19 はじめてのお使い
「えーと、これはなんでしょうか?」
テーブルに置かれたずっしりとした小袋を見て、ユキは思わず尋ねていた。
「お使いクエストの報酬。銀貨788枚に小金貨2枚。あと、泥棒を捕まえるって依頼があって罠を仕掛けておいたから、上手くいけば明日には金貨2枚が入ってくる」
カイトはいつものように平然と答えた。
「お使い……クエストなんですよね?」
「そうだよ。けっこう大変だったけど、あちこち走り回ったおかげで村の施設とか店の場所はだいたい把握できたかな」
「……お使いクエストでこんなに稼ぐ人、初めて見ました」
力のない笑いが漏れる。泥棒を捕まえるのが『お使い』に含まれるのかは、かなり疑問だ。これだけやればかなり目立ったのではないだろうか。
「明日はダンジョンに行ってみるよ。かなり近場に初心者用のがあったから。ダンジョンとか初めてだから、ちょっと楽しみなんだ」
「一人……なんですよね」
カイトの規格外の強さは知っているが、それでも心配にはなる。もしトラブルがあったときに仲間がいないのは不安要素だ。
「無理はしないよ。朝早く出るけど、晩御飯までには戻るから」
そこまで稼がなくてもいいのだが、カイトも楽しんでいるようなので、ユキはカイトの好きなようにさせておこうと思った。
「本当に、無理はしないでくださいね」
「うん、約束する」
そのとき、部屋の扉をノックする音が聞こえた。ユキが立ち上がって扉を開けると、食堂から聞こえる賑やかな喧騒が大きくなる。この部屋は防音もしっかりしてるようだ。そこには食堂のメニューを手にしたニナさんが立っていた。
「あら、どうしました?」
「今日は食堂があんな感じだからさ、足りない食材が出てきそうなんだよ。だから、あんたらの分は確保しとこうと思って」
そう言ってニナさんはユキにメニューを手渡した。
「決まったら早めに言いにきておくれ。あんたら、ほんとに福の神だよ」
ニナさんはそう言っていそいそと立ち去った。
「そういえばずいぶんお客さん入ってるけど、なにかあったの?」
「それは、ユキの光魔法の成果なのじゃ」
ルシアがベッドから勢いよく身を起こした。それだけ腹筋使えれば心配ないな、とカイトは思った。
「いえいえ、実はルシアさんのおかげなんですよ」
「む? わしはなにもしておらんぞ?」
ルシアは首をかしげてきょとんとしている。
「どういうこと?」
「ルシアさん、今日は一日中店の前の花壇に座ってたんです。そしたら、男の人がどんどん店に入ってきて……。ニナさんが言うには、いま村中ルシアさんの噂で持ちきりだそうですよ」
「ああ、看板娘ってやつか」
「かんばん? 乾パンか?」
ルシアはあまりわかっていないようだ。
「暇なのはわかるけど、ずっと外で景色を眺めてたの?」
「わしは二百年も城の奥に幽閉されておったのじゃぞ。陽が昇って沈むのを眺めておるだけで退屈なぞせぬわ」
「わたしの師匠も同じようなことを言ってましたよ。わたしはまだ、そこまでの境地には至ってませんけど」
封印されていた気の遠くなるような長い年月は、伝説の魔王の心の有り様さえ変えてしまったのかもしれないとユキは思った。
「それよりも、メシじゃ! やはりハンバーグは外すわけにはいかぬ!」
ルシアは目を輝かせてはしゃいでいた。