14 「俺、冒険者になろうと思うんだけど」
「俺、冒険者になろうと思うんだけど」
家業を継ぐと信じていた一人息子から突然告白された母親のような顔で、ユキは目を丸くした。隣ではルシアが朝食のスープに浸したパンを頬張るのに夢中になっている。
「え、えと……どうしたんですか、急に?」
「いや、急にというか、収入がないと身動きがとれないだろ」
「あ、それでしたら宿の仕事が終わったら、わたしが働きますから。カイトさんはルシアさんを診ててください」
うん、こいつは男を駄目にする女だ。どうしてこいつは魔王と召喚英雄を養う気満々なのだろうか。
「それって、世間一般でヒモって言うんじゃない?」
「そう……なんですかね?」
「そうだよ」
「でも……稼ぎに出てる英雄さんの帰りを待ってるっていうのも、なんか変な感じですよね」
なぜ頬を赤らめる。
「とにかく、ユキは一人で頑張りすぎだから。今後のこともあるし、俺も冒険者になっておいた方がなにかと都合がいいと思うんだ」
着いたばかりの町や村で、すぐに仕事にありつけるというメリットは大きい。ユキも冒険者だが、後方支援の賢者が単独で受けられる仕事には限界がある。
「そうじゃ、ユキは体を休めるべきじゃ。カイトはすることもなくフラフラしておるぐらいなら、食い扶持のひとつでも稼いでくるがよい」
おまえがそれを言うのか。
「まあ、最初は『お使いクエスト』からやってみるよ。晩御飯までには戻るつもりだから」
そう言うとカイトはさっさと身支度を済ますと、ふらりと宿を出ていった。