32 ルシアの日常3
「だめでしょう! 走るときは、ちゃんと周りを見て! ほら、謝りなさい!」
村の通りに、ユキの怒声が響いていた。
「……ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさーい」
「ぅ………すまなかった」
『クゥーン』
おじさんの前に整列した男の子たちとルシアが頭を下げる。
朝から村の通りを駆け回っていた犬のコジローと男の子たちとルシアは、川魚の行商に来ていたおじさんにぶつかって転倒させてしまったのだ。
おじさんは桶をひっくり返して売り物の川魚を通りにぶちまけてしまった。
「まあまあ、もういいよ。魚は湧き水で洗えばだいじょうぶだし」
目の前で子供たちと美女が散々怒られるのを見ると、おじさんもそれ以上怒る気にはならなかった。
「ほれ………この者も、こう申しておることだし……」
「ルシアさん………反省してますか?」
「ひっ………し、しておる! それはもう、ふかーく反省しておるぞ」
ユキにギロリと睨まれて、ルシアが青ざめる。
「ほんとうにすいませんでした。売り物にならないお魚は買い取りますので」
「いや、そこまでしなくてもいいよ。子供のしたことだし……」
おじさんは複雑な顔でちらりとルシアを見る。
「そういうわけにはいきませんよ。今日のご飯に使わせてもらいますので、お願いします」
「わかったよ、しっかりしたお嬢ちゃんだね」
深々と頭を下げるユキに、おじさんも妥協をしたようだ。
その後、ユキはおじさんに魚の代金を払い、ボイドさんに事情を説明して魚を預けた。
宿を出ると、ルシアが花壇の端にしょんぼりと座っている。男の子たちは、けろりとした様子で少し離れたところで何やら話していた。
ユキはルシアの横に腰を下ろす。
「迷惑をかけてしまった………申しわけない」
ルシアは下を向いたまま、沈んだ声で謝った。心配したコジローが寄ってきて、ルシアの手をペロペロ舐めている。
「もういいんですよ。誰にでも失敗はありますから。次は失敗しないように気をつけてくれれば、それでいいんです」
「怒っておらんか?」
ルシアは心配そうにちらりとユキの顔を見た。
「はい。もう怒ってませんよ」
ユキの笑顔を見て、ルシアもようやく安心したようだ。
「久しぶりに動いたので、調子に乗ってしまったのじゃ。少し控える」
「それは悪いことじゃないんですよ。ルシアさんが一緒のほうが、子供たちも安心ですし」
「たしかに、わしがもう少し気を配っておれば、未然に防げた事故ではあったか……」
「ルシアねえちゃーん! いまから果樹園に行くから、一緒に行こうよ」
男の子が声をかけてきた。ルシアは伺うようにユキの顔を見る。
「どうぞ、いってらっしゃい」
「うむ」
ルシアは子供のように笑うと、男の子たちと通りの向こうに走って行った。
「みんな、元気かなあ……」
ユキはルシアたちの後ろ姿を見送りながら、田舎に残してきた弟や妹たちのことを思い出していた。




