表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/118

16 ゲーリッヒとエリオラ 


 村の中心部のエリアに入ると未舗装の道は石畳に変わり、中央広場へと続く通りの両側には石造りの店舗や集合住宅が建ち並ぶ。人通りの多さも辺境の村とは思えない賑わいだ。

 行き交う人のなかに赤い装備に身を固めた長身の女の姿があった。先刻、ルシアに大太刀を向けた女魔族だ。

 女は建物に挟まれた細い路地に入ると、いくつか角を曲がり、二階建ての古い建物の前で足を停めた。

 なんの看板も出ていないが、中からは男たちの話し声と焼けたパンや肉の匂いが流れ出てくる。

 女が扉を開けると、中は居酒屋のような装いで、十人ほどの男がテーブルやカウンターに陣取っていた。鎖帷子(くさりかたびら)や革鎧を着込んだ者もいて、いかにも冒険者の集まりといった風だが、客もカウンターの中で働く男も、全て魔族という共通点がある。

 男たちは入ってきた女に気付くと一様に押し黙り、恐れるように目を逸らしている。女は男たちなど目に入らぬというように店の中を突っ切ると奥の扉を開け、中に消えていった。

 男たちは女が消えたのを確認すると、安心したようにひそひそと話しはじめた。


 赤い鎧に身を包んだ女が部屋に入ってくると、ソファーに腰かけ古そうな書物に目を落としていた二本角の魔族が顔をあげた。先日、クランを焼き殺した魔族、ゲーリッヒだ。


「早い帰りだな、エリオラ」


「なんだ、あれは。角無しの腑抜けではないか。とんだ期待はずれだ」


 エリオラと呼ばれた女魔族は憮然とした表情でため息をついた。


「角無し? アルシアザードは大魔法使いだぞ。角ぐらい幻術で隠せる」


「確認済みだ。角があれば斬り飛ばしている。そもそも、隠す意味もあるまい。それにベルキシューとやらを殺したのは、おそらく剣術だ」


「アルシアザードは、もとは奴隷闘士だったと聞くぞ」


「それでも、あいつではなかろう。あいつは私の剣筋がまるで見えてはいなかった。殺気にすら気付いていなかったように見える。そこでたむろしている役立たずどものほうが、もう少しマシな反応をするだろう。報告通りアークデーモンに殺されかけた、ただの角無しだ」


「まあ、アルシアザードが外に出たという説は、元老院も懐疑的だったしな。ならば、ついでに賢者の少女をさらってくれば手間が省けたものを。パンデモニウムの中で何を見たのか、是非とも聞いておきたい」


「そんな雑用はどうでもいい。それこそ、そこの役立たずどもにでもさせておけ」


「まあ、べつに急ぐ必要はないのだがね。パンデモニウムに近いこの村を制圧するのが我々の目的だ」


我々(・・)………か。目的を達成すれば、私を元老院直属に推薦するという話は間違いないのだろうな?」


「もちろん。魔界は大きく動くことになるようだから、こちらとしても優秀な手駒は押さえておきたい」


「ふん、約束は(たが)えるなよ」


 エリオラはそう言うと、壁に吊るしていた大きめの皮袋を手に取り背を向けた。


「おや、もうお出かけかい」


「Cランクパーティーの助っ人だ。ダンジョンに入れば……また(・・)皆殺しでいいんだな?」


「ああ、もちろん」


 エリオラを見送ると、ゲーリッヒはソファーにもたれかかった。


「ベルキシュー殺しの下手人は謎のまま……か。まあ、いい。まずは計画の随行を急がねばな」


 そう呟くと、ゲーリッヒは立ち上がり、身仕度を整えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ