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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第九十六話 三つの助言

『お前たちはどうして今になってこのような場所にやってきたのだ。もうアスタル様の慈悲が届くことのない、この忘れ去られた地に』

「俺たちはこのダンジョンのどこかにある鍵を探しにきただけだ。それ以外のことに興味はない」


 訊かれたことだけを答える。

 今は敵対する意思を見せていないラギウスだが、完全に信用してはならないと直感が囁いている。

 今まで鍵の守護者さえも一撃で葬り去ってきた【即死魔術】が、どうしてか効く気がまるでしない。倒せるイメージが一切湧かないのだ。こんなことは初めてだった。


 ──この竜は危険だ。

 ()()()()()()()()()()()()


『それはお前にとって大切な物か?』


 大切かどうか。

 そんなことを聞いて一体何になるのか。

 ラギウスは鍵の存在を知っているはずで、あえてそれを問うてくる真意は何だ……。


「大昔に作られたらしい品だ。特別な力が宿っている。誰かが持ち去っていなければ、ここにまだあるはずだ」

『質問に答えていないな。お前は何故それを求める』

「俺が強くなるために必要だからだ」

『強さとは何だ。強くなったところで何が得られるというのだ。この世界の王にでもなるつもりか』

「強くなることが俺の目的だ。それ以外のことはどうだっていい」

『……なるほど。ただ破滅に向かって突き進むのがお前の望みというわけか』

「そんなことはありません。アークさんは自分が持つ力を常に正しいことのためだけに使ってきました。それはこの国の王女である私、メルレッタが保証します」

『正しいことだと? 正しさとは一体何だ。()()()()()()()()()()

「えっ……」


 ラギウスはメルを見つめ、それきり黙ってしまった。そうして静寂の後、僅かに陽の光が差し込む岩の天井を仰いだ。


『……お前たちの探している物に関係があるかどうかは知らぬが、近頃この山の上の辺りをうろついている者どもがおるようだ』


 この炎熱回廊の奥に進むことができるような人物について、思い当たるのは。


「どんな外見をしていたか覚えているか?」

『不吉な影を纏ったかのような鎧の騎士だ。それに追従する人間が二人、ホムンクルスも一人連れていたな。そこの娘とは別種だったが』

「……バルザークでしょうか」

「そうだろうな」


 鎧の騎士はバルザーク、獣人はあの猫人族の少女に違いない。残る二人も奴のパーティメンバーだろう。

 やはり彼らもクレティア国王から依頼を受け、このダンジョンにある炎熱の鍵を回収しにやって来たのだ。


 ……しかし、それにしては妙だ。

 ボルタナでバルザークを見掛けてから、あまりにも時間が経ちすぎているのだ。

 俺が初めて冒険者ギルドを訪れた日から数えれば既にひと月を超えている。トラスヴェルムや流水洞穴で鉢合わせしていないことから考えると、ボルタナからメティスに直行したか、あるいはどこかに寄り道をしていたか。


 しかもバルザークはあの時ボルタナにいたのに緑翠の迷宮は手つかずのままだった。下層に入るための扉を守っていたゴーレムが倒されていなかったことからもそれは明らかだ。


 しかしなぜ?

 わからないことだらけだ。

 三つの鍵をすべて得るためには、守護者を倒して次のダンジョンに向かう必要がある。一箇所に留まる意味はない。


 ──だとすれば。


「バルザークたちはまだ鍵を手に入れていないのかもしれない」

「そうですね。本に書かれているとおりならば、守護者は並の冒険者では倒せない強さのはずです。勝つための方法を模索しているのかもしれません」


 守護者は確かに強い。リュインですら手も足も出なかった。だからバルザークたちも勝てないと考えるのは不自然ではない。緑翠の迷宮にも行ったが、そもそもゴーレムに勝てなかったからメティスに移動した……この推論なら成り立つように思う。


『望むなら、我がお前たちを頂上まで運んでやろう』


 それは唐突で意外な提案だった。

 ラギウスは俺たちを炎熱回廊の最上階まで運んでくれるという。モンスターが人間を助けるというのか。


「手助けしてくれるのか?」

『些細なことだ。人の身であるお前たちにとっては、過酷な溶岩地帯を進むよりは楽であろう』

「どうして俺たちを助ける?」

『ただの気まぐれだ。深い意味はない』

「待ってください! あなたは鍵のことをご存知ではないのですか? 何か知っているのなら、私に教えて──」


 メルも俺と同じように、ラギウスが何かを隠していることに気付いたらしかった。

 しかし──


『知らぬと言ったはずだ。それとも余計な詮索をしている時間がお前たちに残されているのか?』

「私はあの鍵を一体誰が、何のために作ったのかを知りたいのです! だから──」

『問答もよいが、ぐずぐずしていると我の気も変わるかもしれんな』

「……メル、もういいだろう」

「でも!」

「俺たちの目的は鍵を集めることだろう。話を聞くのはその後でいい」

「……はい」


 メルは胸の前で拳を握り込みつつも、しぶしぶ了承してくれたようでそれ以上何も言わなかった。

 重要なのは鍵の探索で、それは俺にとっても、メルにとっても変わらない。

 それに、どうせラギウスはきっと俺たちの質問には答えてくれない。答えられない理由があるのだ。それが何なのかまでは知らないが。


『決まったようだな。ではそこで待て。送り届けてやろう』


 ラギウスが両眼を閉じると、足元の地面に見慣れない紋様が浮かび上がった。魔術の一種だろうか。チェスターが使っていた転移魔術のスキルと似たような力なのか、そうではない何か別の仕組みによるものなのか、定かではない。罠である可能性ももちろんあるのだが……どうしてか、そうは思えなかった。


『一つ、我からお前たちに言葉を贈ろう』


 ラギウスが言った。


「言葉?」

『なに、助言のような物だと受け取ってくれればよい。強制力も何もない、単なる戯言だ……最初にアーク』

「……何だ」

『お前がもしも強くあろうとするならば、一度も迷わずに、最後までその意思を貫き通すのだ』

「どういう意味だ」

『戯言だと言ったはずだ。意味などない』


 相変わらず一方的な物言いだった。

 問いただしても、どうせ答えてはくれないだろう。


『次にホムンクルスの娘よ。お前は先程我が言ったことをよく考えることだ』

「……さっき?」


 それまでずっと俯いていたファティナが顔を上げた。その表情は暗い。先程のラギウスの話を真に受けているのだろうか。


『最後にメルレッタ』

「はい」

()()()()()()()()()()()()

「何も? それはいったい──」

『言葉のとおりだ』


 やがて紋様が明滅を始めると、燐光が溢れ出し周囲の景色が歪み始めた。


『我はアスタル様の信徒としてこの地を護り続ける。もしもお前たちが目的を果たしたならば、今一度会うことになるだろう……。さあ行け。行って、為すべきことを為すのだ』


 最後の声が聞こえると、次の瞬間にはラギウスの姿は霧のように掻き消え──目の前には、赤々と燃えるあの火山の内側の風景が広がっていた。


 転移による影響か、軽い目眩を覚える。

 見渡せば、眼下には少し前に俺たちが見上げていた炎熱回廊の内部が見えた。ドレイクは一匹もおらず、溶岩の流れ落ちる音だけが耳に入る。


 こんなにも容易く──俺たちはラギウスの力によって炎熱回廊を突破していた。


「う……ここは……?」


 ファティナが頭を振りながら弱々しく呟く。


「回廊を抜けたようですが……あのラギウスさんは結局何者だったのでしょうか」

「さあ、俺にもよく分からない」


 三人の中で最も知識を持っているはずのメルが知らないのなら、俺に分かるはずもなかった。

 そもそもチェスターの転移魔術では流水洞穴に入ることができなかったはず。それなのに、ラギウスは軽くやってのけてしまった。

 俺たちの知る理から逸脱してしまっている力。それはまるで、この鍵のような……。


「本当に鍵の守護者ではなかったのでしょうか?」

「本人が知らないと言っているのだから、違うんだろう」


 ラギウスは何故俺たちに手を貸したのだろうか。

 その意図するところは、もう分からない。


「……先に進もう」


 ここまで来たからには、もう後戻りはできない。

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