに訊ねる。
「ああ、戦闘になった。 いまカイトが追っているが、行方不明だ。 例の、酒場の地下への扉にカイトが入っちまったようなんだ。 俺が追いついたときには、扉は塞がっていた」
「あそこが開いたのか……。 カイト君も心配だが、いまはどうにもできないな」
「わかってる。 簡単にやられるようなやつじゃあないんだが……」
ギリアンは言葉を呑み込んだ。最初に見たときから、あの扉には嫌なものを感じていた。
「いまは緊急事態だ。 みんなに指示を出してくる」
ヘンケンはそう言うと、キールを連れて部屋を出ていった。
◆◆◆◆◆◆
「ホーリーレイン!」
聖水の雨が降り注ぎ、亡者たちが苦しそうにもがく。何体かはそのまま闇の中に沈んで消えたが、すぐに別の亡者が現れる。
「いくら倒しても、きりがないな………」
カイトは退がりながら呟いた。色々と試してみたが、亡者それぞれを倒すのは難しくはない。だが、いくら倒しても新しい亡者が現れ、闇の壁の進行は止まらない。壁の速度は少しずつ増しているようだ。残りのMPにもあまり余裕はなかった。
ベルトポーチからユキの光魔法がかかったナイフを取り出して闇に投げつけた。
輝く光は闇の壁に触れると、かき消すように消滅した。
(やっぱり、普通の闇じゃない。 向こうは別の世界だと思ったほうがいいな)
退がりながら、通路の終わりが近づいているのをカイトは感じていた。時間、MP、手段、できることは、もう残り少ない。
バックステップで距離をとると、短剣を逆手に構えた。
「瞬迅剣!」
勇者剣術の基本技だが、素早さを攻撃力に上乗せできるという特性からカイトの最大の攻撃技である。これでダメなら、もう倒す手段はない。
踏み込みながら短剣を振り抜くと、凄まじい斬撃と衝撃波の嵐が吹き荒れた。
切り刻まれた亡者たちが闇の海に沈み込み、闇の進行が止まった。鳴り響いていた悲鳴も止み、静寂が訪れる。
「やった……のか?」
遠くから悲鳴が聞こえる。
飛ぶような速さで絶叫が迫ってきたかと思うと、闇の中からぞろりと亡者たちが姿を現した。闇が進行を再開する。
「だめか!」
大きく退がったカイトの背中に壁がぶつかった。
滑るように闇が迫ってきて、亡者たちがカイトに手を伸ばす。
「くそっ!」
背中を壁につけたまま、カイトは拳を壁に叩きつけた。
「終わったようだな」
ゲーリッヒは再び出現した通路への入り口を見ながら呟いた。
「ギルフォードではなかったが、あの少年は何者だったのだ?」
「わからんが、十分に厄介な相手だった。 ナギの洞窟の件に絡んでいたかもしれない」
エリオラはそう言うと様子を見ようと通路への入り口に近づいた。
「そこには近づかないほうがいい。 一度動き出した以上、もう私でもあれは止められん。 あれがそこから出てくることはないが、中に入ってしまえば、もう出てくることはできないぞ。 闇の中で永遠に悲鳴をあげ続けたくはないだろう?」
ゲーリッヒの忠告に顔をしかめたエリオラは、足を止めて入り口から離れた。
「そろそろ上では騒ぎが起こっている頃だ。 我々も加わるとしよう。 ギルフォードを始末しておきたかったのだが、鍵は手に入れた。 やりようはあるだろう」
ゲーリッヒはそう言うと、下水道の出口に向かって歩き出した。




