24 ダンジョン無双
カイトはオークの群れに突っ込むと、狭い洞窟の中を縦横無尽に跳ね回った。銀光が煌めくたびにバタバタとオークは血飛沫を上げて倒れていく。
ほんの数秒のうちに二十匹ものオークが全滅していた。
カイトは地面に置いていた松明を拾い上げた。火はついておらず、代わりに出掛けにユキにかけてもらったライトの魔法の光がその先端に煌めいている。
すぐに洞窟の奥から地響きのような足音が迫ってくる。松明を掲げると、さらに大群のオークが目を赤く光らせて押し寄せてくるのが見える。
「うーん、なんか思ってたのと違うんだよなあ……」
カイトは呟いた。
『ナギの洞窟』は、村から馬で一時間という近場にもかかわらず人気のないダンジョンだった。
理由としては、まずはその地形にある。洞窟は長い一本道で、途中で三又に分かれ、そのどれもが長い一本道だ。どれを選んでも長い一本道ゆえに、前後から魔物の挟み撃ちに合い、初心者パーティーの全滅が多発している。出現する魔物はランクの低いものばかりなので、高ランクのパーティーにとってもあまり旨味がない。そんな理由で、現在はこのダンジョンを利用するパーティーはほとんどいないとの事だった。
近場で人目を気にせずに済むという理由でカイトはここを選んだのだが、ダンジョンの様子は聞いていたのとはずいぶん違っていた。
まず、洞窟に入る前に七匹のアークデーモンに襲われた。パンデモニウムでも戦った相手だが、けっこうランクの高いモンスターのはずだ。
洞窟に入る前だから百歩譲ってノーカンだとしても、中の魔物の数が尋常ではなかった。
ギルドでダンジョンの地図を購入しておいたので、奥の階層に続く分かれ道の正解は真ん中だと知っていた。そこでカイトはまず右と左の道を奥まで攻略して魔物を一掃しておくことにした。
左はとんでもない数のゴブリンの群れで、奥にはゴブリンロードやゴブリンキングまで居た。右に居たのはセブウルフなどの魔獣系のモンスターの群れで、どちらも奥の広い空間にぎっしりと押し込まれていて、ここに住んでいるというより、軍勢が待機しているような感じだ。
そして現在、真ん中の道を進んでいるのだが、あいかわらず魔物の数が凄まじい。
じっくりマニアックに攻略しようと思って買ったゲームがダンジョン無双だった感じと言えば、おわかりいただけるであろうか。
システム画面を開いて確認すると、ダンジョンに入ってからの討伐数は、1000を軽く越えている。
「なんか、詐欺にあった気分だ」
カイトは少し面倒くさくなっていた。
目の前に迫ってきたオークに向かって、大きなモーションで短剣を振り抜く。するとオーラを纏った三日月形の斬撃が飛び出してオークを切り裂いた。
斬撃は止まらずに後続のオークを次々と切り裂いていく。そのまま斬撃は長い一本道の奥まで突き抜け、討伐数が一挙に100ぐらい上がった。
『サブクラス『僧侶』がレベル19になりました。パラメーターが上昇しました。新しい呪文を覚えました』
頭の中にアナウンスが流れる。回復魔法を覚えたかったので、サブクラスを勇者から僧侶に変更しておいたのだ。
すでに覚えている勇者剣術や勇者魔法はそのまま使えるようなので、いろんなクラスのレベルを上げておけば便利そうだ。
しばらく待っていると、またオークの大群が現れる。目の前まで引き寄せて斬撃を飛ばすと、また討伐数が100ぐらい上がる。
ダンジョン攻略を楽しむために、こういうチートな技は封印していたのだが、もうかなりどうでもいい。
オークの群れも、さすがに弾切れだろう。それでもその場に立ち尽くしていると、洞窟の奥からガサガサと足音が聞こえてきた。
「お、きたきた」
ライトで照らした光の中に、人間と蜘蛛を掛け合わせたような肌色の不気味なモンスターが現れた。
六本の長い脚の先には五指を備えた手のような器官があり、細長い頭部は映画のエイリアンを思わせる。それが凄いスピードでこちらに這い寄ってくる。それぞれの分かれ道の先にも出現したので、これで三度目だ。
そいつが弾丸のような速さでカイトに飛びかかってくる。
激突する寸前にカイトは地面を蹴って横壁、天井と蹴飛ばし、きれいな三角形の軌道を描いてそいつの背中から短剣を突き刺していた。
そのまま地面に叩きつけ、離れ際に銀貨を一枚置いていく。
左手を突きだして「落雷!」と叫ぶと天井に発声した黒い雲から太い稲妻がモンスターの背中に置いた銀貨を直撃する。
一瞬、手足をばたつかせたモンスターは黒焦げになり、炎と煙とソウルオーブを噴き上げて力尽きた。
『5000SOPを獲得しました』
三度目となると、弱点やどのぐらいのダメージで倒せるのかもわかっていて慣れたものだ。
魔法の威力もパラメーターが上がっているのでけっこう強くなっている。【超越者】の称号の効果で全ての呪文の詠唱破棄ができるらしく、一瞬で魔法を発動させることができるということもわかった。実戦を積んでおくのは、やはり大切だ。
「にしても、なんなんだ、こいつ」
ぶすぶすと煙を上げて燻っている不気味なモンスターを見下ろしてカイトが呟く。
システムメニューのモンスター図鑑を見ても不明の文字が出てくる。ソウルオーブもアークデーモンの倍ぐらいあるので、かなりの高ランクモンスターのはずだ。
「まあ、いいや。はやく終わらせて帰ろう」
カイトは呟くと洞窟の奥に向かって足を早めた。




