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23 ギリアンとヘンケンの会話


 ゼフトの西門は、いつになく物々しい警備で固められていた。門から広場へと続く通りの両側には駐留警備兵団の兵士が並び、それを迎える広場にも二百名の兵士が整列している。

 三日後に控えた魔王との戦勝記念式典のため、王都から大司祭がやってくるのだ。

 年に一度、大陸全土で行われているお祭りだが、ゼフトは実際に魔王と勇者が戦った聖地でもある。辺境すぎて国からの干渉も少ないゼフトだが、年に一度の王国の権威を示す機会でもあり、毎年この式典のために聖職者が王都から派遣されてくる。

 たくさんの護衛を引き連れた豪華な馬車が西門から入ってくると、鼓笛隊(こてきたい)がラッパを吹き鳴らし、広場に集まった観衆が歓声をあげた。


「パンデモニウムがあんなことになってるってのに、呑気なもんだな。本気で式典をやるつもりなのか?」


 馬車から顔を出して観衆に手を振る大司祭を見ながら、ギリアンは舌打ちをした。

 冒険者ギルドの二階にある会議室の窓から、ギルドマスターのヘンケンと並んで広場を見下ろしているギリアンは、フードのついた黒いマントを羽織っていた。


「ゼフトの記念式典は、戦時中でも欠かさずに続けられているイベントだよ。警備兵団の中でも中止にすべきという声は出ているが、王都のほうは聞く耳をもたないようだね」


 ヘンケンは痩せていて学者風の容貌をしている。眼鏡を指で押し上げながら、広場で見物しているギルドの冒険者たちを見下ろしていた。

 ギリアンは広場の隅々に目を走らせる。赤い女魔族の捜索は続けているものの、その行方はわからない。いまも群衆に紛れてはいないかと目を光らせていた。


「パンデモニウムが消えた理由については、見当がつかないのかい?」


 ヘンケンが尋ねる。ギリアンが過去、パンデモニウムに居たことを踏まえての質問だろう。


「パンデモニウムは異次元に籠城しているだけで、まだあそこに在る。どうして籠城してるのかは、見当もつかねえがな。もともとあそこに落っこちたのは、魔心炉のエネルギーが空になったからなんだ。とんでもなく高密度に魔力を圧縮した魔石じゃねえと燃料にならないと聞いている。魔界の設備と技術がなければ作れない代物だ。それが動き出したってことは、外から燃料が持ち込まれた可能性が高い」


「魔界の者が出入りしている可能性があるのか。もしそうなら、この村にも出入りしている可能性があるということだな」


「そうなると、気になるのが魔物の異常行動だ。魔王軍が魔物を尖兵にしていたのは知ってるな?」


「ああ。たしか、魔界には魔物使いというクラスがあるんだよな」


「そうだ。魔族は人間よりも能力が高いが、数が圧倒的に少ない。だから正面から戦うのは出来るだけ魔物にやらせるんだ。ここみたいな辺境の村なんかは積極的に襲って拠点にして、人間の戦力を分散させる」


「魔物使いがここにいるかもしれないのか? あいつら、また戦争を始めるつもりなのかな」


「それは考えにくいんだがなあ……。人間は繁殖力が強いから、人口は二百年前よりも増えている。だが、魔族はそうはいかねえ。前に失った戦力の半分も回復してりゃあいいとこだ。よっぽどのことがない限り、この時期に攻めてくるとは思えねえんだ」 


「狙いがわからんなあ。実際にリディア聖王国の国境で、小競り合いがあったと聞くぞ」


「パンデモニウムが絡んでる以上、魔王絡みとはおもうんだが」


「普通に考えれば、まえの戦争が風化して警備が手薄になった今になって、魔王の救出に動いてるんじゃないのか」


「救出ねえ………」


「違うのか?」


「あれは、元老院には嫌われてたからな」


「元老院?」


「魔界を動かしてる連中だ。魔王は、まとまりのない魔族たちに武力を見せつけて従わせるための恐怖の象徴だよ。魔王アルシアザードは元老院を無視して好き勝手やっていた。最後のパンデモニウムで特攻なんて、完全な独断だ、イカれてやがる。俺だって本国で待機してたらいきなり城が動き出して、こんなとこまで運ばれた挙げ句に最前線に放り出されたんだからな。ひでえ話だ」


「言うことを聞かない象徴は必用ない、か」


「俺だったら、二度と出て来れねえように城ごと埋めちまう。ちょっかい出すなら、始末できる算段が整ったときだ」


「それか、よっぽど(・・・・)の不測の事態……か」


「結局のところ、いま確定してることはただ城が消えたってだけだ」


「このまま、なにも起きないのが一番なんだがなあ」


 ヘンケンは複雑な表情を浮かべる。


「そう願うぜ。また魔族どもの溜まり場を一回りしてくる」


 そう言うと、ギリアンは窓辺を離れた。


「煙草はいいのかい?」


 ヘンケンは葉巻を取り出して見せた。


「ああ、またあとでな」


 ギリアンは手を上げて部屋を出ていった。残されたヘンケンは、傍らに無表情で直立する秘書のステラに目を向けた。


「いいかな?」


 ステラに手にした葉巻を見せる。ヘンケンの灰皿はステラが管理していた。


「ダメです」


 とりつく島もなさそうな声音に、ヘンケンは渋々と葉巻を懐に戻した。



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